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新・ひだまりの国  作者: 白波
第1章 はじまり
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第1話 なぜか流されていました

 読んでいただきありがとうございます。


 この作品は依然連載していた「ひだまりの国」(N2387BJ)のリメイクに当たります。

 ほかの連載があったり、設定等を見直しながらの連載になるので更新ペースは遅めになると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

「ありがとうございましたー」


 どの接客業のマニュアルにも載っているあいさつを背に私は文房具店を出る。


 今となってはその存在自体が貴重になりつつある昔ながらのアーケードを通りぬけていく私の手には先ほど購入したまっさらなノート(108円・税込み)が入ったビニール袋があり、空いた方の手で財布をもってその中身を覗き込みながらコンビニに寄ってアイスを買うためのお金が残っているどうかと考えを巡らせる。

 正直な話、お徳用で何冊もノートが入っている方にしようか迷ったのだが、今のところそこまで大量にノートを使う予定がなかったし、お徳用ノートを買ってしまうと、コンビニでアイスを買えなくなってしまうので少し厚めのノートを一冊だけ購入したのだ。


 その結果、狙い通りにコンビニでお気に入りのアイスを余裕で買えるぐらいには財布が潤っている。あとはどのアイスを買うか考えればミッションコンプリートだ。


「ガリガリちゃんも魅力的だし、アイスの種もおいしいよね……いっそのこと、スイカバカー……はいいや。やっぱり、ガリガリちゃんかアイスの種ね。どっちにしようかしら」


 財布をポケットにしまった後、私は鼻歌交じりにアーケード街を歩く。

 このアーケード街を抜けると、小さな公園があり、そこを通り抜ければコンビニはすぐそこだ。


 ひだまり公園という名前のその公園は小さな広場に滑り台やシーソー、鉄棒、砂場といった遊具があるどこにでもあるような公園で日中は周辺の子供たちが遊具で遊んだり、鬼ごっこをして遊んでいるような場所だ。

 そんなひだまり公園に差し掛かった時、私の視界に見慣れない初老の男性の姿が入る。


 もっとも、見慣れないといっても自転車に紙芝居を積んでいるあたり、今となっては珍しい紙芝居師の人なのだろう。

 男性の周りにはすでに何人かの子供が集まっていて、その中には見覚えのある人物が……というか、自分の幼馴染の姿があった。


「さーて! 今から紙芝居を始めるよ!」


 どことなく怖いという印象を受けるその男性の容姿とは裏腹に彼は明るい声で子供たちに声をかける。


「それじゃあタイトルは“ひだまりの国”はじまりはじまりー!」


 男性がそういいながら、紙芝居の一枚目をめくる。

 それと同時にそこから強力な光が発せられ、私の視界を覆い隠す。


「何これ!」


 そのまま目をつぶった私は、その意識を深く沈めていった。




 *




「……ですか? 起きてください! 大丈夫ですか!」


 これまた聞きなれない男性の声が聞こえる。

 おそらく、私はあの強力な光を見て倒れてしまったのだろう。そうなると、声をかけてくれているのは救急隊員か何かだろうか?


 それについてはどうでもいいにせよ、嫌に寒い。いや、異常に寒い。体温が下がっているのだろうか?


 私はそんなことを考えながら目を開ける。

 すると、視界に入ってきたのは自分の顔を覗き込んでいる男と思われる顔だ。その男の人は、フードを頭の上までかぶっているせいで顔はよく見えないのだが、フードの端から見えている金色の髪が彼が日本人ではない可能性をひしひしと伝えてくる。


「……えっと……私、どうして……」


 言いながらゆっくりと私は起き上がる。

 それと同時に私はこれまで気づいていなかった現実を直視して固まってしまった。


「……なっなにこれ……なんなのよこれー!」


 自分が倒れていたのは公園の近くでも自宅でもなく、流氷の上だった。

 通りで寒いわけだとか、よく流氷の上で寝ていて凍死しなかったなだとか、いろいろと思うところはあるのだが、今の状況があまりにも訳が分からな過ぎて、全く理解が追い付く気配がない。


 日本において流氷といえば北海道だが、自分がいた地点は北海道ではないし、そもそも季節は夏。流氷なんてあるわけがない。それ以前に流氷って乗れるものだっただろうか?


「……あの、ここはどこなのでしょうか?」


 せめて、現在地が知りたい。そんな思いから私は一緒に流氷に乗っている男性に声をかける。


「知らん。流氷の上だ」


 しかし、男性の方も流氷に乗って絶賛漂流中らしく、返ってきた答えはかなり期待外れなものだった。もっとも、流氷の上に載っている時点で普通の答えに等期待しない方がいいのかもしれないのだが……

 それにしても、ワンピース姿で流氷の上とは……よく凍死せずに起き上がれたな。そう思いながら、支線を下に落とすと、ワンピースの上に見慣れない防寒着が着せてあった。もしかしたら、私を発見した男性が着せてくれたのかもしれない。


「あの……この防寒着ってあなたのですか?」

「そうだ。不満か?」

「いえ。ありがとうございます」


 それにしても、不愛想な人だ。

 しかし、この状況について少しでもヒントを得るためにはこの男性に話しかけるしかないだろう。


 そう考えて、私はさらに質問をぶつける。


「あの……私、気が付いたらここにいて……何がどうなっているのか……」

「気が付いたらここにね……まぁ陸地についたらお互いに詳細な身の上話をすればいいだろ」

「いえ……でも……」

「今は生き残ることだけを考えろ。俺たちの乗っている流氷だってだんだんと小さくなっている」


 言いながら、男性が流氷の端を指さす。

 その先には割れて分離したと思われる氷が海に浮かんでおり、流氷がだんだんと小さくなっているということを嫌でも実感させられる。


「さっきまであっちの氷の上にいたんだが、割れてきたからこっちに飛び移ったんだ。そして、お前を見つけたというわけさ」

「……そうなんですか……それで、その……無事に陸地にたどり着ける確率は?」

「まぁ神のみぞ知るっていうところだな」


 つまりは神頼みをするレベルで絶望的な状況らしい。

 男の声から遅れること数十秒。ようやく私は人生始まって以来の大きな危機に直面しているということを自覚する。


 なぜ流氷の上に乗っているのか? 陸地がどの程度遠いのか? そもそも、ここは日本なのか? この危機に関して、疑問は尽きず、解決方法は全くといっていいほど見当たらない。そういった意味では防寒着を着せてくれるような優しい男性と一緒でよかったといえるだろう。

 もしも、それがなければ私はノートを抱きかかえながらそのまま目覚めなかった可能性もあるからだ。


「……でも、どうしよう……」


 私が口にした不安はどこまでも続く極寒の海に吸い込まれて行った。

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