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店を出て購入したものを積んだカートを駐車場まで運んでゆく。アスファルトのちょっとした凹凸でガタガタと音を立てているのが微妙な刺激となって先程体験した事をぼんやりさせているようで、今日はゆったりと足並みを揃えて歩いてくれている隣のブロンドの女性も広々とした空間に何気ない様子で視線を漂わせているようにも見える。そういえば今は少し晴れ間がある。密かにその表情に見とれているような『無』になってしまっていたのかマリアさんがちらっとこちらを見た時に、



「タクマくんどうしましたか?」



とやや不思議そうに言われてしまった。



「あ、いえマリアさんが今何を考えているのかな、と思って」



ややこじつけ気味に応えるとそれに対して「ん?」と聞き返すような表情になった。



「ナッシング。何も考えていませんでしたよ」



答えを聞いて<そうだろうな、そういう表情だったもんな>と思った。特に意味があるとは思えないやり取りではあるけれど、逆に考えるとお互いにあまり気を遣うような関係ではないんだろうなという事にも思い至った。そこで思い出したこと。



「あ、そうだ。道路を挟んで隣に別な店があるんです。そこに喫茶店があったと思うんですよ」



「カフェですか!?いいですね」



「あとそこ、生キャラメルとか売っているこの辺りではずば抜けてオシャレな店なんですよ」



「ファンタスティック!行ってみましょう!」



みるみる表情が活き活きしてゆくので選択は間違ってない事を確信。時間的にもそこでランチにするのがベストだなと思われる。停めてある車に荷物を載せ、カートを屋外の返却所に戻して車の元へ。発進してからものの数分で隣の敷地に辿り着く。



「ここも広々としていますね」



マリアさんの素朴な感想。彼女が都会に住んでいた事もあるけれど、それを抜きにしてもこの辺りの土地の使い方はダイナミックで、国道4号沿いで元々農地だったんだろうなとか立地条件がいいんだろうなとか、そう言った地理的な事をマリアさんに説明した方が良いのかどうかちょっと迷ったがこの時は、



「田舎ですからね」



で片付けてしまう事にした。そのお陰でマリアさんの肩を竦めるジェスチャーが見れた。駐車場から店舗へ移動する際に例のゲームで道具を回収するのを忘れない。なんなら一匹ジムに配置できた。



「今1時ちょっと前なので、席は空いてると思います」



その発言通り中はそこまで混雑した様子はなく、席についてメニューを確認するとランチと言ってもパスタとかピザなどの軽めのランチになるので意外と早く提供されそうだなという雰囲気である。店員さんが妙に若かったりして、割とシックな内装もそうだけれど経営者の野心のようなものも伺えたりするのは私だけだろうか?



「綺麗なお店ですね。気に入りました!」



「マリアさんこういう店に来るとやっぱり映えますね」



「サンキュー」



「あれじゃないですか、またSNSに写真を投稿するといいんじゃないですか?」



「そうですね。タクマくん、この店の名前って何ですか?」



「えっと…」



自分の記憶では『製作所』という単語が付く名前の会社が経営しているという事は知っていたのだが、この店舗の名前は気にしてなかったのを白状しよう。店員さんが注文を訊きに来たのでついでにそれを質問してみると、そのままの名前だったのだが店舗は他の場所にもあるらしくここが『大玉』という地名なのでそれを含んだ店舗名もちゃんとあった。ちゃんと『英名』も。



「タクマくんは最近SNSに投稿してないですね」



マリアさんがふとそんなことを言う。そういえば最近はいわゆる『パラレルワールド研究』に取りつかれていたからSNSで語れるような『話題』が無かった気がする。



「話題が無いんですよね…呟こうとは思うんですけど、今みんな色々なネタを考えて発言するから自分のがつまんなく感じちゃって…」



マリアさんの何かを尋ねるような視線を受けつつも浮かんだのはその答え。それに対して躊躇いがちに、



「わたしは…タクマくんがそのまま思った事を言えば良いと思いますよ」



とマリアさんが言うのでちょっと困ってしまった。『そのまま思った事』といっても…。



「そうですよね。確かに…」



マリアさんとの出会いで何かが変わったように感じている自分だけれど、考えてみると私はマリアさんの『問題』というかマリアさんの事に関連して積極的に動いてはいるけれど、殊『自分』の事についてはあまり変わっていないように感じる。『自分の為に何をするか?』というテーマでは、それこそマリアさんに出会ったあの平日の『フリー』な感じが未だに続いている。



『なんでもいい』は『どうでもいい』に接近し、「これ」というものがない。かと言って主体性がないというわけではないと思う。主体的に動いた結果途方に暮れているような、そんなタイプの人間なんじゃないだろうか。




意図せず始まったそんな自己分析のせいか食事が運ばれてくるまで会話は途切れていた。個人的に食べてみたかったピザとマリアさんの注文したパスタが運ばれてきて、ちょっとした義務感でテーブルの様子を写真に収めてそのままSNSに投稿。マリアさんの方は写真に凝った編集をするらしく器用にスマホを操作しながら、



「イイカンジです!」



と目を輝かせている。その姿勢を見ていて思う事があったので言葉にしてみた。



「マリアさん、ちょっと聞いてもらっていいですか?」



「シュアー」



「マリアさんと俺が出会った日覚えてますか?マリアさんに会う前に感じていた事です」



SNSへ投稿が終わったのか、マリアさんはスマホをしまって静かに私の方を見つめている。



「食べながらでいいですよ。冷めちゃいますし」



「そうですね」



「まあ、何てことはないんです。うわ…このピザの匂いが凄い!」



「美味しそうですね」



「うん。チーズが全然違いますね!すげぇや。あ、んで、話の続きなんですけど、俺、今したい事があんまりなくってですね、だからマリアさんの事なのに自分の事のように色々調べちゃったりし始めてると今分析したんですけど仕事は好きな方ですし、それはそれでいいと思うんですけど、マリアさんを見てると自分なりにやれる事はやっておいた方がいいんじゃないかって思うんです」



「うん」



私の話をしっかり聞いているのか或いはパスタが美味しいのか、とにかくマリアさんは頻りに頷いている。



「でも…」



「でも?」



フォークの動きを止めるマリアさん。熱々のピザに苦戦しながらもなんとか一切れを食べ終わってから言葉を続ける。



「この歳になってるんですもん、そんなにすぐに見つけられるわけないじゃないですか」



「そう?」



「そうなんです。占い師さんもマリアさんも俺に対しては『テイクイットイージ』で一致はしてると思うんですけど、でもちょっと俺がこんなに本気になるのはやっぱり「それ」に興味があるからなんだと思います」



「「それ」って?」



自分で説明してここで思わず行き詰ってしまった。私が今熱中している「それ」って何なのだろう?突然ある一つの結論に到達して自分でちょっと驚愕している。対してマリアさんはちょっと真剣な眼差しをこちらに向けている。



「あ…そうだ俺、『マリアさんに』興味があるんだと思います」



「ホワッツ!?ドユコト?」



マリアさんが食い気味に。



「いや、考えてみたらこんな田舎ですし、外国人の女性と接するのって恐らく人生で初…学校で会った英語の先生を除いてですが、とにかく人生で初めての経験なんですよ」



「そうなんですか?」



「だから、マリアさんの仕草とか、マリアさんが興味がある事とか含めて俺にはどれも新鮮で、俺がしたい事ってそういう事にすごく関係してるんじゃないかって思ったんです!今!」




この時、私はマリアさんに自分の事について相談をするつもりで話していたという説明をしておきたい。だが意図せざる結果で、何故か自分なりの結論を見出してしまったのである。その喜びによる妙なテンションでマリアさんを見つめていると、マリアさんはちょっと白けた感じで、



「なんか想像してた答えと違うような気がします」



と言って再びパスタを食べ始める。どことなく不満そう。



「え…?違うんですか?」



「オー、シット!!ソーリー…でもタクマくんはもっとシンプルに考えた方がいいです!」



「シンプルって例えば?」



「フォーイグザンプル。美味しいパスタを食べました、そしたら『デリシャス!』でしょ。そのままです。タクマくんはそのピザ好きですか?」



「好きかどうか…はよく分からないですけど美味しいですね」



「オー、マイ、ガー!!」



何故かマリアさんを困らせてしまったようである。

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