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ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第7章 ステキな騎士たち
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その6

「え、N2だと……お前が……」


 突如現れた黒ずくめの男が名乗った名前に、ロイドは名乗り(お約束)も忘れて呆然と立ち尽くす。


「どうした? 急に顔色が悪くなったようだが……怯えているのか?」


「じ、冗談抜かせ、オ、オレは誇り高きアルテナ騎士団の従騎士ロイド=アンドリューだ。戦いの場で怖気づいたりなどはせん」


「ほぅ、それは勇ましいことだな。クックックッ」


 N2は口元に手をあて仮面の奥でせせら笑う。

 そんな侮辱的な態度をとられたというのにロイドは反論できなかった。

 むしろ自分の虚勢が瞬時に見透かされたことに、得体のしれない恐怖すら感じていた。


(コイツがN2―――アルテナ様がおっしゃっていた特A級の危険人物―――)


 そしてその時ロイドの脳裏には、数日前の騎士団長アルテナの忠告が甦っていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





















『いい? 二人ともこれだけは肝に命じておきなさい。もし、ミレニムでN2と遭遇することになったら必ず交戦は避けるのよ』


 これから偵察任務に向かおうとする部下たちを前に、アルテナは念を押すように忠告する。



『え? エヌツー? なんですかそれは?』 


『貴方……これから潜入する地域の情報くらい収集しときなさいよ。まったく、先が思いやられるわ……』



 何気ないロイドの返答にアルテナは反射的にこめかみを抑える。

 そんな憧れの上司の姿に、ロイドはなんともいたたまれない心境になる。


『あ、あのアルテナ様』


『N2とは近頃ミレニムを騒がしている謎の仮面の男の事だ。その正体は要として知れないが腕だけはやたらと立つらしい。ミレニムの主だった犯罪組織はN2一人の手によってほぼ壊滅したとも言われている』


 見かねたのか横から同僚のアプリスが模範解答を述べる。


『そう! そいつの事よ。さすがはアプリスねっ!』


『アプリス……』


 アルテナの覚えがめでたい同僚にロイドは多少の嫉妬心を覚える。

 だが、アプリスが親切心からそれを口に出したことを知っているロイドは、鬱屈した感情をどこにも置くことができなかった。



(……だがそんなことが本当にあり得るのだろうか?)


 

『おいアプリス。情報はいつも正確に、が心情のお前らしくもないな』


『どういう意味だ』


『ミレニムの港は王都のスラム以上に危険だっていうぜ。諸外国からやって来る素性のよろしくない連中が集まって組織を組み、その数は数十はくだらないと言われている。それをたった一人で壊滅させただと? どう考えても尾ひれのついた噂話にしかすぎんだろ』


『……まあ、たしかに信ぴょう性のない話ではあるな。自分も話半分に聞いている』


 アプリスはこの件についてロイドと議論するつもりはなかったようで、あっさりと折れる。

 それは、この血気盛んな同僚と上手くやっていく唯一の方法を知っているかのような態度であった。


『オレが思うにN2というのは犯罪組織に対する何か……対抗勢力の事なんじゃないか? いわばチームのようなさ』



『そうだな、その可能性も……』


『いいえ、一人よ』



 だが、凛としたアルテナの一声によって二人の会話はかき消される。



『アルテナ様?』



『間違いなく一人よ。N2って』



 窓に寄りかかり腕組みしていたアルテナは口元に手を添え妖しく微笑む。

 

 それは、何も知らない稚児を憐れんでいるかのような態度であった。



『実は私の友人がミレニムに住んでてね。それで超ヤバい映像が撮れたからってN2を収めた記録結晶体を送ってくれたの』


 記録結晶体は遺跡から発掘されるレアメタルの一種であり、使用すればありとあらゆる現象を記録してくれる特性を持っている。


 専用の映写機にかければその時の空気感、臨場感まで再現してくれる優れモノであるが、その破格の性能と相まって希少価値も高く、庶民が目にすることはまずもってない。

(参考数値:1記録結晶体=ギアック30年分の年収、夏冬賞与込み)



『それ見たらもうビックリ! たった一人で数十人もの相手をなぎ倒していくN2の姿が収められてるんだから。もう一目見て分かったわ、コイツは超ツヨイって!! マジヤバいんだから』


 その時の情景が甦ったのかアルテナは頬を紅潮させながら語彙少なめに興奮をあらわにする。


『ヤバい、ホントヤバい、だって武器持ってないのに武器持ってる相手を相手にしてんのよ!! ヤバいでしょ!? ヤバくない!? それにね、ナントその映像に収められていたのはそれだけじゃなかったのよっっ!!』


 アルテナはそこで呼吸を整えるために一拍おく。

 図らずもその間が効果的な演出となり、ロイドたちはより一層アルテナに注目する。


『ダテンシよ。数百体のダテンシ! N2は単独で活性化したダテンシ群とも戦っていたのよ。それも圧倒的な力でほぼ一方的に!! 一撃でっ!! ヤバい、ヤバすぎる、ヤバいのよ、あれは相当の手練れ、伝説騎士級のモーションっっっ!! 』


 アルテナは拳を突き上げ絶叫し、ブルブルと震えだす。

 どうやら彼女の中ではフィニッシュを迎えたようだった。


『伝説騎士級……ア、アルテナ様と同じ……そ、そんなヤツが……』


 信じたくないとばかりにかぶりをふるロイド。


『そ、それ、加工された記録結晶体だったんじゃないですか??』


『おい、ロイド』


 あまりの衝撃にロイドは失言をしてしまう。

 アルテナは一瞬眉をひそめると、


『いいのよアプリス。ロイドはちょっとピュアなところがあるからね。でも、N2の実力は間違いないわ。そもそも私が真贋を見極められない程度の女だと思って? ロイドくん?』



『それは―――そんなことありません』


 自分の発言があこがれの上司に対する不敬になっていることにここで初めて気づき、ロイドは首を垂れる。


『アルテナ様は自分が知る限りこの世で最強のお方です。そんなお方に対して自分はとんでもない思いあがった発言をしてしまいました。大変申し訳ございません』


 その謝罪を聞いたアルテナはニンマリと微笑み―――


『そんなかしこまって謝らなくてもいいわよ♪ でも、ま、そうなの、そういうことなのよ。最強なのよね、私って。分かってるじゃないアナタ。…………それであと他には?』



『せ、世界一カワイイです』



『あとは?』



『民からこれ以上ないくらい慕われております』



『ホホホホホあとは??』



『い、家柄もよく、と、とにかくもう全てにおいてパーフェクトなお方です』



『ホホホホホホ、そう、そうなのよっ、可愛くて、民からの人望も絶大で、家柄も申し分なしの完璧超人、それが私なのよっ!! ホントにもう何なの私? 時たま自分で自分が恐くなるわ!! それくらい無敵で完璧すぎる私っ!!! はぁ、ホント私って時代が求めたスーパースターすぎる…………』


『…………』


『なに? 文句あるのかしらアプリスくん? 本当にこの人自分大好きだな、って顔してるけど?』 


『いえ、そんなことはありません(本当に自分大好きだなこの人)』


『そう、ならいいけど。……コホン、とにかくいいわね? 私が完璧なのは当然として、N2も若干完璧に片足突っ込んでるから気をつけなさいってこと。高次重滑走(ハイ・ムーヴィング)をマスターしてなおかつエクスヴィアスを所有している私よりは()()()()()()()()()、それくらいの実力者がミレニムに居るんだから、絶対に敵対しちゃダメよ。貴方たちじゃかないっこないんだから。他は多少ミスってもいいけど、それだけはぜったいに守るのよ―――』



守るのよ―――


守るのよ―――


守るのよぉぉぉぉ―――――






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




(すみませんアルテナ様……オレは約束を破ってしまいました)


 主の忠告の甲斐なくN2と対峙してしまったロイドは、ただただ己の不明を恥じるばかりであった。

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