その16
何の反応も示さない通信石と長い事格闘していたセシリアはいつの間にか微睡んでしまっていた。
そしてある夢を見る。
そこはダテンシが滅ぼしつくしされ、長き宿願に終止符が打たれた世界。
だが本当の平穏はまだ訪れてはいなかった。
最後に残された真の悪夢は――――
そして自らの手でその悪夢を終わらすために、セシリアは剣を手に取る。
そしてそのまま黒いコートを纏った禍々しい悪夢の胸に剣を突き立てる。
妙に生々しい感触を掌に感じながら、セシリアは悪夢の最期の言葉を耳にする。
『ありがとうございます……貴女の決意が世界を――僕を救ってくれた――』
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「……なんなんだ……」
セシリアの眼から涙が一筋こぼれ落ちる。
理由は分からないが目が覚めた途端、ぽっかりと胸に大きな穴が開いたかのような喪失感があった。
その原因が分からず、八つ当たりで何も映していないモニタをコツンと小突いてみる。乾いた反響音がよけいに心に沁みただけだった。
この悲しみを分かち合ってくれるはずの共犯者の姿はどこにもない。
「……この私が泣いているのだぞ? どこをほっつき歩いている?……さっさと帰って来い、バカ者が……」
それは騎士団長の鎧を脱ぎ捨てたただの一人の少女の切なる願い。
そして日は流れ―――
「ダメだっ!! もう持ちません隊長!!」
多数の活性化した鈍亀に囲まれた騎士たちから悲痛の叫び声が上がる。
「バカ野郎っ!! そんな弱音を吐いてる暇があったら剣を振るいやがれっ!!」
隊長と呼ばれた人物―――ミユキ=フェルナンデスは槍を突き出しながら声を荒げる。
「それにこんな大量のダテンシをあのお方が見逃すわけがねぇ!! もうちょっとの辛抱だっ!!」
そう言い放つミユキだったがその腕はわずかに震えていた。しかしそれを悟られないように気丈にも笑みを浮かべる。
そんな騎士たちの運命を手中にしているのが分かっているのか、鈍亀はゆっくりとした動作で歩み寄り、そして巨大な前脚を振り上げると即座に容赦なく叩き下ろした。
その瞬間―――その場にいた誰もが死を覚悟する。
だが―――ミユキだけは最後の瞬間まで鈍亀を睨み続けていた。そして彼女は――
ビュウウウン
風鳴りの音を聞いた。
「へ、へへっ、や、やっぱり来てくださった。ミレニムの守護者、仮面の勇者さまがっ!!」
彼女の視線の先には黒いコートを纏った一人の人物が立っていた。
所々不気味な紫色の光を発するその人物の思惑を読み取ることは誰にも出来ない。
なぜならその表情は紅い一つ目が瞬く兜によって覆い隠されてしまっているから。
そしてなにより彼はすでに人ではなく、ただダテンシに悪夢を見せるためだけの存在となっていたのだから。
獲物を前にして黒コートの男、N2はそっとつぶやく。
「さあ祈れダテンシども。お前らに悪夢を見せてやるよ……」
~~ 第一部 完 ~~




