その3
「うるさいっ!! この人殺しっ!!!」
「私を殺せば名実ともにキミも人殺しの仲間入りだぞ? 私と同じ境遇に堕ちるつもりか? それともそこまで深くは考えていなかったか?」
「なっ!?」
「どうやら後者のようだな。フッ、力はあるが知能はそれに伴っていないようだな」
「うるさいうるさいうるさいっ!! 黙れッ!!」
動揺したのかエルシー攻撃の矛先がぶれる。
「フフフッ、そんな大振りではキミがいつも言う仇討ちとやらはいつまで経っても叶えられそうにないな」
「うるさいうるさいうるさいうるさいっっっ!!」
怒りにまかせて鉄塊を振り回すエルシー。
何度も何度も大振りするうちにエルシーは体勢を崩してしまった。
N2はその隙に後ろに跳躍して距離をとる。
明らかに初撃の奇襲に比べて精彩を欠いていた。
(こんな安っぽい挑発に乗るとは……エルシー……キミの才能には素直に敬服する。だが、まだまだキミには経験が足りない。だから知らないんだ。戦いに感情が不要なことを)
N2はいつものように覚めた頭と冷めた目でエルシーの挙動を観察していた。
そしてエルシーの限界が近いことを見破っていた。
怒りは時として人智を超えた力を人に与え、信じがたい成果を与えることもある。先ほどのロスティスシールドを打ち破った一撃はまさに怒りの感情が爆発した結果によるものだろう。
だが、それでおしまい。あとには続かないことをN2は知っていた。
激しい怒りの炎は想定外の力の代償に、宿主すら気づかぬうちにその身を焦がしていくのだ。
今は怒りで痛みが抑制されているのかもしれないが、身体はウソはつけない。
N2の耳には、エルシーの身体の軋む音すら聞こえてくるようだった。
(それにその生傷、今のミレニム騎士団はキミだけで戦っているようなものだ……)
先だっての事件で大勢の騎士を失ったミレニム騎士団は以前以上に烏合の衆の集まりと化していた。
そのためエルシーはN2不在の時はいつも一人でダテンシ達に立ち向かっているのであった。
打撃の精度が下がってきているのは決して先ほどの挑発のせいだけではないことは明らかであった。
(早く楽にしてやろう……)
そこまで見抜くとN2は袖奥の武器に意識を集中させる。
テンタクルエッジ
ダテンシを滅ぼすためにある人と共に生み出した秘密兵器―――
だが、その人はすでにいない。
N2に想いを託して去ってしまった。
(今はその事を考える時ではないな)
N2はややもすれば囚われてしまがちな感傷を払いのけ、意識を武器に集中させる。
するといつものように武器の声が聞こえてくる。
『イクゼギアック』
そこでN2は思わず苦笑してしまう。
すでに捨てた名、すでにその名でN2を呼ぶ者はどこにもいなくなったというのに、武器だけが未だに過去の名前で呼んでくるのだ。
それは寂しさを通り越して滑稽とも言える話であった。
(武器の声に感傷するなんて、僕もとうとうヤキが回ったかな?)
そしてN2はそのまま武器の声に身を任せ、導かれるように異触の刃を放った。




