その6
ボッシュとミストが戦っていたその裏でN2は追い詰められていた。
セシリア救出の頼みの綱であったミレニム領主は何者かの手によって殺されてしまい、あまつさえその犯人に仕立て上げられてしまった。
従者が部屋に入ってきたのは最期を看取った直後であり、その後の警備兵たちの動きからしても嵌められたのは間違いなかった。
一体だれが、何のために。
疑問は尽きないがそんな重大事が細事に思える程にN2は目の前の襲撃者に追い詰められていた。
N2が領主の館を後にした途端、待ち構えていたかのように襲い掛かってきた小柄な猛獣、エルシー=エレパンドスに。
「覚悟ぉぉぉ!!!」
彼女のトレードマークでもある巨大な鉄塊がうねりを上げながらN2を横薙ぎにする。
N2はその手心のない、ただもう殺意のみが込められた無慈悲な一撃を避けるため飛翔する。
「甘いっ!!」
だがエルシーはN2に合わせるように自分の身体を回転させ攻撃の軌道をムリヤリ変えてくる。
人間離れした動き、これはもはやミレニム騎士団の範疇などではない、自分やボッシュなど歴戦の戦士の領域に踏み込んでいるとN2は認めざるを得なかった。
「ハッ!!」
無防備になった空中で軌道を変えるためテンタクルエッジを民家の壁面へと放つ。
そして取りついた瞬間、巨大な質量が通り過ぎていったことを背中越しに感じる。
間一髪の回避、これで多少のインターバルがとれる、そう思った瞬間、
「うぉぉぉぉ!!!」
すぐさまエルシーの追撃が迫る。どうやら先ほどの攻撃の勢いを利用して回転し、再攻撃のエネルギーへと転換しているようだ。
エルシーの小柄な身体がコマのように空中で跳ねる。
N2はまたもや回避に全神経を注がなければならなくなってしまう。
(このままじゃこちらが一方的に消耗するだけだ!)
その予感は現実となりN2は体勢を立て直すこともできずエルシーの猛追から逃げ続けることしかできなかった。
(参った……前の戦闘からこんなに急成長するなんて……エルシーの才能は想像以上だったということか…)
ロスティスコートによって強化されているのにこの体たらくなのである。
もし着ていなかったらと想像するとーーーN2はうすら寒いものを感じずにはいられない。
すでに前回戦った時に弱点でもあったエルシーの体力問題はこのコマのように回転してエネルギーを再利用する攻方によりほぼ解消されている。
一撃必殺、N2に一打だけ与えられれば決着がつく、その執念が編み出した正に対N2戦法である。
かつてない強敵との対峙、N2は戦慄し、そして高揚していく。
『ソロソロハンゲキシヨウゼギアック』
『オレヲツカエヨ』
『イイヤオレダロ』
『ココハオレニキマッテル』
頭の中に武器の声が響き渡る。
本能がこの窮地を打開するために行動しろと囁いてくる。
「ダメだっ!! そんなこと出来る訳ないっ!!」
だが、N2はあえて声に出し律する。
どうしようもない性を理性で抑えつけようとする。
かつての最愛の人が今や最大の脅威となって迫っている。
その圧倒的な事実を打開するためには回避にのみ使っているテンタクルエッジの軌道を少し変えればいいだけだという事は誰に言われるでもなく分かっていた。
だけどそれをすれば全てが台無しになる。
N2として戦ってきた日々の全てがウソになる。
それが分かっていたから何もできなかった。
(あの人とも約束したんだ。僕はもう人は殺さないって! 僕の力はダテンシを倒すためだけに使うんだって!!)
極限状態のN2の脳裏に収監前のセシリアとの最後の会談の情景が甦る。




