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ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第8章 ステキな幕間
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その5

「うふふふ♪」


 胸元に輝く紅い宝石を指でなぞりながらエリアは満面の笑みを浮かべる。

 今にも鼻歌でも歌いだしそうなほどのご機嫌ぶりだった。


 彼女がここまでテンションアゲアゲなのには理由があった。


 彼女が慈しむように愛でている紅い宝石のはまったブローチ、それは生まれて初めて人からもらった贈り物なのであった。さらにそれは初めて愛した男からのものでもあるのだ。


 そんな初めて尽くしのブローチを撫でるたび、幼い少女の心を持つエリアは歓喜の波を抑えることが出来ないのであった。

 

 そして緩みっぱなしの頬のまま、エリアは食糧庫の扉の前に立つ。



「N2さま、ボッシュさん、はいってもよろしいかしら!? もちろんいいわよねはいるわよ」


 いつものようにノックもせずにエリアは食糧庫の扉を開け放つ。


「いもがもうたりなくなっちゃって。よかったらすこしもっていって……って、な、なにをやってるの!!??」


 エリアは扉の前で凍りついてしまう。



 愛しかしらない無垢な瞳に飛び込んできたのはナイフを手にしたN2と、芋を手にしたボッシュがお互い向き合いにらみ合っている衝撃的な光景であった。




「いっ、いったいなにが……ふたりともいままでなかよくやっていたようにみえたのに……ま、まさかっ、な、なんてことなのっ!?」



 そしてエリアはすぐさま二人が対峙している原因を理解する。


 彼女の中では男が争い合う理由など一つしか考えられなかったのだから、それはすなわち―――



「わたし……なの?……わたしだわ……わたしのために、わたしをとりあって……ふたりはたたかっている……」



 女しかない。



 こんどは誰に吹き込まれたのかははなはだ不明だが、エリアの脳内には男同士の争いの絶対的真理は女であると刷り込まれていた。


 そのためエリアは二人が自分を取り合って戦っているのだと確信したのであった。


 この屋敷にはカスミという妙齢の女性もいるのだが、その可能性を微塵も考慮しない清々しいほどの思い込みの激しさであった。



「や、やめてっ、やめてふたりともっ!! なんでこんなことにっ!!? ボ、ボッシュさんっ!! きいてっ!! あなたはしらなかったかもしれないけどわたしはすでにひとづまなのよっ?!! N2さまとしょうがいのあいをちかいあってるの!! だからどうあってもあなたのあいをうけいれることなんてできないわっ!! だからムダなことはやめてちょうだいっ!! N2さまもっ!! エリアはわたしのためにあなたがちをながすなんてたえられないっっ!! まんがいちN2さまのみになにかあったらわたしはいきてはいけないわっ!! だからおねがいっっ!! けんをおさめてっ!! ふたりともわたしのためにあらそわないでぇぇぇぇ!!!!」



 少女の切なる願いが食糧庫を震わせる。

 勘違いも甚だしかったが、清純な乙女の願いというのはそれだけで人の心を揺り動かす効果があるものである。



「……エリア、下がっていろ。危険だ」


「……おぅ嬢ちゃんよぉ、ちょっと黙っててくんねぇか? 今、取り込み中ナンだよ……」

 

「そ、そんな」



 だがN2達には何の効果もなかった。


 相変わらず一触即発な空気が二人の間に流れている。


 どちらかが先に動けばその空気が大爆発を起こすことは、武に通じていないエリアですら理解できた。




「いくぞぉN2ぅぅぅ!!!」


「来い」


「そ、そんな、待ってっ!!!」


 

 先に動いたのはボッシュだった。

 腰を落とし手にした得物をN2に向かって投げつける。





 ―――この時、エリアに少しでも冷静な判断力が備わっていたならば、ここまで思い悩む必要はなかっただろう。


 二人が争っていた訳ではない事はすぐにでも知れたことだろう。



 なぜならナイフを手にするN2に対して、ボッシュはただ芋を手にしていただけだったのだから―――




「武器よ、声を聞かせろ―――」



 N2は手にしたナイフに意識を集中させる。

 そして訪れる身器統一(コンセントレーション)の気配




《ムクゼギアック》



 ナイフと同化したN2は飛来してきた芋に向かって乱撃を浴びせる。



 芋はなすすべもなくその斬撃の嵐を浴び、一瞬の内に皮を剥かれ透き通った白い肌を露わにする。そしてそのまま放物線を描きながらN2の背後のカゴへと吸い込まれていく。



「い、一体何……ハッ!?」



 エリアはそこでようやく気づく。

 N2の背後のカゴにキレイに皮を剥かれた芋が山積みになっていることを。

 とても数え切れないが、おおよそ炊き出しに使用する分は優にありそうであった。




「へへっ、何度見ても見事なもんだぜ。おしっ、これでもう最後だ! まとめて切り刻んじまえっ!!」



 ボッシュは足元のカゴを拾い上げるとその中身を一斉にN2にむかってぶちまける。

 

 十数個の芋が散弾のごとくN2に殺到する!!

 


「やれやれ、人使いの荒いことだ。―――行くぞ」



《ムキムキムキムキムキマクルゼギアック》



 N2は跳躍し自ら芋群の中へと飛び込んでいく。


 そしてすれ違いざまにナイフを滑らせるように芋の表面に這わせていく。N2が通り過ぎた後、芋は衝撃でコマのように回転しながら空中を漂っていた。



「行けっ!!」



 そしてN2が号令をかけるとまるで意思を持った生物のように芋たちは反応し、皮を四方に飛び散らせながら籠の中へと飛び込んでいったのであった。


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