第八話 仲間
「綾、起きてよ!
外が大変よ!」
綾姫は誰かの叫び声で目をさました。
「やっと起きた。
早く外に来てちょうだい」
叫び声の主はさつきだった。
「なに…?
朝っぱらからそんなに慌てて…」
綾姫は眠たそうにしていたがそんなのはお構い無しにさつきは綾姫を連れて外へ出た。
「な、なによ!
なんでこんなに人が集まってるの?」
建物の入り口から外を見た綾姫は驚きの声をあげた。
そこには、子供から大人まで、老若男女問わず人が50人ほど集まっていた。
「どうやら綾姫が貼ったポスターを見て集まってきたらしいのよ。
早く対処してあげてよ、こういうことは総司令官の仕事でしょ?」
そう言ってさつきは自分の部屋に戻っていった。
「あの…
もしかしてみなさんはポスターを見て、集まったんですか?」
綾姫はまず、全員に確認した。
「はい」
みんなは声を揃えて肯定した。
「ということはみなさんは全員、能力者なんですね?」
またしても綾姫はみんなに確認した。
「はい」
当然のようにみんなは肯定した。
「わかったわ。
じゃあ今からみなさんに仕事の内容と、やる気があるかどうか一人一人面接するので並んでついてきてください」
綾姫は総司令官室までの廊下にみんなを並ばせ、総司令官室で一人一人面接した。
仕事の内容を詳しく話して、それでもやる気のある人間は即採用して行ったん家に帰ってもらい、翌日にまたここへ来るようにいった。
子供でもやる気のある人間は即採用。
しかし、子供は親との相談をしてから決めなければならないので後日、親と一緒に来るように言った。
さすがに老人は死なれたら困るので入社をお断りした。
約一時間程で全員の面接が終わり、綾姫はぐったりとベットに寝転んだ。
「なんの騒ぎだ、綾姫」
龍夜はノックもなしに部屋にはいってきてベットに寝転んでいる綾姫に訊ねた。
綾姫が説明しようとすると次から次へと社員が綾姫の部屋になだれ込んできた。
全社員、総勢30程があまり広いとも言えない総司令官室に集まったのでぎゅうぎゅう詰めになった。
「狭いわよ!
説明するからいったん訓練場に移動してちょうだい!」
綾姫の声で、社員達は訓練場へと向かっていった。
訓練場の場所を知らない貴志と龍夜は総司令官室に残った。
「あんた達はあたしについてきて。
訓練場まで案内するから」
綾姫は二人をつれて訓練場へ歩いていった。
………
……
…
「さて、いきなり本題なんだけど」
訓練場に集まった社員達を前にして綾姫はしゃべる。
「さっきの騒ぎはあたしが昨日貼った社員募集のポスターのおかげよ。
だから、さっきの人達は入社を希望した人達なの」
綾姫は丁寧に説明した。
やがて、全てを説明し終えた綾姫はこれからのことについてしゃべり始めた。
「で、あんた達は入社した社員達に戦い方や能力者という存在について教えてあげてちょうだい。
しばらくはベテランのあんた達の世話が必要なはずだからね。
で、一人でも仕事を任せられるようになったら他の人の手伝いをするか、今まで通り、一人で仕事をしてちょうだい。
わかった?」
綾姫の問いに対して反論する者は誰もいなかった。
多分みんなはこう考えているのだろう。
新たな仲間を一人前にすれば自分の休める時間が増える、と。
「あたしの話はこれで終わりよ」
綾姫がそう言うとみんなは満足したように各自、部屋に帰っていった。
綾姫も総司令官室へ帰る。
「よし、明日には新入社員が来る。
あたしも気合い入れなきゃね」
綾姫は総司令官室のベットに座ってそう言った。
直後、部屋にさつきがはいってきた。
「よ、綾。
さっきの綾はなかなか総司令官らしかったよ」
「そう…?」
綾姫は嬉しそうな表情でさつきに聞き返す。
「そうだよ、まさに総司令官って感じだったわ」
「あはは、ありがとね」
「でもさ、まさかポスター貼っただけであんなに集まるとはね〜」
さつきは話を切り替えた。
「そうね、あたしも驚いたわ。
能力者っていきなり能力に目覚めるからさ、犯罪に手を染める人もいれば、周りから化け物呼ばわりされて隠れながら生活したりするひともいるのよね。
で、あのポスターによって隠れながら生活していた人達が集まってきた、って事なんだよね」
「そうね、まぁ仲間が増えて良かったね。
あたし達も嬉しいわ。
そして、綾姫は働きすぎだから、週に2日くらいは休みなさいよ?
綾が休みのときはあたしか恭子姉さんに頼めば綾のかわりになってあげられるし」
「そうだね、あたしも休みが欲しいかも。
なら、みんなの勤務時間をずらして全ての社員に週2日の休みを与えようかしら」
「うん、それが良いね」
さつきは綾姫の意見に賛成した。
「あとは、明日…何人が入社するかって問題ね。
あたしの今日の面接で、ここでの仕事を本気でやるなら、明日のお昼にここに来てもらうように言ってあるの。
いったい何人減るのかしらね…
それに入社してからも仕事の大変さを知って辞めてく人もいるはずだから…」
「今からそんなにマイナスに考えないの。
大丈夫よ、みんなを信じてあげて」
さつきは綾姫に微笑んだ。
「そうよね、ありがとう。
さつきのおかげで、なんだか元気が出たわ」
綾姫もさつきに微笑んだ。
……翌日
「もうそろそろお昼ね」
綾姫は総司令官室で時計を見ながらつぶやいた。
さつき達は仕事で外出しており、総司令官室には綾姫しかいない。
「……(なんか緊張してきたわ)」
綾姫は高鳴る鼓動を必死に押さえて新入社員を待った。
コンコン
ノックの音のあとに佳奈の声がドアの向こうから聞こえた。
「綾姫さん、昨日の方達が来ました。
通しますか?」
「うん、通してちょうだい」
「はい、わかりました」
佳奈はドアを開けずに用件だけを伝えて去っていった。
やがてドアの向こうから大勢の足音が聞こえてきた。
「綾姫さん、つれてまいりました」
佳奈はドア越しにしゃべりかけた。
「入ってちょうだい」
綾姫の声と共に新入社員達はぞろぞろと総司令官室にはいってきた。
「多いわね…
ちょっと入りきりそうにないので訓練場に移動してちょうだい。
佳奈、みなさんを案内してあげて」
佳奈は先頭をきって新入社員達を訓練場へ案内していった。
「さて、あたしも行くとしますか」
綾姫も少し遅れて訓練場へ向かった。
その表情からは喜びの感情がみてとれた。
訓練場についた綾姫が見た光景はざっと30人程の新入社員だった。
初めて集まった時と比べると半分くらいになっていたが、それでも綾姫は嬉しそうだ。
「ここに集まったということはみなさんは仕事内容を知った上で、やる気を失わなかったという解釈をして構わないわね?」
綾姫は新入社員達に語りかけた。
綾姫の問いかけに全員がうなづいた。
「では、みなさんにはこれから能力について、能力者について勉強してもらうわ。
それから、先輩方とチームを組んでもらい仕事をやってもらうわ。
やがては一人で仕事を担当できるようになって欲しいの。
もちろん、そこまで行くのは簡単じゃないわ。
でも、一人で仕事を任せられるようになったら給料は比べ物にならないくらい上昇するので頑張ってちょうだい。
じゃあこれからみなさんの事を面倒見てくれる先輩の部屋に案内するわ」
綾姫は新入社員達の先頭に立ち、一人一人、違う部屋へ案内した。
「さて、これであたしの仕事は終わりね。
あとはみんなが面倒見てくれるはず。
あたしは貴志君の面倒を見なきゃいけないし」
綾姫は総司令官室で佳奈と一緒にいた。
「なんだか綾姫さん、嬉しそうな顔をしてますね」
佳奈は綾姫に微笑んだ。
「そりゃ嬉しいわ。
これであたしにも休日が出来るし、組織として立派になるから」
綾姫も微笑んだ。
「私達が話をすると微笑んでばっかりですね」
佳奈は笑いながら言った。
「そうね、気が付かなかったけど。
佳奈といるとなんだか楽しいわ」
「あたしも綾姫さんと一緒に話をしてると楽しいです」
二人はまた笑いあった。
「今度は女同士の禁断の恋?」
ドアをかすかに開けて除き込んでいたさつきは二人に言い放った。
「違うわよっ!」
綾姫はドアの向こうにいるさつきに言った。
「冗談よ、綾」
さつきは部屋に入ってきて綾姫のベットに腰かけた。
「部屋に人がいたでしょ?
あれがさつきの担当する後輩よ」
「わかってるわよ。
任せといて、すぐに一人前にしてあげるから」
さつきはガッツポーズをとりながら綾姫に言った。
「これからずっと相部屋になるけど女同士だから良いわよね?」
綾姫はさつきに問いかけた。
「問題ないよ、安心して」
さつきは笑顔で言い放つ。
「あ、部屋割りをちゃんと決めなきゃいけないわね。
さつきの所は問題ないけど他の部屋では男女ごちゃ混ぜになっちゃってるとこもあるし。
ねえ、さつき。
部屋割り考えるの手伝ってもらえる?」
綾姫は両手を合わせてさつきにお願いをした。
「そりゃ大変ね。
わかった、一緒に考えよう」
さつきは綾姫の願いを受け入れた。
「さっき確認したんだけど、比率は若干女性の方が多いのよ。
男性が23人で女性が25人いるのよ。
あたしは総司令官室だから女性は24になるわね。
部屋の数はこの部屋を除いて20あるわ」
「うーん。
よし、部屋が丁度偶数だから男子と女子で半分ね。
一部屋あたり二人にすれば良さそうね。
余った人達は教えるのが上手い人とか強い人の部屋にいれれば良いんじゃない?
で、同じ部屋の人同士でチームを組めば混乱もしないと思うし。
どう?これで良いかな?」
「……完璧よ。
すごいわね、さつき
じゃあ今すぐ新入社員達を別の部屋へ案内しなきゃ。
手伝ってもらえる?」
「わかったわ、あたしは女子を案内するから綾は男子を案内して」
「了解」
綾姫とさつきはそれぞれ新入社員達を別の部屋へ案内した。
余った男は龍夜の部屋にまとめた。
余った女は恭子の部屋にまとめた。
「終わったわね。
ありがとう、さつき」
「どういたしまして」
二人はそう言って自分の部屋へ帰っていった。
やがて、仕事から帰ってきた社員達にさつきと決めた事を説明して、自分の担当する新入社員達と同じ部屋で休んでもらった。
担当する数が多い龍夜と恭子は愚痴をこぼしたが、そのぶん給料をあげるということで納得してもらった。