表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第9章 ステキな・・・
95/118

その11

 突如頭の中に響いた主の声にミストは周囲を見回す。


 だが辺りは足元すら見えない濃い蒸気に包まれており主の姿はどこにも見いだせない。


(空耳か? いや、当たり前だろ、シエラさまがこんなところにいるわけがない。でもたしかに聞こえた―――)


 そういえば以前にも似たようなことがあったなと、ミストは思い返す。

 あれはいつのことだっただろうか、記憶を手繰るミストはやがて自らの過去に想いを馳せていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 覚えているのは暗闇、全く先の見通せない完全なる暗黒。

 

 ミストの身体は内と外から闇によって染め上げられていた。


 そしてその闇は質量を持っており、ミストの思考と呼吸を完全に奪っていた。


 できることは無力感を感じることだけ。


 それがこの空間で許された唯一の自由。


 それでいいと思っていた。それしか知らない、比較対象を知らないミストだったのだから。




(こっちにきなさい―――)

 

 


 だが、ある瞬間、言葉と共に光が射した。



 その時は何も分からなかったが、今でははっきりと分かっている。


 あれがシエラだったということを。


 彼女が自分の前に現れて自分を暗闇から救い出してくれたのだと。


 その事を考える度に、ミストの身体は喜びで打ち震えるのであった。



 だが、なぜ自分は闇に囚われていたのか、



 大事なことなのに、ぜったいに忘れてはいけないはずなのに。


 どうしても思い出せない、その事実がミストに言いようのない罪悪感を与えていた。


 


 そして我慢できずにある日、ミストはシエラにその事を告白した。



 するとシエラは悲しむどころか、笑みをたたえながらミストをその胸へと迎えてくれた。


 

『わすれていいのよ、だってわたしがそうしろって言ったんだから。あなたはこれからもわたしの言うことだけをきいていればいいのよ』 



 やさしく包み込むようなシエラの言葉、


 自分を救ってくれた大恩人であり、道を示してくれる師であり、敬愛すべき人物の言葉、


 そしてひそかに想っている女性の言葉。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



(シエラさまがおっしゃるならきっとそうするべきなんだ……)



 シエラの言葉に従えば全能感と充足感に満たされる。

 それを改めて思い出したから―――ミストは目を閉じ翼竜種に意識を委ねていく。


 そして二つの意識が混じりあった瞬間、見えなかった世界がミストの眼前に広がる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「オラッ! 喰らいやがれッ!!」


 ボッシュはさきほどからあえて声を上げてから攻撃を繰り出していた。


 そうすることで敵をかく乱していたのだ。


 敵は当然のごとく声が上がった方向を警戒する。

 だが超脚力によって彼は声を上げた瞬間にまったく逆の方向へと移動していた。


 そして煙幕を頼りに奇襲をしかける。


 まったくもってセコい戦法、だが翼竜はボッシュの狡猾さと蒸気の煙幕が織りなす鳥かごに完全に囚われてしまっていた。


 そしてこれは奇跡にも近い確率であったが、ボッシュは偶然にも翼竜種の擬核(コア)がある腹部へと今まさに剣を突き立てようとしていた。




 決着の時―――




「ボッシュ!! 僕を信じて全力バック!!」



 だがその瞬間、N2が叫びボッシュがいた空間が薙ぎ払われる。


 爪の風圧が十数メトル離れたN2の仮面をたたくほどの衝撃であった。



 「ん?」



 そして切り裂かれた煙幕の隙間から黒い塊が猛スピードで突っ込んでくるのが見えた。

 N2はとりあえず身をひるがえしてやり過ごすことにした。



「おまっ、受け止めるとかしねぇのかよぉぉぉぉぉ!!!!」



 塊から何か聞こえたような気がしたがN2はひとまず無視して目の前の敵に注意を払うことにした。



(気配が変わったな。扇動者が入れ替わったのか? だが二人いる気配は感じなかった。そもそもこの扇動者は誰なんだ?)


 

 かつてのレコンギスタ教団に在籍していた扇動者なら気配で誰だか判別することが出来る。

 

 だが目の前の扇動者はN2がまったく知らない気配を発していた。

 新たなA級クラスの扇動者、そう考えるのが自然であった。



(ゼノはあの時滅んだはず―――いったいどうやって扇動者を増やしてる、シエラ!?)



 不明な状況に対しては最大限の警戒を。


 N2は己の信条にもとづき一定の距離を保ちながら武器を構える。


 

「……ああ、星がちらつきやがる……」


「戻ったか……あれ? お前なんか額パックリ割れてるぞ」


「誰のせいだと思ってやがるっ!! いきなりバックしろってなんのつもりだよっ!!」


「何のつもり? よく見ろ、お前あのまま突っ込んでたら死んでたぞ」


「なんだとぉ? ……な、なんだよあのえぐれ方は……」



 一目みてボッシュも異常事態を察知する。

 

 翼竜種の爪によってえぐりとられた大地、先ほどボッシュが侵入しようとしていた空間だ。


 そこだけ黒で塗りつぶしたかのように深くえぐり取られており、凄まじい衝撃を端的に物語っていた。


 そしてそれを作り出した翼竜種の瞳はミレニムの街を紅く染め上げるほどに激しく発光していた。


「な、なんだ、あのガキ……なんつー剣呑な闘気してやがるんだ……」


「そういえば……お前扇動者を見たんだったな」


「ああ、背中側だからここからじゃ見えねーが、まだろれつも回ってねぇクソガキだったぜ。たしか自分のことをミストなんとかつってたな」


「ミスト……? ミストだと……? ……まさか……ミスト=シルエットのことか!?……本当にそう言ったのか!?」


「あん? なんだ? 知り合いかよ」


「知っている、というべきか……信じがたいことだが……セシリア様の予測は当たっていたのかもしれない」


「?どういうこと―――」


 

 ボッシュの疑問は風にかき消される。



「!!!」



 翼竜種がその場で羽ばたき蒸気を吹き飛ばしていた。


 その風圧はすさまじく、二人は踏ん張らなければ耐えられない程であった。


 そしてものの数秒で完全に開けた地下水路を翼竜は翼を広げ滑空してきた。


 翼のエッジは刃のようにするどい輝きを放っており、直径はゆうに二十メトルは超えている。

 胴体ごと切り裂かれることは必至、だが横に避けることは現実的ではない。


 かといって下を潜れるほどのスペースを翼竜種は開けてくれてはいない。




「「だったら跳ぶしかないっ!!」」




 示し合わせたように二人は跳躍する。


 だがそれを見越していたかのように翼竜種は直角に軌道を変え二人を空中ではねていく。



「ぐほっ」


「クッ!」



 空中という無防備な状態で巨大な質量に激突される、その衝撃ダメージはすさまじくボッシュは放物線を描きながら吹き飛ばされ、ロスティスシールドでとっさにガードしたN2も弾き飛ばされ地面に激突していた。



「こ、これが翼竜種の力、あ、圧倒的じゃないか」



 たったの一撃で満身創痍となる二人。


 ボッシュはフラフラとした足取りでなんとかN2と合流する。

 今の攻撃によるものか額は無残につぶされており流れ出た血が眼球にまで入り込んでいた。


「それじゃ見えないだろ、コイツを巻いておけ」


 N2は上空で旋回している翼竜種を警戒しながらロスティスの切れ端を放り投げる。


「あ、ああ、す、すまねぇ大将、だ、だが関係ねぇよ、オレにはアイツの動きがほとんど見えなかった」


 悔しさをにじませながらボッシュは吐き捨てる。


「見えなかったんだ……ちきしょう……」


「……僕はなんとか目で追うことはできた」


「……そうなのか、さすがだな」


「さっきまでもっと速いものを見ていたからな。だが見えているだけではどうにもならない……そうだな……」


 一思案するとN2はボッシュに耳打ちして作戦を伝える。


「あ、ああ? マ、マジで言ってんのかよ」


「マジだ。これしかない。それに一撃でいいんだ。ヤツにコレを打ち込むことさえできれば僕らの勝ちだ」


 N2は袖口から切り札を覗かせる。

 N2の意思を受け、刃先を力強く輝かせる


「テンタクルエッジ……」


「そうだ、コイツで見せてやる……空の王者に悪夢をな……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ