その1
一人の少女がいた。
少女はロウソクの灯りゆらめくうす暗い部屋で、膝を折り、祈りを捧げていた。
「……どうか……ご無事で……」
あどけなさが残る横顔、おそらく10歳前後の童女だと思われる。
そんな幼子がわき目もふらず一心不乱に祈りをささげる姿はある種の聖性を感じさせ、その祈りを妨げることはとても罪深いことなのではないかと錯覚させる程であった。
「エリアさま! いつまでもそんな所におられてはお風邪を召してしまいます。そろそろベッドに入ってお休み下さい」
だがあっさりとその聖域を犯す者がいた。
彼女の身を案じる従者、カスミである。
彼女は主の祈りを邪魔しないように先ほどからずっとそばに控えていたが、陽が沈み夜が更けても一向に終わる気配を見せない祈りにさすがに職業的責任感にかられ、主の肩に毛布をかけるとベッドへと促すのであった。
「あらカスミ、いつからいたの?」
「はぁ、気づかれてもいなかったのですね……今夜は今年一番の冷え込みです。そろそろお休みになりましょう」
「ええそうね、たしかにとってもさむいわ。でも、まだやすむわけにはいかない」
「……なぜでしょうか」
「なぜって……きまってるじゃない。あのお方がまだたたかってるからよ。今もこのミレニムをまもるためにいのちをかけてたたかっている。そんなじょうきょうで妻たるわたしがさきにやすむわけにはいかないわ」
起伏の無い胸を張りながら威厳たっぷりにそう答えるエリア。
そんな主の態度を見てカスミはやれやれと首をふる。
「……それはエリア様が勝手に言っているだけでゴニョゴニョ」
「なに!? なんだかすごくふけいなことばがきこえたようだけど!!?」
「い、いえなんでもござりませぬ」
エリアの剣幕にカスミは怪しい口調でごまかす。
そんな挙動不審な従者をいぶかしむエリアからは先ほどの荘厳さは消え去っており、年相応のあどけなさが見えていた。
「・・・まあいいわ。いまのはおおめにみてあげる。なんたってわたしはせかいいちやさしいりょうしゅをめざしているんですから。かひのはつげんにいちいちめくじらたててはいられないわ」
小さな拳を腰に当て偉そうにふんぞり返る主人の姿にカスミはにこやかに微笑む。
「ははーありがとうございます。領主さま」
「よいよい……だけどそのかわりといってはなんだけど……おねがいがあるの」
「フフッ、いいですよなんなりとおっしゃってください」
「じゃあね―――わたしといっしょにおいのりしてちょうだい! わたしたちをまもってくださるミレニムのしゅごしゃ、N2さまのごきかんをねがって!!」
「お安いご用です」
そしてエリアとカスミは肩を並べて祈りをささげ始める。
見ると二人の正面には小さな祭壇が設けられていた。
その中央には人型のご神体が仁王立ちで二人の敬虔なる信者を仰ぎ見ていた。
二人は信仰するその神が自分たちの祈りを聞き届け、戦場にいるであろう悪夢を守ってくれることを心の底から信じていた。
だが、その時、当の悪夢は―――
「死ぃぃねぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「クッ!!?」
エリアたちの願いも虚しく、死の危機に直面していた。
ここから第2部がスタートとなります。第1部から半年経っている設定です。




