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正午近くなり、店内に客も増え始めたファミレスで段々と「そろそろかな」という雰囲気になってきたので同席しているマリアさんという女性に、


「じゃあ、店出ますか」



と提案する。その際、「OK」と言ってからアイコンタクトをしながら軽く頷いた様子が自分が何処かで刷り込まれて持っていた『外国人ぽさ』と合致した事に妙な関心というか感動があった。そもそもあんまりにも日本語が達者で所作が周囲と溶け込み過ぎているという事がマリアさんという人となりを表す上で最大の特徴なのではないかと思ったりするが、この時私は彼女のもう一つ特徴をうっすらとだが感じる機会を得る。



会計時、私が半分『遠慮されるもの』と思って何気なく口に出した、



「ここは俺が出しますか?」



という言葉にマリアさんは、



「ええ、いいんですか?サンキューベリーマッチ!」



とやや大袈裟な身振りで喜んで見せた。一瞬呆気に取られたものの、<そこは文化の違いなのかも知れないな>と理解する事にして、マリアさんの分も支払う事にした。マリアさんの注文した品はパスタとコーヒー位なので後で印象も薄れてはいったが、少なくとも『文化の違い』という事は意識しておかなければならないこともあるんだなという理解にはなっていた。




外に出て思いのほか天候も良いという事に気付いて、もう少し何処かに出掛けても良いのかなという気分になる。



「どうします?」



一方で初対面の人をあまり連れまわすのも感情的にどうなのかなという気もしていてややぼやけた問いかけにはなったが、マリアさんはその辺りの事を上手く察してくれたようで、



「そうですね。今日はわたしフリーなので、何処か行ってみたいですね」



とにこやかに答えてくれた。常識的に選択肢を『近場』に設定すると脳内に候補が2、3見つかったがやはりここは一番メジャーな所をという事で、駐車場まで歩きながらこんな風に訊ねてみる。



「マリアさんは歴史に興味がありそうなので、やっぱり市民としてはお城山でしょうね。スマホだと『霞ヶ城公園』で出ると思いますよ」



「知ってます!『Castle』ですね」



発音。



「城…そうですね。城址という表現は英語で…」



外国人を相手に地味に気になる正式な英語表現。咄嗟に自分の中から出てこないのを知り、スマホを用いて「城址 英語」でググる。すぐさま、



『Castle ruins』



という表現が出てきた。試しに『発音ボタン』をタップしてみると女性の声で「キャッスル ルィンズ」という風な、あるいは「キャッスル ルァンズ」とでも表記できそうな言葉が流れてくる。




「ああ、なるほどイメージできました」



このコミュニケーションの成功で、少なくとも文明の利器があれば外国人相手でもそんなに困らなそうだなと思えたのだが、それはそれとして咄嗟に言葉が浮かばないというのは学生時代の勉強がなんだったのかと思わなくもない。とりあえず再び乗車してもらってエンジンを掛けてから、



「ここからだと5分か…10分は掛からないと思うんですけど」



と概算を伝える。この時、何となくBGMがあった方がいいのかなと思い、Bluetoothを利用してスマホの中の曲をシャッフルで再生してみる。最初に流れた曲が爽快なギターで始まるフジファブリックの「徒然モノクローム」だった事は何となく良い感じだなと思いつつ、その勢いのままに車を走らせる。



「お願いします」




相変わらず車内では楽しそうな様子のマリアさん。信号に引っかかる事もなかった為、2曲目が終わる頃には例の急な坂を越えた向こうにあるお城山の駐車場に到着していて、広々としたスペースには某スマホゲームが目的で何台かの車が先にとめてあるのが見えた。来たついでなので自分もアプリを起動させてみたけれど、それを見たマリアさんも私に倣って同じアプリを立ち上げる。



「あ、マリアさんもやってたんですか」



「これを起動させてると観光でも便利」



そう言ったマリアさんは車を出るなりゲームの画面を見ながらある方向に向かって…私が案内しようとした方向とは反対側に向かって歩き出した。



「どうしたんですか?何か珍しいの出てますか?」



ゲームのレアモンスターなのかなとも思ったが、同じモンスターが表示されている筈の自分の画面にはありふれたモンスターしか出現していない。



「ショウネンタイです!!」



「少年隊ですか?」



早足に駐車場のスペースから外れていって、出口からの道路の向こう側のある地点で立ち止まるマリアさん。草の生い茂った斜面の上の位置にある碑が確かにマップされている。アイテムを回収しながら碑の名称を確認すると、



『成田才次郎』




という名が見える。そう言えば確かにここも少年隊の戦死地だったのだと思い出した。



「わたしもじっくり調べたというわけではないんですが」



と言ってから静かに手を合わせて目を瞑っている。自分もそれに倣う形で手を合わせたのだが、この『成田才次郎』という少年の最期は確か中学生の頃に学校で観た資料で知っているし、白黒の映画のワンシーンが記憶の中に残っている。後で検索した結果で大河ドラマでもそのシーンが描かれたという事も思い出し、地元民としては実感は薄いのかも知れないけれどこうして確かに史実が残っているという事は外国人のマリアさんにはどう映るのか、それが気になったりする時がある。彼女の『ショウネンタイ』という言葉には何かの意味が込められているのかも知れない。



「何ていうか、改めてここでアイテムを貰うのは何だか申し訳ないというか、少し複雑な気分になりますね…」



その時感じた私の言葉に対してマリアさんは意外と快活にこう言った。



「でも貰えるものは貰った方がいいと思いますよ!イッツシンプル!」



その辺りは<独特の感性だな>と思いながら、彼女を城の中心に誘導する。

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