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個人的に『行き詰まり』という言葉を用いるのには抵抗がある。たとえ事実上そういう状況であったとしても一度そう認めてしまうと、



<もう駄目だ…>



という気持ちに覆われそうになるからである。マリアさんとの邂逅以降、前よりも世界が広がっているように感じられているのは確かだから余計にその気持ちに支配されたくはないという理由も今はある。けれどこの浅見さん、そこから光を見出してゆくにはちょっとばかり頼りない人間で、気が付くと絶望気味の感情に捉われる事もしばしばな人種である。



自分でもちょっと…いや大分不器用なのだという事は分かっている。休日、自室でネットを駆使しながら情報収集に必死になっている私の様子を見て家人は



「どうしたの?」



と声を掛けてくれるが、その説明にも困る状態。考えてもみればマリアさんの事、しかもパラレルワールドが存在するとしてその手掛かりを探す為にこんなに必死になる必要があるのか?書籍をあたったり、複雑な検索キーワードを駆使してみても一向に情報らしい情報に辿り着けないでいる。



<むしろ、そんな情報はこの世には存在しないのでは?>



そう思いつつも、存在しないという事が証明できないという条件だと諦め時に困る。けれど必死になっている理由はむしろマリアさんと会う自然な口実が無いという事なのだという事…。たぶん山崎さんという専門家との出会いも関係しているけれど、知らず知らずのうちに次にマリアさんに会う時には何かしらの手掛かりを見つけて貢献したいなという想いが強くなっているその一方で色々探しているうちに、



<いや…パラレルワールドなんて存在しないんじゃないの?>



という感覚になってしまっているというのが自分的に『マズい』となっている。それが『焦り』となっていたのではないか。後から分析すればそういう『行き詰まり』だったのは間違いない。ほぼ自らの性格の面倒臭さに根を下ろしている現象である。




「ああ…誰か助けて…」



つい口走ってしまったその言葉に呼応するが如く、そのタイミングでメッセージが届く。




『タクマくん、今日時間ありますか?』




対して瞬時に返信。




『時間ありまくります』




という流れで、突如その日に会う事になった。天気は曇ってはいるものの雨は降っていないので出掛けるには好都合な日だったが、この時マリアさんからメッセージを貰わなければ一日中悶々としていたかも知れない。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




場所は変わってマリアさんが入居しているアパートの付近。少し待っているとマリアさんがアパートから出てきて車の所まで歩いてくる。やはりいつもの感じで乗車すると、



「こんにちは!元気でしたか?」



「あ…元気だった…かな…」



「ちょっと久しぶりでしたね」



「そうですね」



という会話が始まる。車を出して、マリアさんが行きたいらしい場所へ向かう。



「わたしの買い物の為にタクマくんにお願いするのも悪いと思ったんですが…」



「いえいえ…暇でしたし」



比較的近場にある倉庫型のスーパーに向かっていた。商品の種類が豊富で百均などもある店だし必要なものは大体そこで揃うだろうという判断である。言われてみれば今の自分はバブル期で言う所の『アッシー』とかそういう話になってくるのかも知れないけれど悪い気はしないどころか、自分から何かに誘ったりするのを躊躇うような人間にとっては『助け』ですらあり得る。



「ほんと、何か手掛かりを見つけられたらよかったんですけどね…」



「『手掛かり』?」



「はい」



信号が赤に変わったので停車。そう言えば今日は音楽ではなくFMにしているのに気付く。



「マリアさんの…たぶんパラレルワールドだと思うんですけど、その手掛かりですよ」



「…調べてくれてたんですか?」



マリアさんが妙に驚いたような声を発していた。



「意外でしたか?」



「いえ…わたしも前から調べてたので。でも見つからないですよね」



「ええ、全然何にも見つかりません」



「イエス。だからわたしはここに引っ越してきたんです」



「え…?」



青に変わったので車を動かし始めるとマリアさんから意外な話を聞かされる。



「わたしもネットとか、本を読んで調べたんです。でも本当に『ジェニュイン』な情報は探しても見つからなかったんです。たぶんだけど、見つからないと思います」



「…」



マリアさんから諦めのような言葉を聞くととても驚きがある。てっきり彼女なら楽観的に<何か見つかるだろう>と思うようなタイプだと考えていたからかも知れない。



「見つからなかった時に「忘れてしまおう」とも思ったんですが…。実際に行ってみようと思って、引っ越す前に何度か二本松に旅行したんです。駅前のホテルに泊まったりして」



「そうだったんですか…」



「そしたらやっぱり夢で見た時の場所とほとんど同じで、でも微妙に違うところもあって…もしかしたらここには何かあるかも知れないなって思ったんです」



「考えてみればそうですよね。ネットとか本にある情報は調べてゆけば大体同じところに辿り着きますし、あんまり見つからないと『無さそうだな』って思っちゃいますよね…」



「それは正しいです。だからタクマくん、気にすることないです」



「ほぇー…」



呆気に取られるというか予想もしてなかった展開なので一度頭を整理した方がよさそうだと思いこの話は一旦これまで。ラジオを聞き流しつつ、旧国道を走る。



「この辺りも夢の中に出てきたような気もしますね」



「俺の家はこちらの方面ですよ」



「今度行ってみたいです」



「ノーコメント」



「えぇー!?」



などとやり取りをしているうちに国道を横切ってに目的地まではもう少しというところまで来ている。



「あの建物ですか?広いですね」



「ここまで来ると二本松じゃなくて『大玉村』なんですけど、この辺りは夢に出てきました?」



「うーん…」



何台も停められそうなほどの駐車場。休日のこの時間は買い物客が多い。まさかここで話が展開してゆくとは誰が想像しただろう。

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