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ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第7章 ステキな騎士たち
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その7

「N2よ、勘違いしないでもらいたい、我々はお前と敵対する意思はない。すぐにこの場を退こう」


「アプリス!?」


 呆然自失となっていたロイドに代わりアプリスがN2との間に割って入る。

 ロイドとは対照的に動揺した様子もなく冷静そのものの表情であった。


「ほぅ?」


 N2は仮面の上から顎を撫でつけ、赤い眼光をアプリスの方へと向ける。


「我々はここに倒れている男と過去に遺恨があったのだ。たまたまこの流民街を訪れた際に見かけてしまいこのような事態となっている。だが、決して犯罪を犯したわけではない。正式な作法にのっとった一対一の決闘を行ったまでだ。そして今まさに決着がついたところである。出来ればどうかこのまま黙って見逃してはくれまいか」


 そしてアプリスは懐から中身が詰まった皮袋を取り出しそれをN2に向かって放り投げる。


「お前が金銭で動くような輩ではない事は承知している。それでもお前のテリトリー内で騒ぎを起こした我々のせめてもの誠意と思って受け取って欲しい。そこに20万ギルダ入っている」



「20万ギルダ……昔の僕の2か月分の給料じゃないか……」



「?」



「い、いや、何でもない。だが、そんな大金を見ず知らずのキミ達から受け取ることはできないな」


「そう言わずに受け取ってくれ。私達のせめてもの気持ちだ。要らなければ誰かにそのまま渡してくれてもかまわない。もう私にとってはそれは捨てた金だ」



「……そういうことならば遠慮なくもらうとしよう」



 そう言い終えるやいなやN2は目にも止まらぬ早さで革袋を拾い上げる。


 チャリンと小気味いい音を立てながら硬貨の詰まった皮袋は漆黒のコートの中に吸い込まれていった。



「さて、それではそろそろ終わらせるとしよう。ロイド、この剣を使え」


「あ、ああ、すまないアプリス」


「いいんだ、気にするな」


 同僚の交渉をぼんやり眺めていたロイドは水を差し向けられ我に返る。そして本来の目的を思い出し促されるままボッシュの傍らへと立つ。

 

 眼下のボッシュは顔面蒼白ですでに瀕死の状態であるようにみえた。先ほどN2が現れた際に叫んでいたようだったが、どうやらあれが最後の命の煌めきだったようである。


「こんなあっけない幕切れ……か。だが、貴様のような男にはお似合いの最期なのかもしれん。天におわします我らが神よ、地上がこの咎人の血で汚れることをどうか許し給え」


 ロイドは祈りの言葉を唱えながら剣を構える。


 そして多くの罪なき人々の命を奪った大罪人に万感の想いを込めながら断罪の刃を振り下ろす。








「さて、それじゃそろそろ帰らせてもらうとするよ。……その届け物を回収してからね」






 キィィィン








「な、なんだと!?」

 

 ロイドは再び放物線を描きながら宙を舞う自らの剣を驚愕の眼で見送る。


 そしてその眼は次にN2へ取ってむけられる。


 N2の袖口からは先ほど自分の剣を弾き飛ばしたのと全く同じ未知の武器―――テンタクルエッジが射出されていた。



「は、話が違うぞN2!!」


「N2…貴様、約束を違えるのか?」



 今まで全く表情を変えなかったアプリスがここに来て初めて表情を変える。

 だが、N2はまったく意に介さずやれやれと首をふるのであった。

 

「何を勘違いしているのか知らないが私はただ捨ててあった金を拾ったまでだ。ハナからキミ達と交渉していたつもりはない」


「詭弁だっ!! 金を拾ったのだから了解をしたと受け取るのが当然だろう!! 信義にもとるその行為、どうやら貴様は下劣で卑怯な男のようだな!!」


 激高するロイドをアプリスは止めようともしない。 

 その様子から彼も同じような思いを抱いていることは語らずとも明らかであった。


「ずいぶんな言いようだな。だが、私に言わせればキミ達の方がよっぽど卑怯だ」


「なんだとっ!?」


「分からないのか? 王都を守護する六大正騎士団の一翼、アルテナ騎士団の騎士とは思えんセリフだな。だが、先ほどの決闘もどきといい、どうやら名ばかりですでに形骸化している組織らしい」


「……貴様、今、何と言った? オレだけならまだしも、ア、アルテナ様まで愚弄したのか」


「事実を述べたまでだ。キミが何と言おうが先ほどのアレは決闘などではない。私の見立てではそこに倒れている男とキミとの間には運では絶対に埋められないほどの実力差があった。技量と経験の差は歴然だった」


「ま、待てN2、お前、一体いつから見ていたというのだ?」


 N2の発言にロイドではなくアプリスが反応する。


「いつからだと? お前らが炊き出し会場にいた時からずっとだよ。後をつけていたからな」


「な、なに、それでは我々の真の目的をお前はすでに把握しているというのかっ!?」


「目的……さて、それはどうかな。ともかく私は今日一日キミ達とそこに倒れている男を見張っていた。そして先ほどの決闘もどき、とても捨て置けなかった。決闘というのはな、お互い対等の条件でやらなければ意味がない。お互いの信念をかけて戦うのだからな。もし、そのルールが破られてしまえばそれはただの私闘、リンチ、意味のない傷つけ合いになり果てる。相手のことを信頼していなければ成り立たない制度、それが決闘だ。だが、キミはその信頼から成り立っている決闘の前提を覆したのだ。自分が不利と見るや事前申告もしていないイリーガルな力を躊躇なく使用したのだからな。それがなんと言うべき行為か知っているか? 知らないようだから教えてあげよう、よく覚えておくがいい」


 N2はロイドに向かって人差し指を突きつける。

 糾弾するかのように。


「不意打ちだ。神聖なる決闘の場で決してあってはならない行いだ。それを臆面もなく君は使用したのだ。ハッキリ言ってキミは私が知っている中でも最低ランクの騎士だといえよう。いや、そんなことを言っては最低ランクの騎士に対して失礼だな。訂正しよう。キミのことはこう呼ぶべきだった、ただの愚かで弱虫な卑怯者だとな」


「オ、オレが、お、愚かで、弱虫な、ひ、卑怯者だと……ゆ、ゆるさイタッ」


「状況が変わった。落ち着けロイド」


 怒りに震えるロイドの肩をアプリスが必死に抑えつける。

 その表情は真剣そのものだった。


「N2は我々の目的をおそらく知っている。ここで確実に仕留めなければならない。そしてコイツは二人で連携しなければ倒せない相手だ。だから落ち着け、深呼吸しろ、冷静になるのだ」


「ア、アプリス……わ、分かっ」


「私に勝つだと? 何か勘違いしているようだから一つ忠告しておいてあげよう」


 二人の会話をさえぎるようにN2はことさら声を張り上げる。

 そして指を4本立てて二人に突き立てる。


「それは不可能だ。なにしろキミ達の精神的な寄る辺となっているその発掘兵器……私には通用しないのだから。すでに4つの対処法を考えついている」


「な、なにっ!? 4つもだとっ!?」


「耳を貸すな、ハッタリにしかすぎん」


「もしこの忠告に逆らいその力を使えば、その瞬間キミ達の敗北は確定するだろう。まあそれしか能がないだろうから使わざるを得ないだろうがな」


「き、貴様ぁ、ゆ、許さんっ」


「よせ、のるなロイド。ただの挑発だ」


「と、止めるなアプリス、ここまで言われておめおめと引き下がれるか」


「こらえろ!! ボッシュの件といいすでに今日はイレギュラーなことが起こり過ぎている。これ以上対応を間違えるな。それに相手はあのN2なんだぞ!!」


「だからと言って!!」


 

 キュルキュルキュルキュル


 アプリスの制止を無視してロイドは重滑走の起動を始める。

 

「ロイドっ!!」


「重滑走の最高速度を目の当たりにすれば今の発言がどれだけ愚かだったか身をもって知ることになるだろう!! オーバーMAX重滑走、ゴーッ!!!!」

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