???. 少しだけ未来の戦い
空を無数の竜が埋め尽くしている。僕らが中庭へ急ぐと、そこは既に戦場の一画だった。
「ああ、来たかお前たち!」
瓦礫に身を隠し、血を流す魔導士を治療していた女性がこちらに気付き声をかける。
中庭は竜の攻撃によって崩れた校舎がなだれ込んできて、何人かが生き埋めになっているようだ。その影響で壊れた噴水から水が溢れだしていた。現在も動ける人員で瓦礫の撤去を進めているが、思うように進んでいないように見える。
「僕たちはなにをすれば?」
治療を続ける先生に問いかける。
「防壁を張り直すんだ! ミア、レンス、できるな!」
「はいっ!」
「トーマは二人が術を成立させるまでの時間を稼げ、お前が要だ!」
「わかりました!」
僕たちはそれぞれ返事をすると、すぐに仕事へ取りかかった。
一緒にいた親友二人は互いに背中合わせになり、両手を天に掲げた。二人の掌に光が宿ると、中庭を中心にドーム状の障壁が地面から徐々に展開されはじめた。
しかし、それに気付いた敵がいた。空中を旋回していた飛竜の一体がこちらの動きを察知し、阻止に乗り出したのだ。
「トーマ!」
親友が叫んだ。防壁展開中、二人は無防備だ。彼らを守るためには、僕が動かなくては。
中庭めがけて急降下する飛竜に、僕は杖を向けた。
『天駆ける翼あるもの』
引き金となる言葉を告げると、杖の先に炎の玉が浮かび上がる。
『迎え撃つは無数の矢』
次いで魔術を形成する。杖に灯っていた炎が分裂し、両手ではとても数えきれないほどの矢の形をとる。
『赤き雨にて地に伏せよ!』
最後の言葉を合図に、生み出された炎の矢が射出された。対空砲火にさらされた飛竜は一度翼をはためかせると、急旋回してこちらの射程外へ逃げる。けれども攻撃は諦めていないようで、再び僕たちの頭上をぐるぐる回りはじめた。
攻撃を避けはしたが、大したダメージを与えられていないのはこちらも同じ。それに、防壁の展開にはまだ時間がかかるだろう。飛竜が僕の攻撃を脅威に感じなければ、力技で制圧されてしまう。
飛竜が高度を上げる。大きく開いた口許には、凝縮されたエネルギーが集まりつつあった。飛竜の息吹……僕たちを一気に焼き払うつもりだ!
「ミア! レンス! 展開を急げ!」
同じものを見上げていた先生が声を荒げ、治療を中断して天に腕を掲げた。防壁の展開速度が目に見えて速くなった。しかし間に合うかどうか……。
「っ……『変転せよ!』」
きっと間に合わない。そう判断した僕は、変身の術を使うことにした。最もたくましい翼をもつもの、鷹に姿を変え、魔導の力をもって空へ飛翔する。目指すのは勿論、飛竜の眼前だ。
「おい馬鹿トーマ!」
「なにしてるの戻りなさい!」
「ぶん殴ってでも止めるしかないだろッ!!」
地上からの制止を振り切り、飛翔の勢いのまま飛竜の眼前を横切る。突然現れた飛翔体に気付いた竜は、僕を目で追いながらもなおブレスの狙いを地上に定めていた。取るに足らないと舐められているのだ。
僕はなおも上昇を続け、竜から10メートルほどの高度に到達すると変身を解除した。敵の大技が放たれるまで時間もないだろう。
『槍となれ!』
先端に大きな斧頭のついた槍へ杖を変化させ、同時に魔力の足場を蹴って頭から降下する。竜の堅牢な鱗を貫く手段といえば、もとの世界では幼い頃から見てきたものだ。
「その首、貰った!」
降下の勢いに重量を乗せて、槍の穂先をがら空きの首に突き立てる。自分以上の高みから衝撃を受けた飛竜はバランスを崩し、姿勢を乱す。僕は振り落とされないよう槍を握りながら、次の魔術を発動させようとしていた。鋼より硬い鱗を持っていても、内側からなら関係あるまい。
『はじけろ!』
首筋に刺さった穂先を再び変質させ、新たな術のリソースに変換する。それを僕が内包する残りすべてと掛け合わせて、生み出されたのは巨大な爆弾だ。
僕の合図で、目の前に閃光が走った。爆風に意識が吹き飛ばされる。暗闇のなかで、優しい力が僕を受け止めてくれたのを感じる。
「くそ…………バカ…………って」
「先……! トーマ……療を……」
――……守る……とはいえ………………。
――……トーマ……!
――…………ま………。