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第九話 美由紀

「貴志くんは龍夜が担当することになったのよね」


綾姫は仕事の連絡が入っていつものように貴志を連れていこうとしたが担当が龍夜に変わった事を思い出した。


「さて、この仕事はさつきに任せようかな」


綾姫は内線電話でさつきに仕事を押し付けた。


「やっと総司令官らしくなってきたんだけど…

なんだか退屈ね…」


綾姫は仕事の電話が鳴ったら手のあいてる社員に仕事をやってもらっていたため、退屈だった。


「これじゃあたしは強くならないし…

なにより、サボり癖がついちゃうわね…

どうしたものかしら…?」


綾姫が仕事をしてしまうと、仕事の連絡が入ったときに誰かに任さないといけない。


任された人間は綾姫と同じように退屈になってしまう。


なにか良い案は無いものか、と綾姫が考えているときに部屋をノックされた。


「綾姫さん、元総司令官が面会を申し込んできたのですが…」


声の主は佳奈だった。


「え?

おじいちゃんが?

連れてきてちょうだい」


「もう来てるぞい」


綾姫の声と同時に老人の声が聞こえてドアが開かれた。


「久しぶりね」


綾姫は、何しに来たんだこの野郎、と言いたそうな目で元総司令官に挨拶した。


「そんなに怖い顔をしなくても良いじゃないか。

それがわざわざ様子を見に来てやった祖父に対する顔か?」


「勝手に出ていった人が言うセリフじゃないと思うけど?」


綾姫はおじいちゃんを軽くにらんだ。


「まったく、最近の若い娘達は…!

年寄りにはもっと親切にするべきだと、わしは思う」


「で、なんで戻ってきたの?」


「色々あったのじゃよ…

わしが実家に帰ると婆さんはわしに仕事をしろと怒鳴り付けて家から追い出され。

道行く若い娘達に声をかけたがことごとく無視され。

仕返しに尻を触ったら警察に通報されてしまってな…

なんとか釈放されてここに戻ってきたのじゃよ」


「…あきれた。

じゃあおじいちゃんがまた総司令官やってくれるの?」


綾姫は希望に満ちた瞳でおじいちゃんを見た。


「いや、総司令官は綾姫のままじゃ」


「なんでよ?」


「わしが総司令官になってしまうとこの小説の題名が変わってしまう。

なので、わしは仕事の連絡を社員達に伝える役目じゃ。

まぁ、わしが死んだときは佳奈にやってもらえば良いじゃないか」


「…わかったわ。

じゃ、部屋はどうするの?」


「ここになるだろう。

綾姫はどこか、あいてる部屋に移動してもらえるか?」


「じゃあ佳奈の部屋に行って良い?」


綾姫は佳奈に訊ねた。


「はい、もちろんです」


「それから、みんなに伝えといてね。

あたしの部屋は佳奈の部屋に移動したって。

じゃないとあたしに用事のある社員が困っちゃうもの」


「おじいちゃんにまかせなさい」


おじいちゃんは胸を叩いて綾姫に言った。


そのあと、綾姫と佳奈は部屋へ向かった。


「佳奈っておじいちゃんの親戚なんだよね?

確か、仕事がなくて困ってたところでおじいちゃんがここの見張り役として佳奈を採用してきたって聞いたけど」


部屋へ向かってる途中で綾姫は佳奈に話しかけた。


「はい、だから私には能力がないんです」


「それでずっと見張り役を任されたのか〜

あたし達みたいな能力者を佳奈はどう思う?」


「…素晴らしいと思います。

綾姫さんみたいに強い力があって、その力を他人を救うために使うのはやっぱり素晴らしいと思いますよ。

犯罪に走ってしまう能力者達はしょうがないと思ったりもします。

今まで普通に生活してきた人にいきなり強い力が目覚めたら、正気を保てるはずがないですし」


「そうね。

あたしもそうだったし。

周りにおじいちゃんっていう化け物じみた能力者がいたのに、能力に目覚めたときは勝てるかもしれないと思って何度も挑戦したりしてたからね」


やがて二人は部屋に到着した。


「佳奈の部屋は確か佳奈を入れて三人だったよね?」


「はい、私じゃ新入社員に戦い方を教えることは出来ないので」


「ちなみに、誰と一緒だっけ?」


「さつきさんと、新しく入った美由紀みゆきさんです」


「さつきと同じ部屋だったのね」


綾姫はため息混じりに言った。


「嫌だったんですか?」


佳奈は落ち込んだようにため息をはいた綾姫に訊ねた。


「別に嫌ってわけじゃないわ。

ただ、またからかわれるのかと思って」


「さつきさんは人をからかうのが好きですからね」


綾姫と佳奈はしばらく笑いあった。


「あれ?なんで綾がここにいるの?」


仕事から帰ってきたのか、さつきと見知らぬ女性が部屋にはいってきた。


「あ、うん。

おじいちゃんが戻ってきたからこの部屋に引っ越してきたの。

で、その人が美由紀?」


綾姫はさつきの横に並んでいた見知らぬ女性を見ながら言った。


「そうよ、これが美由紀。

って、なんで名前知ってるの?」


「さっき佳奈に聞いたから」


「あら、じゃあ美由紀、綾に挨拶しなさい」


さつきは美由紀を綾姫の前につきだし、挨拶をさせた。


「あ、あたしの名前は美由紀です。

よろしくお願いします」


美由紀は綾姫にお辞儀をした。


「あたしのことは知ってる?」


「はい、総司令官の白木綾姫さんですよね?」


美由紀は面接の時に綾姫に自己紹介されたので覚えていた。


「改めてよろしくね、美由紀」


綾姫は右手を差し出した。


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


美由紀も右手を差し出し、二人は握手をかわした。


「一部屋に4人いてもそんなにきつくはないわね。

あたし、ベット使って良い?」


「良いよ、あたしは床に布団敷くから」


どうやらベットはさつきが使っていたようだ。


さつきは綾姫にベットをゆずって床に座った。


「は〜、なんか良い匂いがする」


綾姫はベットに顔を押し付けて匂いをかいだ。


「おやじか、あんたは」


さつきの突っ込みで部屋の住人はしばらく笑いつづけた。


平和だった。


「美由紀はなんでここに入ろうと思ったの?」


笑いがやんで部屋が静かになったとき、綾姫は唐突に美由紀に訊ねた。


「私のお兄ちゃんがここに所属したっていうのを小耳に挟んでちょっと前からこの会社に入りたいな、って思っていたときに社員募集のポスターを見たんです。

それでここに来ました」


「そうなんだ〜

で、お兄ちゃんって誰?」


綾姫は美由紀に訊ねた。


「氷室龍夜っていう名前なんだけど」


美由紀はさらりと言い放った。


「………」


部屋は一気に静まり返った。


「えぇぇええええ!?」


美由紀を除いて部屋の住人は驚き、声を揃えて叫んだ。


「まさか龍夜に妹がいるなんて…!」


綾姫は驚きながら言った。


「兄弟なのに全然似てないね」


さつきは龍夜の顔を思い出しながら言った。


「実力はどうなんですか?」


佳奈は美由紀に訊ねた。


「お兄ちゃんには手も足も出ません。

昔から強かったんですよ、お兄ちゃん。

能力に目覚めるのが早かったですから」


「いつ頃、龍夜は能力に目覚めたの?」


綾姫は間髪入れずに訊ねた。


「確か2歳の頃です。

あたしが生まれる前には能力に目覚めてたってお父さんから聞きましたから」


「2歳で能力に目覚めたやつなんて聞いたことないわ…

あいつの力が強いのはそのせいかしら…?」


綾姫は一人で考えた。


「お父さんも凄く強かったんですがお兄ちゃんが5歳になったときにはすでに抜かれちゃったって言ってました」


「じゃあさ、美由紀のお父さんもここにいれようよ」


綾姫は提案した。


「………」


しかし美由紀は黙り込んでしまう。


「……どうしたの?」


綾姫は急に黙り込んだ美由紀を心配して声をかけた。


「……お父さんは殺されたんです」


美由紀はボソッとつぶやいた。


「え…?」


綾姫もさつきも佳奈も、美由紀の一言に驚いた。


「だ、誰に…?」


綾姫は恐る恐る訊ねた。


「……お兄ちゃんが…

お父さんを………」


美由紀は何かにおびえたように身体を震わせながらゆっくり言った。


「え……?」


綾姫は言葉を失った。


「あたしのお父さんだけじゃなくて、あたし達の住んでいた街を氷付けにしてから、ばらばらにしたんです。

あたしはなんとか逃げたんですが…

他のみんなは全員、お兄ちゃんに殺されました。

あのときの…お兄ちゃんは……

悪魔みたいでした…

これは、今から4年前の事件です」


「あ…はは。

龍夜は4年前に何かがあったのね。

確か、恭子姉さんの両親が龍夜に殺されたのも4年前だから」


「絶対になにかあるね」


さつきも綾姫の推理に同意した。


「でも、お父さんが殺された翌日、あたしはお兄ちゃんの事が気になって家に戻ってきたんですが、お兄ちゃんは何かに絶望したように黙り込んでいて…

あたしに謝ったんです。

父さんを殺してごめん、って。

それから、街に住んでいた人達の親族の方を探してあちこちへ謝りに行くと言って街から出ていきました。

あたしはお兄ちゃんについて行こうとしたんですが、怖くなっちゃってついていくのをやめたんです。

それからあたしはこんなことを考えました。

能力者がお兄ちゃんを操ったんじゃないかって。

気になってお兄ちゃんのあとを探していたら、ここにたどり着いたってわけです」


「……確かに、洗脳の能力は存在するわ。

龍夜はいつ、マスターアビリターになったかわかる?」


「あたしのお父さんが殺された翌日にはすでに紋章が刻まれていました」


「となると、マスターアビリターと同じくらいの力の持ち主の仕業ってことになるわね」


綾姫は冷静に分析した。


「そうだね、翌日にマスターアビリターになったっていうことはすでに龍夜はマスターアビリターに近い力を持っていたはずだからね。

それだけ強い力を持つ者に洗脳の能力をかけるには洗脳する人間に匹敵するか超さなきゃ操れない。

能力者っていうのはおのれが強ければ強いほど能力に対する耐久性があがるからね。

ちょっと分かりづらいわね。

例をあげると、マスターアビリターである氷室龍夜は能力に対する耐久性が凄まじく高いの。

だから能力に目覚めたばかりの素人能力者では龍夜に傷ひとつ与えられない。

龍夜に傷をつけることが出来るのは、マスターアビリターに匹敵する能力を持つ人間か、マスターアビリターを超える能力を持つ人間しかいないってわけ」


さつきは長々と話した。


「つまり、マスターアビリターと同じくらいの能力者じゃなければ龍夜を洗脳するなんて不可能。

正直、龍夜以外にマスターアビリターがいるなんて考えられないわ。

でも、4年前に龍夜は別人のように人を殺したのよね。

本人に聞くしかなさそうだけど…」


「聞きづらいですよね」


「話してやるよ」


不意にドアが開かれた。


「龍夜!?」

「お兄ちゃん!?」

「龍夜さん!?」

「龍夜!?」


皆は声と視線を揃えて部屋のドアを開けた龍夜に驚いた。


「ったく、お前の部屋に行ったらじじぃがいてよ。

お前はこの部屋にいるって聞いたから来てみたら、俺の噂なんてしてやがって」


「あたしに、用事があったの?」


綾姫は龍夜に訊ねた。


「貴志が一人前になったぜ。

あいつなかなか才能あるな」


「そうなんだ…」


綾姫は適当にうなづく。


「あまり驚かないってことは、そんなに俺の過去が知りたいってことか」


綾姫はゆっくり、首をたてに振った。


「じゃあ話してやる。

と、そのまえに、恭子も連れてきた方が良さそうだな」


龍夜はそう言って部屋を出ていき、数分後に恭子をつれて部屋に戻ってきた。


「よし、揃ったな。

じゃあ話すぞ」


龍夜はうえを向いて過去の事を思い出しながらゆっくりと語り始めた。


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