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第十一話 ACG

「ふはははは、凄まじいしもべを手に入れた」


いつの間にか龍夜の目の前に感情操作の能力で龍夜を操った男が立っていた。


「……貴様…!」


龍夜は男を睨み付けた。


「ん?なんだその目は?」


男は龍夜が自分に敵意を向けるはずがないと思っていたので龍夜の目付きに驚いた。


「貴様だけは許さねえ、ぶっ殺してやる」


龍夜は完全に男に敵意をむきだした。


「な、なぜだ…!

ならば、私の能力でお前に喜びの感情を与えてやる!」


しかし龍夜はまだ敵意をむきだして近づいてくる。


「ば、バカな!

私の能力がきかなくなったというのか!」


男は完全に動揺していた。


そして、龍夜の右手にM・マスターアビリターの紋章が刻まれているのを発見する。


「な、私が長年かけて到達出来なかったマスターアビリターにお前はなったのか!?

ゆ、許してくれ」


男は命乞いをするが龍夜は容赦しない。


「人を殺すのはこれが最後だ」


龍夜は冷たく言い放ち、男を氷付けにしてから水蒸気爆発を発生させ、こっぱ微塵に砕いた。


「はは…は…

カタキはとったぞ…」


龍夜はそのまま崩れるように地面に座り込んだ。


マスターアビリターとなった龍夜には並大抵の能力じゃ傷ひとつ与えることが出来ない。


龍夜はマスターアビリターの紋章に誓った。


何者にも操ることの出来ない力を手に入れたのだから、もう二度と人を殺さないと。


この力は、誰かを守るために使う。


お父さんを自分の手で殺してしまった龍夜は、せめて妹だけでも生き残ってくれていると思い続けた。


そう思わないと、自分を殺してしまうかもしれなかったからだ。


死ぬことじゃ何も解決しない。


龍夜はずっと絶望していた。


自分をめ続けた。


自分がもうちょっと早くマスターアビリターになっていたら…


街の住民は自分が殺した…


この街の平和を自分が崩してしまった…


父さんを守るはずだったのに逆に殺してしまった…


こんなことをした俺は許されない。


どんなに謝っても絶対に許されることはない。


悪いのは自分を操った能力者だと言っても信じてくれる人がいるだろうか?


龍夜はこの日、17歳の誕生日を迎えた。


最悪の誕生日だった。


翌日になっても龍夜は一歩も動かず、絶対にうちひしがれ、座り込んでいた。


「お…兄ちゃん…」


背後から聞き覚えのある声がした。


守るべき人間、美由紀だった。


だが、龍夜は首を傾けることすらしないで黙り込んで座っていた。


果てしなく長い沈黙が続いた。


「……ごめん…

父さんを殺して…ごめん」


沈黙を破ったのは龍夜だった。


「え…?」


美由紀はいつもの龍夜に戻っていた事に驚き、謝った事に驚いた。


「父さんを殺してごめん…

許されないと思ってるが、謝らせてくれ…

ごめん、ごめん…ごめん」


龍夜は美由紀に土下座をして何度も何度も謝った。


「もう…良いよ。

そんなに…謝らなくても……あたしは…お兄ちゃんを…許して…あげるから」


美由紀は涙を流しながらゆっくりと龍夜に言った。


涙で龍夜の顔が見えなくなった美由紀には、かすかに光るものが見えた。


美由紀は涙を拭き光の見えた場所を見た。


そこには今までに見たこともない綺麗な紋章があった。


龍夜の右手の甲にあるM・マスターアビリターの紋章だ。


美由紀はマスターアビリターの紋章について何も聞かなかった。


聞くことに意味を見い出せなかったからだ。


聞くだけ無駄だと思ったのだろうか?


「街の人達の親族達に謝りに行かないといけない。

美由紀はどうする?」


「ごめん、あたしは親戚のおじさんの家に行くよ」


美由紀は言いづらそうにつぶやいた。


「そうか…わかった。

仲良く暮らせよ、元気でな」


二人はそこで別れた。


二度と会うことはないだろうと思いながら、それぞれの目的の場所へ向かって歩いた。


龍夜は徹底的に街の住民の親族達を調べて、謝りに言った。


何度も何度も謝った。


何度も何度も殴られたが龍夜は謝り続けた。


龍夜が起こした事件はニュースで取り上げられた。


死傷者157名、犯人は街に住んでいた氷室龍夜。


なぜ犯人がわかったかというと、龍夜が謝りに行った親族が警察に教えたからだ。


警察に追われながらも龍夜は親族を探して謝りに言った。


だが、霧島恭子という名前の親族だけは見つけられなかった。


なぜなら恭子は仕事であちこちに移動していたからだ。


そして龍夜は千葉県に来た。


千葉県には子供の頃に来たことがあった。


龍夜は千葉県に住むことを決めた。




「あとはお前達の知っている話だ」


龍夜はみんなに言った。


「そんなことが…」


綾姫は同情に似た表情を浮かべて龍夜を見つめた。


「龍夜…かわいそう」


さつきも綾姫と同じ表情を浮かべた。


「龍夜さん、苦労したんですね」


佳奈も同じだ。


「あなたにそんなことがあったなんてね…

あたしの両親を殺してどんな顔して生きているのかと思ったら…

まさか…自分の父親も殺させられたなんて…

あたしはあなたを恨むべきなのか、あなたを操った男を恨むべきなのか…」


恭子は複雑な表情を浮かべて龍夜を見つめた。


「どっちでもいいさ、俺があんな奴ごときに操られたのが悪い。

もうちょっと早くマスターアビリターになってればこんなことにはならなかったんだしな」


龍夜は悲しげな表情をみんなに見せた。


「あたしは、龍夜は悪くないと思う」


綾姫はハッキリと言った。


「綾姫…」


みんなが口と視線を揃えて綾姫を見た。


「確かに、綾の言う通りだと思う。

操った男が悪いよ」


さつきは綾姫の意見に同意した。


「そうですね、私も龍夜さんは悪くないと思います」


佳奈も綾姫の意見に同意した。


「お兄ちゃんは悪くないよ。

それなのにみんなに謝りに行って、あたしはそんなお兄ちゃんを尊敬するよ」


美由紀も同意した。


「はぁ…怒りの矛先をあなたに向けるのは間違いだったわね」


恭子も綾姫の意見に同意して、龍夜に頭を下げた。


「ごめんなさい、あなたは悪くないわ。

それなのにあたしは…」


「気にするな、恭子が謝ることなんて何もねえよ」


龍夜は笑いながら言った。


「ってことは今も警察に追われてるってこと?」


綾姫は一つの疑問を龍夜に訊ねた。


「その通りだ、だが顔は知られてないから全く問題はない」


「なんで顔は知られてないの?

親族達が警察に通報したんでしょ?」


綾姫はさらに疑問をなげかけた。


「そうなんだが、俺の写真はこの世に一枚たりとも存在しない。

昔から写真が嫌いでな。

撮られた事がないのさ」


「あらそう、まぁ龍夜が追われる理由なんてないしね。

それから、多分警察に通報されてから能力者犯罪捜査組織の本部か、龍夜が住んでいた県の能力者犯罪捜査組織に連絡が行ったはずだわ。

だから、気を付けてね」


綾姫は丁寧に忠告した。


「了解だ、丁寧にありがとな」


龍夜は綾姫に顔を近づけてささやいた。


その距離、わずか5センチ。


「か、顔が近いわよ!」


綾姫は一気に顔を真っ赤にして龍夜を両手で遠ざける。


「綾姫をからかうのはこれくらいにしておいて、もう一つ連絡があるんだ」


龍夜は一気に真剣な表情を浮かべて綾姫に言った。


「実はな、噂で聞いたんだが…

あちこちで能力者狩り(のうりょくしゃがり)が始まってるみたいだ。

能力を使って犯罪を犯す集団、ACG(能力者犯罪集団)というやつらがな」


「ACG?」


みんな、声を揃えて龍夜に訊ねた。


「ACGとは…能力者犯罪集団の呼び名だ。

それぞれの英語の頭文字をとったらしいが、ネーミングセンスは最悪だな」


龍夜はみんなに言った。


「それは本当なの?」


恭子は龍夜に真剣な表情で訊ねた。


「噂で聞いただけだから信憑性は低いと思う。

だが、もし本当なら大変な事になるぞ」


龍夜はいつになく真剣だ。


「大変な事って?」


綾姫は訊ねた。


「やつらの目的は能力者の絶滅。

そして自分達が神となりこの世界を征服する。

俺もあとで調べて分かったんだが、どうやら4年前に俺を操った感情操作の能力者もACGの仲間らしい。

それも、したっぱだということらしいからな」


「龍夜を操った感情操作の能力者が、したっぱなら、リーダーはとてつもなく強いってことになりそうね」


さつきは冷静に分析した。


「で、それのためにお前達は強くならないといけない。

俺はマスターアビリターだからこれ以上は強くなれないからな」


「一度、本部に連絡をとってみるわ」


綾姫はそう言って総司令官室へ向かった。


「さて、俺達はどうする?

強くなりたいなら俺が修行を手伝ってやるが」


「私は能力者ではないので…」


佳奈は断った。


「そうか、まぁしょうがねえな」


「あたしは強くなるよ。

ACGだかなんだか知らないけど好きにさせるわけにはいかないからね」


さつきはヤル気満々だ。


「あたしでも強くなる?」


恭子は龍夜に訊ねた。


「当たり前だ、お前ほどの能力ならマスターアビリターになったとき、俺と同等くらいにはなるだろうからな」


「なら、修行を手伝って。

犯罪者は野放しになんて出来ないわ。

それに、あなたを操った感情操作の能力者のリーダーを倒すことによってあたしは敵討ちが出来るしね」


恭子は怒りに似た表情を浮かべて、ヤル気満々だった。


「了解」


龍夜は修行を手伝うことに決めた。




「なんですって!?」


綾姫は総司令官室にいるおじいちゃんをどかして電話で本部に連絡をしていた。


「じゃあ本当なんですね?

ACGが動き始めてるって事」


「本当だ。

すでに何ヵ所かの能力者犯罪捜査組織は壊滅状態にされている。

現在入った報告によると、ACGは少数精鋭。

たった一人で能力者犯罪捜査組織に攻め込んだらしい。

すでに何人かは他界してしまったと連絡が入っている。

千葉県の総司令官、白木綾姫。

くれぐれも気を付けてくれたまえ。

こちらはACGの調査をしている。

なにか分かり次第連絡する」


そう言い残して電話は切れた。


「おじいちゃん、大変な事になったわ。

能力者犯罪集団、ACGという者達が能力者狩りを始めているらしいの」


「そうか、ならわしの出番じゃの。

だが、相手はかなりの強者つわものと見た。

わし一人では勝てないだろう。

強い者達を集めろ、早くだ」


おじいちゃんは真剣な表情を浮かべて綾姫に言った。


「わかったわ」


綾姫が総司令官を出ようとしたとき、ドアが何者かの手によって破壊された。


「あんたが総司令官か?

老いぼれじじい。

いや、この小娘か?」


ドアの前に現れたのは目付きが悪く、全身真っ黒の服を来ている長身の男だった。


「……(こいつ…何者…!

近くにいるだけで金縛りにあったように身体が動かない…!)」


「お前さんがACGの奴か?」


綾姫のおじいちゃんは立ち上がり、黒い男に訊ねた。


「その通り、ACGの一員だ。

No.47、漆黒の暗殺者リオンだ」


リオンと名乗った黒い男はどこからともなく剣を取り出した。


「No.47?」


綾姫は訊ねた。


「我らACGのメンバーには強さに応じて番号がつけられる。

番号は全部で50まである。

番号が低ければ低いほど強い」


「ならあんたはしたっぱってことね」


綾姫は挑発した。


「なめんなよ」


リオンは刹那の間に綾姫の身体を数十回切り刻んだ。


「な……綾姫!」


おじいちゃんは何が起きたのか分からなかった。


「刹那の間に47回切り刻んだのさ。

こいつはもう二度と目を覚まさない。

俺の剣技をまともにくらって生き残れる奴はいない」


綾姫はぐったりと倒れていて、身体からはとてつもない量の血が流れていた。


「……我が大事な娘を傷つけた代償はでかいぞ。

わしはこうみえてマスターアビリターに近い実力を持っている」


「あははははは」


リオンは睨み付けているおじいちゃんを笑った。


「何がおかしいんじゃ!」


「笑わせるなよ、マスターアビリターになり損ねた老いぼれごときが俺を倒せると思ってるのか?

俺を倒すどころか、傷ひとつ与えることは出来ないぜ」


リオンは余裕の笑みを浮かべた。


「わしをなめるな!」


おじいちゃんの叫び声と共に白い閃光がリオンの心臓に直撃した。


「ん?今なにかしたのか?」


リオンには傷ひとつついてない。


「バ、バカな!

わしのとっておきが……」


おじいちゃんはレベルの違いを思い知らされて言葉をなくした。


「死ねよ、じいさん♪」


リオンは無邪気な笑みを浮かべて刹那の間に47回、切り刻んだ。


「……(こやつ…強すぎる……

マスターアビリター並みの強さだが…何かが…違う気がする…

もしや…こやつ……精霊の力を…使ってるのか…)」


それだけを頭の中で分析したあと、おじいちゃんの心臓は止まった。


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