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マリアさんを駅で降ろしてその日は帰宅。家に着いたのが午後の3時過ぎだったのでその日はまだ何かやれそうな気分になっていた。何をするのがいいのかはよく分からなかったが山崎さん宅での事を思い出し、自分なりにマリアさんとのやり取りから分かった情報をまとめてみたらどうだろう?という案が浮かんだ。



・マリアさんの体験


・分かっている事


・山崎さんの意見



などとりあえず箇条書きにして適当な紙に書き出してみる。家族からは少し奇異の眼で見られたけれど、



「今日色んな事があったんだよ」



と説明。書き出してゆくうちにマリアさんの体験については『言葉選び』が大事だなという事に気付く。異世界の体験なのか、単なる予知夢的なものなのかはまだ分かってはいないけれど、先入観でそう記してしまうとどうしてもその後の解釈が引きずられてしまう。実際、いまのところは様々な解釈が頭の中に同居していて、どの解釈でも何となく説明ができてしまいそうである。



<じゃあ俺は個人的にどういう風に感じているのか?>



整理しているうちに浮かんだこの問いは非常に悩ましいものであった。「まだ分からない」の一言で済ませばそれまでだけれど、どちらかというとこれまでSFなどで得た知識が影響しているのか『パラレルワールド』解釈が一番妥当するように思えてならない。もっとも、その次は『単なる偶然』説の方が現実的なんじゃないか、と思えてしまってあれだけ話に付き合っておいて夢もへったくれもない人間だなと呆れてしまいそう。




ただ少し深呼吸をして窓の外を眺め、一歩引いてメモを見つめてみるとこの圧倒的に自然豊かで紛れがないような場所がSF的な世界と繋がってゆくようにはとても思えない。日常とか現実は今も押し寄せてきていて、何なら次の日の仕事の事が意識に浮かんできそうな時刻になってきている。夕方の番組を見て、誰しもが経験するなんとか症候群の後はありきたりの一週間の始まりであろう。どこか醒めている自分はマリアさんの前ではそれこそどこかに消えてしまうけれど、この自分を動かしてゆくのは本当になんというか…



『自分から動いてゆかないと…』




その時、山崎さん宅で感じた事を思い出した。たぶんマリアさんは家に帰ってもマリアさんで、山崎さん夫婦もあんな感じで生活を続けている。期待に応えるという話ではないけれど、自分を変えるとしたらやっぱりその自分の中に生じた言葉からなんじゃないか?




もう一度息をスーッと吸って、SNS上のマリアさんからのメッセージを読み返す。二本松に来てから慣れない事があるだろうけれど、面白いものを見つけると画像付きで送って来てくれたりしたけれど、自分からもこういう風に積極的に見てもらいたいものを送ってもいいんじゃないだろうか。




『あ…そういえば…』




そこで私が気付いた事。基本的な事のはずなのに、私はマリアさんと出会ってから彼女の写真をまだ一枚も撮っていない!無頓着というよりは、そういう発想に思い至らないという事が原因なのだが、今日マリアさんに倣うように撮った写真は景色ばかりである。勿論美しい景色だからそれはそれでいいのだけれど、考えてみればそれ以前の写真も人物が映っているものがほとんど存在しない。生物ではないけれど以前行った猫カフェで撮った猫の写真が大量にあったりととてもアンバランス。一応マリアさんのアカウントで載せられている過去の写真を探してみたけれど、やはり年代的にプライバシーの意識が高いのかあるとしても顔は載せていない。



「着物姿…」



顔から下に着物を着て自撮りされたいわゆる『映える』写真はあったり。こういう所からもアクティブな様子は伝わってくるものだなと思う。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





新たな一週間が始まってから、『自分から動いてみる』という事をなるべく意識して生活している。仕事上では特には変化はないけれど、同僚が何気なく言った事に対してほんの少し関心を持って詳しく聞いてみたり、車で通勤しているからと断りがちだった飲みの誘いについても、電車で通うという選択肢で参加してみたり。その際、



「浅見くん、最近なんかあったの?」



と質問されたので、



「まあちょっとした出会いがありまして…」



と答えたら意外な事に職場の人達は喜んでくれた。おそらくは自分と同じように『ネタ不足』というのは誰しもが感じる事で、職場の中でのちょっとした変化というのは清涼剤になるのだと思う。基本的には真面目で物静かな方の人間だと思われているけれど、和気あいあいとした雰囲気は好きな方である。流石にマリアさんの話をダイレクトにするのは躊躇われたけれど、自分なりの『調査』という事で人生経験豊富そうな先輩に、



「いままで不思議な経験とかってあります?」



と訊いてみたりする。その先輩は、



「ああ、不思議な事と言えば…俺の体験ではないんだが、取引先の人がね、少し前によく当たると評判の占い師に運勢を調べてもらったらしいんだ。その人は別にそれを占ってもらいたかったわけではないんだが占い師が凄く驚いて『もうすぐ運命の人との出会いがあります』と言ったそうだ。その帰り道に、その…出会っちゃったらしい。すぐに意気投合して結婚を決めたそうだよ」




という話をしてくれた。



「それは凄い話ですね…」



と相槌を打ったけれど、心の中では『マジか』という言葉が駆け巡っていた。そんなピンポイントに当たるのは逆に怖いような気がしてしまうのは何故なのだろうか。ただ一方で、そういう『占い師』がいるのだとしたら、その人に占ってもらうのも手なのかも知れないと思うようになっていた。一応その占い師について教えてもらおうとしたけれど、その人は県内の色んな場所で不定期に占っているタイプの人らしいという話で、そういえば大型のショッピングセンターの一画で見かける事があるなと思い出した。




マリアさんの話も『オカルト』と言われればそれまでだけれど、自分的にはあまり変な方向に持って行かれたくないという気持ちがある。そもそもが常識人で、先ほどの占いの話についても占いが当たった事よりも『すぐに意気投合して結婚を決める』という事の方がギョっと思ってしまう人間である。そう考えると、山崎さんのようにきちっと色んな研究をした上で学問的に考えてくれる存在に出会えたことは僥倖と言えるなと感じた。





飲みの日の帰りは人気の少ない電車に乗りながら、マリアさんに何かメッセージを送ってみようかなという気分になった。居酒屋で自撮りした写真に、



『マリアさんはお酒好きですか?』



というコメントを添える。降りる駅に近付いてきた頃に返信があって、



『タクマくんも飲んでたんですか?』



というメッセージの後に…職場の人と飲んでいた事が分かる…同じく『自撮り』の写真が添えられていて、



<あ…写真貰っちゃった…>



と思った。白い肌がほんのり赤ら顔に変わっていたその表情を見て、



「これはザルだな…」



と直感した。

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