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<こんなに道がぐねぐねしてたっけ?>



と思うような険しい坂をアクセルをふかして登っていった先で何となく『高原』とでも言うべき違う雰囲気の直線に出てくると、目的地は近いなという感覚になる。



「あ…」



その辺りにロッジのような建物が見えた時、マリアさんは何か気になる事があったらしい。



「どうしました?」



「あ…いえ」



色々な看板が見えてくるのもこの辺りだし初めて来た人なら何かを思うのも自然だし、その時はそのまま先に進んだ。知らない人が『岳温泉』という名前でどんな場所を想像するのかは定かではないが、坂を上り切ってホテルを始めとした建物が並ぶ平坦な道に出てきた時には何となく雰囲気が分かってくると思われる。



「へぇー、オシャレですね!ビューティフォー」



「街並みと言うか、整っている感じで綺麗ですよね」



そのまま道なりに進んで行くと十字路の手前で信号が赤に変わり、



「そこから左に曲がるとまた坂になっていて、旅館が並びます」



と説明。実際子供の頃こ家族でこの何処かの旅館に泊まった事があり、その時は近場なのに全然違う場所に来てしまった感が凄くてテンションが上がっていた記憶がある。今では地元を離れた弟とこの坂道の店を見て回ってお土産を探していたりしたが、その時のキーホルダーなんかは探せば家の何処かに眠っているかも知れない。



「車は何処に停めるんですか?」



「すぐそこですよ」



色々なエピソードを思い出しているうちに信号が変わり左ではなく右に曲がり、直ぐに少し狭い道に入り銭湯、駐在所を過ぎた所でややスペースのある場所に。そこは駐車場として利用されているらしい場所で、そこから今通り過ぎた温泉に歩いて向かったりもする。年齢的なものだろうか念に数回猛烈に温泉に入りたくなるとここにやってくる。銭湯はかなり年季の入った造りの建物で、レトロな感じなのも今では失われつつある何かを思い出させてくれていい感じである。



とそこで私はある事に思い至った。



「そう言えば、マリアさん今日は温泉に入るんですか?俺は一応準備してきましたけど」



車を停めてエンジンを切ったタイミングで言ったのだが、



「OH!」



とかなり大きなリアクションが返ってくる。



「どうしました?」



「ここはどういう温泉なんですか?」



何故か神妙な顔で訊ねられた。




「え…普通の温泉ですよ。普通…っていうか、お湯が濁っていますね」



「えっと…その…『混浴』とかでは…」



「へ?」



思いもよらぬ発言に慌てて、



「そんなわけないじゃないですか!!」



と否定したのだが、不意に<むしろ『混浴』だったらどういう話になるんだ?>と考えそうになったのでかぶりを振って必死に思考を打ち消した。



「OH…ソーリー」



二人の間に微妙な沈黙が訪れる。



「あ…そのすいません。と、とにかく一旦外に出ましょう!」



「そうですね」



外に出るとそこそこ標高が高いからだろうか空気が少し違う。晴天に恵まれて散策するにはピッタリと言ったところ。マリアさんも気を取り直したようで、歩いているうちに「あれは何ですか?」と一つ一つ建物を指さして訊ねてくる。



「あそこは観光案内ですね。とりあえず行ってみましょうか」



「はい」



再び先ほどの交差点の所で正面が赤信号になる。信号なんてここぐらいのものだが、岳温泉の中心のような場所だから結構な頻度で信号待ちになっているような、そうでもないような。



「ふふふ…」



マリアさんが何やら思い出し笑いをしている。



「どうしたんですか?」



するとこんな説明。



「さっき『混浴』って言ったのはジョークのつもりだったんです。ほら日本のアニメだと『お約束』みたいなものでしょ?」



「…」



失念していた。確かに彼女との邂逅が『17歳』ネタだったように、マリアさんは色々『嗜んで』おられるのは間違いない。



「…『ネタにマジレス』ってやつですね…古いけど」



「古くなるのは仕方ありません。新しいミームは日々生まれているのですから」



そう言ってまるで何かの上級者のように穏やかな…まるで聖母のような微笑みを浮かべるマリアさん。でも言っている内容が『アレ』だからギャップが凄い。



「実際、俺なんて時代についてゆくのがやっとですよ。若くないんです」



それを言った私は少し遠い目をしていたような気がする。そこで信号が青に変わった。



「NO!まだアマちゃんです!」



マリアさんは前と同じように私の「若くない」という発言を力強く否定して横断歩道を歩き始める。それを立ち遅れるカタチで追いかける。



「アマちゃんですか?」



「『混浴』くらいで焦っちゃダメですよ!」



こちらを向いたマリアさんの表情は悪戯っ子のような、でも頼もしい笑顔。



「…否定できない…」



これには苦笑いするしかない。

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