その13
(い、一体、な、何が起きたのだ?)
霞む視界の中、ハクは今しがた起きた事を考えようとしていた。だが腹部に走る激痛によって何も考える事ができない。その時傍らに誰かが立った気配がした。
「………ギ、ギアックか……」
「……………いつも冷静なハクらしくなかったね」
仮面をつけてはいたがそれは間違いなくかつてレコンキスタ教団で共に戦った少年の声であった。
「ふ、ふふ、貴様を前にした瞬間、なぜか、怒りが抑えきれなくなった。まだ、私も未熟だったと、いうわけだな」
「そうなんだ。でもあの融合は凄かった。あの姿は正にゼノそのものだったよ。きっとたくさん修行したんだろう? だからごめんね」
手持ちの武器ではとうてい倒しきれないと判断したギアックはある決断をした。
それは敵の力を利用して倒すという事。
あの地面を穿った拳の威力を見て思いついた事だった。
そう判断した後はやることは一つだけだった。身体に直接誘導印を刻みつけ、そこに攻撃を誘導する。そのために無謀とも思える接近戦を仕掛け、徐々に誘導印を刻み付けていったのだった。
それは決して正当とは言えない勝ち方であり、ギアックには後ろめたい気持ちがあった。しかし当のハクはなぜか困惑した表情を浮かべている。
「巨大……? ゼノだと? お前、何を言っているのだ?」
「何って……? さっき鈍亀を取り込んで巨大な人型にしていたじゃないか。いくら怒りが勝っていたからって記憶にないなんてことは」
今度はギアックが困惑する。ハクの表情にはウソを言っているような様子は無かった。本当に記憶にないのだ。
「どういう事だ……?」
嫌な予感がした。
胸がざわつく。この戦いの本当の意味とは―――
「いつから、いつから記憶にない?」
「さてな……貴様の姿を見掛けたあたりから記憶が曖昧だが、この様子では、どうやら私は負けたらしいな」
自らの血まみれの腹部をさすりながらハクはそっと目を閉じる。
「戦士として闘い敗れたのだから悔いはない。……だが、キミを置いて先に逝ってしまうことは許してほしい、愛しのエイダ……それにまだ見ぬ私の……」
何事かを呟き終える前に首をゆっくりともたげ―――ハクは絶命した。
「エイダって……まさかハク……」
いくら体を揺すってみても反応はない。
その最期の言葉にギアックは胸に大きなしこりを残したまま、その場を後にするしかなかった。
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