その7
N2たちが大量の芋と奮闘していたその頃、ミレニム騎士団の内部で一つの騒動が勃発していた。
そしてその騒動の中心にいたのは数か月前までは一介の見習い騎士、だが今や押しも押されぬミレニム騎士団のエースへと成長を遂げたエルシー=エレパンドスその人であった。
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「あなたたちっ!! 今すぐ止めなさいっっっっ!!」
疾走しながらエルシーは制止を叫ぶ。
すると焼却炉の前で作業をしていた集団がいっせいに色を失い慌てふためく。
「エ、エルシー! な、なんでエルシーがここに?」
「誰かがチクリやがったんだっ!!」
「い、言っておくがオ、オレじゃねぇからなっ」
「オレもだっ!!」
「オレでもないぞっ!!」
エルシーがこの場に現れたのは彼らにとって予想外の出来事であったようで、誰もがその場で混乱し、さらにはののしり合いまで始めてしまう。
それが悪手であることすら判断出来ず、気づくと男たちの前には怒りの形相で肩を震わせているエルシーが立っていた。
「ち、違うんだエ、エルシー、これにはワケが……」
「往生際が悪いぞテメェら、とっとと観念しやがれ」
すると焼却炉の陰の中、男たちの背後から長身の女性がスッと姿を現した。
「ミ、ミユキ? なんでお前が…………そうか、お前か」
「なんだそのツラは? 文句でもあんのか、この腰抜け以下のクソ野郎どもっ! お前ら自分たちが何をしようとしていたか分かってんのかっ!! 仲間を売って恥ずかしいとは思わねぇのかよっ!?」
現れるなり腕を組んで男たち―――仲間の見習い騎士たちに向かって罵声を浴びせるミユキ。
そんな横柄な態度のミユキに見習い騎士たちは負けじと応戦する。
「うるさい! こっちの事情も知らないで勝手なことぬかすなっ! オレ達だって好き好んでやってるワケじゃないっ!!」
そうだそうだと追従する周りの見習い騎士たち。
彼らにも彼らなりの事情がある様だったが、その悪びれない態度はミユキの怒りにさらに燃料を与えただけであった。
「うるっせぇんだよっ!!! どんな事情があったら戦友の私物を勝手に処分できるっつーんだっ!!? 一緒に戦って散っていった仲間たちにお前らは申し訳ねぇとは思わねぇのかっ!!? それでも人かっ!!!? 返答次第じゃただじゃおかねぇからな!!」
ミユキはまくしたてながらそこかしこに並べられている数箱の木箱を顎で指し示す。
そこには殉職した見習い騎士たちの私物が収められているのであった。
近頃狂暴化したダテンシとの交戦によって命を落とした者、そして半年前の事件によって帰らぬ人となった者、希望に満ち溢れていたはずの若者たちの生きた証がその小さな箱に全て収められているのであった。
「そ、それは……」
ミユキの問いに感じ入るものがあったのが一部の団員たちは言葉を詰まらせる。
だが、
「そんなこと言ったって……仕方がなかったんだ……」
それでも彼らの結論が変わることはなかった。
「……あいつらはもう帰ってこない、待っていたって帰ってこないんだ、でも誰かがミレニムを守らなきゃならない、だったら、そうするしかないじゃないか……」
「あぁん!? どういうことだよっ!?」
「……新しい騎士団長からの上意だよ……戦死者の私物をいつまでも置いておくわけにはいかないって。引き取り手がなかった私物はすぐに処分しろってさ。そうしなければ殉職者と同数の団員のクビをきるって、そう脅されたんだ」
「な、なんだそのムチャクチャはっ!? あの野郎、マジでそんなこと言ってんのかよ!?」
詳しい事情はミユキも把握していなかったようで、その斜め上を行く理由に驚愕する。
「ああ、そうだ、オレ達だってもちろん最初は反対した。だが、新しい騎士団長は取り合ってすらくれなかった。ミユキ、分かるか? 殉職者と同数の団員がクビを切られたらミレニム騎士団からは人がいなくなっちまう―――お前もエルシーも含めてな。そうなったら誰がこのミレニムを、オレたちの故郷を守るんだ」
「さすがに……あり得ねぇだろ……今の騎士団長はそんなにアホなのか?」
「ああ、過去最低といってもいい。意地でも自分の発言を覆したりはしないだろう。それに今のミレニムを取り巻く状況をまったく理解していない。オレらがいなくなったら安い賃金で港の労働者たちを雇い入れればいいだろうなんてそんな風に軽く考えてるみたいだよ。でも、連中がミレニムのためにダテンシと命を賭けて戦ってくれるはずがないだろ。数か月の間にミレニムは滅ぼされちまうよ。短い期間に何度もトップが入れ替わってるんだ、この騎士団はもうまともに機能すらしていない」
「それは……そうかもしれねぇが……でもよ……」
ミユキはその場で頭を掻き懊悩する。
「だぁ~~~~もうっ!!! なんでお前らそういうことをもっとはやく言わねぇんだよ!! 怒るに怒れねぇじゃねぇかっ!!」
「すまない」
「ったくっ!! 次からはもっとはやく相談しろよなっ!! アタシたちも仲間なんだぞっ!!!」
そう言って腹を小さく小突く。
それで禊は済んだようで次の瞬間にはミユキはいつもの快活な笑みを浮かべていた。
「すまない……ありがとう……オレ達もどこかで後ろめたいところがあったからお前たちには秘密にしていたんだと思う。エルシーも悪かったな……エルシー?」
若い見習い騎士はそこでエルシーの姿が見当たらないことに気付く。
見渡すと一番遠く離れた木箱の傍らで一心不乱に中身を取り出しているエルシーの姿が見えた。
「エルシー」
「やめとけ」
その背に声を掛けようとする見習い騎士をミユキは手で制する。
戦死者の荷物が捨てられようしていると告げた途端、顔色を変えて飛び出していったエルシー、今、わき目もふらずに木箱と格闘している彼女の心中を慮るとミユキにはかける言葉が見つからなかった。
儚い恋心と同時にミユキは無念を滲ませる。
「逃げ足だけは早かったクセになんであの時は逃げなかったんだよ、ギアックよぉ……」
同じ思いを共有していたからこそ、エルシーにかける言葉がないことをミユキは承知していたのであった。
「ギアックどこ、どこにいるの……みんなヒドイよ、なんでギアックの荷物を捨てるの、なんで急にそんなことするの、ヒドイよ、おかしいよ、だってギアックはまだ死んでないんだよ、まだ……見つかってないだけなんだから……」
図らずも戦乙女の弱さを目の当たりにしてしまった見習い騎士たちは、ただその場でじっと佇むことしかできなかった。




