その12
N2たちが何やら示し合わしている間、翼竜は上空を旋回していた。
その様子からまだ力の使い方に慣れておらず困惑している様子が伺えた。
ミストのいきなりの覚醒、それは己が意識とダテンシの意識を融合させることによってのみなしえる特殊操具によるものであった。
それによってダテンシの能力は通常時と比較にならないほど上昇し、操具の精度も自分の手足を動かすかの如く確かなものへと変化する。だが、これは扇動者にとって最後の切り札ともいえる技であった。
意識の均衡を保てずダテンシの意識に飲み込まれてしまったら最後、二度と自我を取り戻すことはできないのだから―――
そんなもろ刃の剣をミストが躊躇なく使ったのは、ただ単にそのリスクを知らなかったからにすぎないからであった。
もしかすると彼は意図的に知らされなかったのかもしれないが―――
「すごい、すごいぞ……! これがぼくの力、翼竜のほんとうの力。これなら誰にだって負けない、負けるはずがない! アイツらなんてかんたんにしまつできるぞっ!」
そんなリスクがある事などつゆ知らず無垢な狩人は竜の背で己が力に酔いしれる。
そして頭の中で腕を広げるイメージをうかべてみる。
するとそれに追随するように翼竜の翼が広がっていく。
ミストは思わず手を叩きたくなった。
だがそれをイメージしてしまうと落下してしまうと思いやめた。
そして翼竜の感知能力はミストに敵の位置を教えた。
あとは獲物を切り裂くイメージを脳内で浮かべ下降するだけ、それで勝負はつくとミストは判断した。
『てこづらせてくれたけどこれでおわりだっっ!!』
だが、ミストはN2たちの行動の意味までは考えていなかった。戦いの場において最も重要となる判断能力、それはさすがの翼竜でも与えることができないものであった。
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「オイッ本当にこんなんでいいのかっ!?」
「安定はしている。問題はない」
「そういう話じゃねぇよ! 本当にこんなんであのバケモンに勝てるのかって聞いてんだよっ!!」
そんな事分かるわけないだろう、頭によぎった言葉をN2は喉の手前で押しとどめる。
情報が少なすぎるのだ。翼竜種はN2にとっても未知のダテンシ、コアの位置すら不明なのである。オマケにN2にはそのコアを避けつつ戦闘能力を奪わなければならないという命題まであった
そんな内心の葛藤を悟られないようにN2はボッシュの肩を掴む手に力をこめる。
そう、あろうことか二人は戦闘の最中だというのに人騎馬を組んでいたのであった。
「オレは片手しかねーんだぞ! お前を固定すんのでやっとだぞっ!」
「攻撃には参加しなくていい、走ることに専念してくれ。悪いが議論している時間はない」
「だけどよぉ!! それはあんまりじゃ」
「言っておくがこの作戦のカギはお前の脚なんだ。翼竜からも逃げおおせる鬼脚、私はそれに賭けた。後だしで申し訳ないがお前にも賭けてもらいたい。私の作戦に」
「ああぁん!? 作戦だぁ!? それにオレの脚に賭けただぁ……??? テメェ本当にふざやがって……そうやって毎度毎度オレをのせやがってよぉ!!!」
ボッシュは何を思ったかいきなり天に向かって咆哮する。
N2の側からではその表情までを見ることはできなかった。
「振り落とされんなよガキがっ!!」
「大丈夫だ。……あと念のため言っておくが私が振り落とされでもしたら無視して捨てておけよ」
「あん? それってどういう……」
「……助けにきて2人ともやられるのは最悪手だということだ。来たぞ!! まずは1時の方角に向かって走れ!!」
「…チッ! 舌かむんじゃねぇぞ!!」
ボッシュの舌打ちが終わるやいなやN2は身体が宙に浮き地面に叩きつけられる感覚を味わう。
(こ、これが時速300メトルの世界! すさまじい風圧だ! だが、この速度ならば翼竜に引けは取らないはず!!)
ボッシュの首に手を回しN2はなんとか身体を安定させる。
すると上空を影が横切り直後に背後で爆発が起きた。
(間一髪かっ!!? この速度でも判断を誤れば即座に狩られるということか!)
N2は再び上昇しすでに点となった翼竜を仰ぎ見る。
そしてどんな微細な動きも見逃さないように全神経を視覚に集中させる。
空の王者を地上にいながら狩る、N2の無謀ともいえる挑戦が始まろうとしていた。




