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ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第6章 ステキなおともだち
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その7

 会議が始まり十数分経過―――。


 発言者未だゼロ。


 それどころか誰もが息をひそめて気配を殺し、誰とも目を合わせないように虚空を睨み付けていた。


 異様な雰囲気の会議室、ただよう空気はこれ以上ないほど重苦しかった。


 それだというのにホスト役の男性は終始にこやかな笑顔を崩さない。


 その落差がこの会議の異様さをさらに際立たせていた。


 どうやらこの鉄血会議なるミーティング、ただの意見交換の場ではないらしいことが伺える。



「どぅ~したんだい皆ぁ? 緊張しちゃってるのかな? 大丈夫だよ、今日は取って食ったりはしないからさ。言いたいことを言ってごらん」


 さすがに見かねたのかホスト役の男性が発言を促す。



「…………………………」



だが、その求めに応じる者はいない。むしろ男性が声を発するたびに空気がピンと張り詰めさらに重さを増していく。



「う~~~ん、このままじゃ埒があかないなぁ。よしっ! だったら僕が指名しちゃおうかな? だ・れ・に・し・よ・う・か・な?」


 男性がおどけた様子で参加者を順番に指差していく。

 

 それが意味のない抵抗だと分かっていても参加者は自分が指差されるたびに全力で顔をそむけていく。



「ウソウソ、そんな幼稚なことしないって。それに僕はなにより子供の自主性を大事にしているからね。さ、それじゃ考えがまとまった者から何か言ってごらん」


「…………………………」


「う~~~んここまで言ってもダメかぁ。このアゴヒゲがいけないのかなぁ。最近伸ばし始めたんだけど……もしかしてこわい?」


「…………………………」


「それともこのモノクルが威圧感をあたえちゃってるのかなぁ? 結構気にいってるんだけど外した方がいい?」


「…………………………」



「ははっ、よわったなぁ」


 男性があきらめたように肩をすくめる。

 そして訪れる再びの静寂。


 天井の昌光灯のジジジジというノイズが耳に障るほど室内は静寂に支配されきる。



「……このままじゃ時間のムダだよ? お父さんは常々言ってるだろう? 自分の意思すら伝えられない者は存在する価値がないって。キミたちはこのままいたずらに時を過ごすつもりかい?」


「………………………」



「はぁ……ここまで言ってもダメってことはあれかな? ミンナ会議に参加する意思なしってことでいいのかな。それなら仕方ない、残念だけど今日はここまでとしよう。解散だ」



「!!?」



 男性の声音が冷たさを帯びた途端、室内に別種の緊張が走る。


 そして動揺する参加者の中から、一人の女性が意を決したように手を挙げた。



「お父様、よろしいかしら」


「ああ、なんだいマヘリア? 何か言い残したことがあるのかい?」


 男性はアゴヒゲを撫でつけながら巻き髪の女性、グラディアート家次女マヘリア=グラディアートへと視線を移す。


「今日参加している妹弟たちを代表して申し上げますわ。いつも聡明なお父様にしては今のご判断は少し早計ではありませんこと?」


「ほう、どうしてだね」


「まずミレニム鉄血会議の定義からおさらいした方がよろしいでしょう。ミレニム鉄血会議はここミレニムの地に抜き差しならぬ危険が迫った時にのみミレニム各省の代表者が緊急召集され開催されるいわばミレニムの最終意思決定機関、で、よろしかったですわよね?」


「ああ、その通りだよ」


「だとしたらワタクシの抱いていた違和感はやはり間違いではありませんでしたわ。ワタクシだけではなくここにいる全員が同じ思いでいることでしょう」


マヘリアを除く11人も肯定のためか無言でうなずく。


「ミレニム北部の遺跡エナジーディー、あれをダテンシに占拠されたからといってなぜそれがミレニム存亡の危機となるのでしょう? お父様はもしかするとご存じないのかもしれませんが、あれはとっくの昔に盗掘され尽くしたいわば枯れた遺跡、資源的な価値など皆無なのですよ。それなのに鉄血会議の議題がそれときては、皆、あまりにも拍子抜け、何か裏があると勘ぐるのは当然ではありませんか」


マヘリアの諭すような話ぶりにホスト役の男性、ミレニム領主グラム=グラディアートは口角を押し上げ喜びを見せる。


「なるほどなるほど。発言しなかったのは議題への真意を測りかねていたから、そして下手な言動は己の査定に影響する、だから誰も口を開けなかった、という訳か」


「理解が早くて助かりますわお父様。出来ればワタクシたちを召集する前に気づいて頂きたかったものです」


「ハハハハ、言うようになったねぇマヘリア! 実に勇敢に育ったものだ! アニマお姉ちゃんもきっと喜んでいることだろう」


「…………それはどうも」


「まぁ、そういう事情なら理解できなくもないね。今のマヘリアの発言に免じて今日の査定については無かったことにしてあげよう。皆、お姉ちゃんに感謝するんだよ」


グラム氏の発言を聞いてそこかしこで安堵の吐息が漏れる。部屋を包み込んでいた緊張感がゆるんだ瞬間でもあった。


「さて、それじゃ今回の議題についてちゃんと説明してあげよう。まず君たちが危惧しているような裏については今回はない。エナジーディーの奪還、それこそが本題なのだ」


 グラムの発言を聞いて再び会議室に緊張が走る。

 子供たちはグラムの性格をよく知っていた。

 彼が裏がないと言った以上、本当に裏はないのだ。

 

 つまり枯れた遺跡の奪還が大命題ということになる。

 その得体の知れなさに誰もが底知れぬ恐怖を感じたのであった。


「大勢の領民が誤解しているようだけど、エナジーディーの重要性というのはその中に眠る先史時代の遺物、ロストテクノロジーの埋蔵量によるものではない。アレはミレニムのルーツそのもの、計り知れない程の歴史が秘められた遺跡なのさ」


「そんな歴史的な価値があの遺跡にある? 聞いたことありませんわ」


「観光庁の長の発言とは思いたくない発言だね。……まぁ、キミ就任したばっかだし、ソースが一般に公開されていない文献だから仕方がないともいえるかな……」


「文献? 何のですの?」


「端的に言えばザンブレイブの秘面の物語さ」


 グラムの発言にマヘリアは目を丸くする。


「ザンブレイブって……あのおとぎ話の? 昔、悪い魔導士にミレニムが支配されていたっていう? アレが一体なんだと言うのです?」


「驚くのもムリはない。だけど出てきちゃったんだよ。ヘンな文献が」


「ヘンな文献?」


「そう、ザンブレイブの秘面の物語が実際に起きた歴史上の史実だという文献がさ」


 …………………………


「冗談が過ぎますわ。そんな夢物語に付き合ってはいられません」


「まぁ、夢物語と断じる前によくあの物語を思い返してごらんよ。あの物語では最後に遺跡が出てきただろう」


「詳しい話は覚えておりません。だいぶ昔に聞いたきりでしたから」


「ショックだなぁ。寝る時間削って読み聞かせてあげたのに。仕方がない。なら、もう一度語って聞かせてやろうか」


 グラムは一つ咳ばらいをすると居住まいを正す。

 

 表情は真剣そのもの、先ほどまでの微笑はどこにも残っていなかった。



「この地はかつて悪い魔導士に支配されていた。そして魔力を持たない善良な人々はカカシ人と呼ばれ迫害を受けていた。そんなある日、どこからともなく旅の若者が現れた。彼は魔力を無効化するザンブレイブの秘面というオーパーツを持っており、カカシ人たちの悲惨な生活を目の当たりにした彼は秘面を被って悪い魔導士たちと戦う決意をした。だが、魔力を無効化されても魔導士たちは恐ろしく強く、その戦いは凄惨を極めた。若者は多くの仲間と最愛の人の命を犠牲にしてようやく魔導士たちを倒すことができたのだ。だが、一人だけ、圧政の元凶ともいえる最強の魔導士だけはどうしても倒すことができなかった」


 マヘリアは目を閉じ当時の記憶を探る。だが、なぜか思い出せなかった。


「なぜ倒せなかったのですの」


「最強の魔導士は不死の呪いをその身に受けていたからだ。だから若者はその魔導士を無力化するため、ザンブレイブの秘面を魔導士に被せて地下深くに封印した。そして平和になったこの地にカカシ人の聖地を作り上げたのだ。それが今のミレニムの前身であるテランの街と言われている。そして勇者となった若者が最強の魔導士を封印した地こそ彼の遺跡、エナジーディーという訳なのさ」


 グラム氏はよほどこのおとぎ話が好きなのか、まるで見てきたことのようにつらつらと語る。


 そしてそれを聴き終えたマヘリアはコメカミを抑えていた。


「……それで……お父様はもしや遺跡がダテンシに破壊されでもすればその悪い魔導士とやらが復活する、なんて思ってらっしゃるのかしら?」


「いい読みだね……だが、それは何とも言えない……だが、先ほども言ったようにザンブレイブが実際に存在していたと信ずるにあたる文献が出土したのは事実なのさ。だとすれば警戒して然るべきだろう。文献によれば最強の魔導士が放つ魔法はミレニム全土を焦土に還るほどの威力がある……と、されているのだから。もし本当に存在していてまだ生きていたとすればそれはミレニムにとって最大の脅威となるだろう」

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