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第一話 出会い

「お帰りなさいませ、綾姫様。

お勤めご苦労様です」


仕事から帰ってきた白木しらき綾姫あやひめに対して建物の入り口にたたずんで機械的な挨拶をする女性。


「相変わらず堅苦しいわね。

もっとふざけて挨拶できないの?」


対して綾姫はため息をもらしながら女性に答える。


「お疲れ、任務大丈夫だった?

………これでよろしいのですか、綾姫様?」


さっきとはうってかわって明るい口調で綾姫に挨拶をする。


「……変わりすぎよ、あんた。

まぁ、今度からはそんな感じで頼むわ」


綾姫は態度をガラリと変えた女性に驚いたが、女性の態度に満足して建物の奥へと歩いていった。


小一時間程歩いて、綾姫は一つのドアの前へとやってきた。


コンコン


綾姫はドアに軽くノックを二回する。


すると、中から老人思われる声で挨拶が返ってきた。


「どうぞ」


綾姫はその声を聞くと失礼します、と言いながらゆっくりとドアを開けた。


「ただいま戻りました、総司令官」


「綾姫か、お前はよく働いてくれるな。

わしが引退してもいい頃合いなのかもしれんな」


中に居たのは真っ白なひげを胸の辺りまで生やしたおじいさんだった。


「そ、それは困ります、総司令官。

あ、あなた様がいなくなったら誰が部下をまとめるんですか…?」


綾姫は総司令官と言われたおじいさんの言葉に動揺を隠せなかった。


「お前さんが総司令官をやればいいではないか。

わしはもう、あと何年生きられるかわからん」


総司令官は寂しそうに綾姫に言った。


「そんな寂しい事言わないで下さい、総司令官……いや、おじいちゃん」


「ふぉっふぉっふぉっ。

久しぶりじゃの、お前がわしの事をそう呼ぶのは。

綾姫よ、わかってくれ。

死ぬまでの生活はのんびりと暮らしたいものなんじゃ。

大丈夫、お前なら皆をまとめられるじゃろう」


総司令官……綾姫のおじいちゃんはうっすらと涙を浮かべながら綾姫に優しく笑いかける。


「……おじいちゃん。

わかったよ、おじいちゃんがそう言うなら、あたし頑張って皆をまとめてみるよ」


綾姫は飛びっきりの笑顔をつくってみせた。


「ありがとう、綾姫よ。

じゃあ、この紙にサインをしてくれ。

書き終わった瞬間からお前が総司令官じゃ」


おじいちゃんは手で涙を拭いながら一枚の紙を綾姫に手渡す。


綾姫はもらった紙にサインをした。


「よし、じゃあ頑張ってくれたまえ、総司令官。

わしは女の子とたくさん遊んで最後の人生を楽しく過ごすから」


おじいちゃんはにっこりと笑ってそそくさと歩いて部屋を出ていった。


「………はめられた。

あのくそじじい!

絶対許さないんだから!」


綾姫は握りこぶしをつくって今にも暴れそうな勢いだ。


「まてぇ!

このくそじじい!」


綾姫はそそくさと逃げていったおじいちゃんを鬼のような形相で追いかける。


しかし、時すでに遅し。


おじいちゃんは見えない場所まで逃げていた。


「はぁ…

これからどうしよう」


綾姫は街の真ん中で一人、空を見上げてため息をはいた。


………


……



綾姫はとぼとぼと歩き、さっきまでいた建物に帰ってきた。


「綾姫様、どうかなさったのですか?

血相を変えて走って出ていったので」


建物の入り口にたたずむ女性にまたもや堅苦しい言葉をかけられる。


「はぁぁぁぁ…

どうしたもこうしたもないわよ。

総司令官にはめられて、ついさっきからあたしが総司令官になっちゃったのよ」


綾姫はこれでもかというくらいのため息をはいて女性に言った。


「昇格おめでとうございます、総司令官様」


女性は深々とお辞儀をした。


「おめでたくないわよ!」


綾姫は怒鳴ってずかずかと建物の奥へと歩いていった。


綾姫が総司令官になったことは瞬く間に建物中に広がった。


そして翌日。


綾姫は総司令官室で目覚めると、一人の女性がすぐそばの椅子に腰をかけていた。


「おはよう、さつき」


さつきと呼ばれた女性は椅子をくるりと回転させ綾姫の方へ向く。


「おはようございます、能力者犯罪捜査組織総司令官様」


さつきは長い肩書きで綾姫を呼んだ。


「あたしは好きで総司令官になったわけじゃないのに」


綾姫はいじけた。


「ごめんごめん、でも綾が総司令官か〜

なかなか良いとあたしは思うけどね♪」


さつきはまぶしいほどの笑顔を綾姫に見せた。


「はぁ、これからもっと大変になるよ。

でも、頑張らなくちゃね」


綾姫はガッツポーズをして気合いを入れる。


「その調子だよ!

で、さっそくなんだけど…」


さつきは言いづらそうにもじもじしながら言葉を繋げた。


「事件が起きたから現場付近を探索してもらえる?」


「え、あたし今起きたばっかりなんだけど…」


綾姫は困った顔でさつきを見た。


「あいにく、他の社員達はみんな事件の調査でいないの。

あたしもこれから行かなきゃいけないし」


「はぁ、最悪だ」


綾姫はため息をはくと、着替えてさつきに事件のあった場所を教わり、建物を出発した。


「なんでこう、次から次へと事件が起きるのよ!

でも、退屈しないから別に良いか」


綾姫は事件現場へと車を走らせた。


………


……



二十数分後、事件現場へ到着した綾姫は車から降りてゆっくりと歩き出した。


「こりゃまたひどくボロボロになっちゃってるね〜」


綾姫の視線の先には大型の台風が通り過ぎたようにボロボロになった一軒家があった。


屋根の瓦や家のドアやらがあちこちに飛び散っている。


「風の能力者かしら?」


綾姫はこんな状態を作り出せる可能性のある能力を声に出してみた。


その声に答えるようにボロボロになった家のなかから声が聞こえた。


「ご名答、さすがは能力者犯罪捜査組織、とでも言うべきか」


男性の声だった。


「来ると分かってて逃げないとは、なかなか根性あるじゃない」


綾姫は楽しそうに言った。


「能力者犯罪捜査組織総司令官、白木綾姫。

お前のような能力者と戦いたいから待っていたのさ」


「……(こいつ、あたしのことを知ってる?

あたしが総司令官になったのは昨日の夜なのに)」


綾姫は心のなかでそうつぶやいた。


「なぜ自分の事を知ってるんだ、と言いたそうだな顔だな」


沈黙する綾姫に対して男が言葉を放った。


「……あんた何者?

心のなかを読み取る能力でもあるの?」


綾姫は怒りに似た表情を男に向ける。


「おいおい、そんなに怖い顔をしないでくれたまえ。

あいにく、私には人の心を読み取る力などない。

ただ、私は自分がお前の立場ならこう考えるだろうと思ったことをそのまま声にしただけだ」


男はさらりと言い放った。


「……良いわ、あんたのお望み通り相手してあげるわ。

だけど、その前に一つ聞きたいことがあるんだけど、良い?」


「なんだ?」


「なぜ、あたしの事を知ってるの?

総司令官になったのは昨日の夜なのに」


「それは簡単さ、俺の能力は風。

空気のある場所ならばどこからでも自分の元に声を届けられるからだ。

声は空気の振動で伝わるものだからな」


「そうだったのね、よく分かったわ。

これで満足したわ。

教えてもらったかわりに良いことを教えてあげるわ。

六属性の能力ごときじゃあたしには勝てないわよ、とね。

じゃあそろそろ始めようじゃないの」


六属性と呼ばれる、火、水、風、土、光、闇の能力は他の能力にくらべて攻撃力が低く、決め手にかける。


能力者を相手にする場合、ダメージすら与えられないこともある。


極めれば強くなる可能性はあるが、扱いが難しいため並大抵の修行では不可能に等しい。


いまだかつて六属性の能力を扱いこなした者は誰一人として存在しない。


よって、世間では六属性の能力は弱いと言われているのだ。


綾姫は腰に下げた刀を鞘からゆっくり抜いた。


「お前の能力は把握している。

イレイズブレイド、能力を打ち消すつるぎだろ?

だが、私は遠距離攻撃が出来る風の能力を持っている。

たかが六属性の一つとバカにしたことを後悔させてやる」


男は言い放ってすぐに手を高く振り上げ、一気に降り下ろした。


すると風を切るような音と共に綾姫の腕を軽く切りさいた。


「……目に見えない攻撃っては厄介ね。

でも、あたしのことを甘く見ると痛い目に会うってことを教えてあげる」


綾姫は剣を横に構えて男に向かって走り出す。


「近距離攻撃しか出来ないお前は接近するしかない。

だが、私がそんなことをさせるとでも思っているのかな?」


男は余裕の表情を浮かべて右手を前に出し、風を放出した。


「…くっ!

風圧で前に進めない…!

でも、この剣で切れば風を打ち消すことが出来る事を忘れてんじゃないわよ!」


綾姫は風を切るように目の前の空気を切った。


「ふ、そうでなきゃ面白くない」


綾姫にあたる風はよりいっそう強くなる。


綾姫が切り損ねた風は容赦なく綾姫の身体を切り刻む。


「もう怒った!

本気で戦うから覚悟しなさい!」


綾姫は刀を自分の目の前で華麗に回転させ、風を打ち消しながら男に向かって突進した。


「なっ!

ならば、最大風力でどうだ!」


男は両手を前にだし、全力で風を放出するが綾姫はひるむことなく向かってくる。


「おとなしく捕まりなさい!」


綾姫が男の目の前に到着すると剣で峰打ちをした。


「ぐわっ!

わ、私が…負けるなど…」


バタッ、と音をたてて倒れ込んだ。


綾姫は剣を鞘に閉まって一言。


「任務完了〜」


綾姫は男に手錠をかけた。


「…この手錠……能力封じか…

くそっ…!」


男はガックリとうなだれた。


綾姫は乗ってきた車に男を乗せて車を走らせた。


………


……



「お帰りなさいませ、綾姫総司令官様。

お勤めご苦労様です」


能力者犯罪捜査組織に到着した綾姫に堅苦しい挨拶をする女性。


「あ〜もう!

何度言ったらわかるのよ…!

堅苦しい言葉は禁止!

わかった?」


「わかった〜

これからは注意しま〜す。

だから許してね♪」


女性はおもいっきり明るい声でにっこりと微笑んだ。


「……なんかムカつくわね」


綾姫はボソッとつぶやいた。


「なにか言いましたか…?」


女性は恐る恐るたずねた。


「別になんでもないわよ。

まぁ、これからはあんまり堅苦しくなく、馴れ馴れしくない感じで接してちょうだい」


綾姫は言うことの聞かない子供に言い聞かせるように言った。


「…わかりました」


「あ、それからこいつを牢屋にぶちこんどいてちょうだい。

あたしは部屋に戻って朝ごはんを食べてくるから」


………


……



綾姫が総司令官室にたどり着くとなかにいた女性に話しかけられた。


「あ、おかえり綾〜

帰ってきたところ申し訳ないんだけどまた現場へ向かってくれる?」


さつきだった。


「はぁ…

総司令官になってもやることは一切変わらないのね」


綾姫はため息をはいた。


「まぁしょうがないよ。

能力者の犯罪は全体の80%以上をしめてるんだから」


「はぁ…

しょうがない、か…

まぁ良いわ。

で、今度の事件はなに?」


「レストランが氷付け」


さつきはさらりと言いきった。


「氷付け!?」


「うん、能力を使って店のなかを氷付けにしたらしいのよ。

だから、店のなかにいるお客さん達を助け出してほしいってこと

それと、犯人はまだレストラン内にいるらしいから気をつけてね」


「はぁ…

今度は氷?

多分能力は水ね。

まったく、さっきの風の男といい、なんで六属性の能力者ごときが調子にのるのよ…

……わかったわ、行ってくるわよ」


「綾、最近ため息増えたよね」


さつきはあきれ顔で言い放つ。


「わかってるんだったらさつきも手伝ってよ」


「ごめん、あたしこれから現場へ行かなきゃいけないの」


「……もしかして、あたしに仕事押し付けてサボってたりする?」


綾姫はさつきを軽くにらんだ。


「まさか!

そんなことしないわよ、親友を疑うの?」


さつきは泣きそうな表情で綾姫を見た。


「そんなわけないわよね、ごめん。

じゃあ、あたし行ってくるわ」


綾姫はさつきに適当に挨拶をかわし、建物をでて車を走らせた。


………


……



「うわ〜、見事に氷付けにされちゃってるよ」


現場に到着した綾姫は変わり果てたレストランを見てあきれた。


「ホントだ、まだご飯食べてるじゃない。

あたしもなめられたものね」


レストランの外から見える場所で男性と思われる人物が食事を口へと運んでいた。


綾姫は車から降りてレストランのなかに入った。


「ん?

お前警察か?」


食事をしている男はドアが開く音に気付き、綾姫の方へ向いた。


「似てるけど違うわ。

能力者犯罪捜査組織の総司令官、白木綾姫よ。

あなたが食い逃げ犯よね?」


「似てるけど違うな。

俺は逃げてはいない。

堂々と無銭飲食をしてるんだ」


男は食事を口へ運びながら言った。


「あらそう、なら逮捕しても構わないわね」


綾姫は腰から剣を抜き、切っ先を男に向ける。


「食事くらいゆっくりとさせてくれ」


突如レストラン中に冷気が充満した。


「さ、寒い…」


ガクガクと身震いした。


「食事終了、んじゃしばらくそこで震えていてくれ」


男は立ち上がり、レストランを出ていった。


「く、寒さで剣をふれない…

ひ、ひきょうよ、あいつ…!」


1時間ほどガクガクと身震いしていた綾姫はようやく冷気から解放された。


「あのやろう!

あんな卑怯ひきょうな手を使って逃げるとは!

六属性の能力ごときで〜!

今度会ったら絶対ぶっとばしてやるんだからぁぁぁあ!」


綾姫は誰もいないレストランで叫んだ。


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