その11
ミレニムの流民街から数キロメトル離れた平原に、異様な物体が屹立していた。
それは全高七メトルはあろうかという巨大な四角柱であった。
それがほぼ密着した状態で五つほど並んでおり、どういう仕組みなのか柱全体からはまばゆい光が発せられていて、闇夜の中でもそこだけ切り取られたかのように明るかった。
そしてその四角柱の中央に、より一層つよく発光する物体があった。
近づいてみればその正体が何なのかは容易に知る事が出来るだろう。
だが、その姿を目の当たりにすることによって、より一層混迷の度合いを深めることになるに違いない。
なぜならその白く輝く発光体、それは鎧をまとった一人の人間であったのだから。
「どうなってんのよ、まったく」
四角柱群―――移動式武器庫を背負った本体、未知なる《エクスディアス》の名を冠した発掘良品を身にまとったアルテナこそが発光体の正体であった。
彼女のまとう《エクスディアス》なる鎧は発掘良品の中でも特に希少度の高いS級ランクの逸品であった。
その全容はほとんど判明していないにも関わらず、性能テストの段階で六騎士団最強との呼び声も高い脅威の力を誇る鎧なのであった。
「う~~ん、コレ、壊れたのかしら?」
そんな異様ないでたちからは想像もつかない可憐な声をアルテナは発する。
「このマークが出てるって事は直撃した……って意味なんだろうけど、ターゲットがまだ動いてるじゃない。文献じゃ鋼板1,000枚は軽く打ち抜く威力ってなってたけど……眉唾なんじゃない? このサテライト・インパクトって」
兜の内側に広がる電子映像に愚痴をぶつけながらアルテナは遥か上空を見上げる。そして満点の星空の先に鎮座している先史時代の空中要塞に向かって目を凝らす。
そこから射出される合金製スパイクが正確無比にターゲットを粉砕するサテライト・インパクト。《エクスディアス》と一緒に発掘された古文書にはそう記されていた。
事実、ロスティスという最強の防具を難なく打ち砕く脅威的な威力を発揮していたのだが、《エクスディアス》の性能をほとんど活用できていないアルテナにはそんな重大事を知る由もなかった。
「なんだかなぁ〜」
しばらくの間アルテナはその場で空を見上げたり、中空を指でなぞってしていたが、やがてガックリと肩を落とす。
「……ダメ、分かんない……何度押しても出てこないしもうこれで打ち止めってわけか……ほんっと使えない!! 残弾くらい書いておきなさいよ!!…………はぁ、まぁいいか、あの子たちも無事に離脱できたみたいだし、予想以上の収穫もあったし」
アルテナの脳内を読み取ったのか電子モニターが彼女の想起した人物、赤い一つ目の男、N2の姿を映し出す。
「エクスディアスの攻撃をうけて生きている……ふふっ、ステキじゃない。彼ならこの鎧の可能性をもっともっと引き出してくれるかしら、それともすぐに死んじゃう?」
主の声に反応したのか鎧に内蔵されている電子頭脳がN2の戦闘力を分析、数値化し、勝率を表示する。
「あら……無粋ね」
そこでアルテナは兜を外す。
戦いとは縁遠そうな線の細い乙女の顔がそこにあった。
だがその目は興奮のためか血走っており、口元には妖しげな笑みが張り付いていた。
「……この《エクスディアス》の性能テストの最中に戦いはおしまい。私は戦ってもいないのにいつの間にか最強の騎士扱い」
アルテナは屈辱の過去に想いを馳せながらゆっくりとした足取りで一歩踏み出す。
するとその動きに追従するように背後の移動式武器庫も移動を始める。
質量を微塵も感じさせないスムーズな動作、それだけ見てもこの四角柱がオーバーテクノロジーの産物である事が伺える。
「誰にでも分かる様に私の実力を見せつけたかった。そして本当に英雄として称えられたかった。……そこで舞い降りた教団復活の噂、確かにここには噂どおり教団のカゲがある。活性化したダテンシ、扇動者とおぼしき連中、そしてヤツ等の根城になっているであろう太古の遺跡」
アルテナの感情をくみ取ったのか、《エクスディアス》は突如として重滑走の体勢にはいる。
そして一瞬の内に光の弾丸と化したアルテナは平原に紅い軌跡を描き出す。
「これがエクスディアスの力よ、ひれ伏しなさいよ、全てよ。私はなるわ、ここで可愛いだけじゃない、お飾りじゃない、可愛くて強い、本当の、ホンモノの英雄になってみせるわ。エクスディアスの力があればできる。私ひとりで復活した教団を土に還すのよ!」
決意表明と同時に重滑走の軌道から急旋回するアルテナ。
並大抵の兵士では慣性力に抗えず転倒してしまうところだが、アルテナは巧みな体重移動で容易に軌道を変えてみせた。
そして追従する武器庫といっしょにくるくると回転ダンスを舞い始める。
未知なる鎧を手足のように扱う彼女は、まだ、自分の事を理解していなかった。
自分が本当に欲しているものが何なのか。
彼女が心の底から欲していたのは、名実ともに英雄として認められる事ではなく、ただ単に新しい兵器を試してみたい、思う存分破壊を楽しみたい、そんな危うい衝動であるという事を―――




