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ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第5章 ステキな悪夢
47/118

その7

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「ここまでは成功か」


 街中で上がった数本の火柱を見ながらギアックは一人つぶやく。


レコンキスタ教団にいたころによく使用していた上下に大爆発を起こす局所混合爆弾はその任を全うしたようだった。


 ギアックはセシリアに許可をもらい主要施設の前の地面を一気に爆破したのだった。それによって出た被害は想像するしかないが、最善を尽くしたと自分には言い聞かせておく。それに感傷に浸っているヒマなどない。


 ダテンシには火薬による攻撃は効かない。だからこれから起きることに変更はないのだ。現にミレニムの地下に張り巡らされた水路から何かが迫って来る気配を足元から感じる。



「…………来るな」


 ギアックは身構える。



 地面が微弱に揺れている。



 そしてその揺れはどんどん激しくなり、立つのも困難な程になっていく―――



 そして突如―――水の離宮にある噴水がいっせいにピタリと止む。






 ドジャァァァァァァァァァァン!!!!! 




 その直後に轟音と共に背後の地面が崩れ落ち、そこから活性化した鈍亀が飛び出してきた。



 その勢いは凄まじく、数メートルの高さまで飛翔した鈍亀は空中で回転しながら体勢を整え、後ろ脚で大地に降り立つ。



 その着地の衝撃で石畳が砕かれガレキが殺人的な速度で飛来してくる。



 それらを躱しながらギアックは最初のターゲットと対峙するが、



「驚いたな……シエラ、まさかこれほどとは……」



 そう思わず声を失ってしまうほどに、目の前の鈍亀は仕上がっていた。



 おそらく扇動者の感情が植え付けられ通常の活性化以上の力が発揮できるように調整されているのだろう、とギアックは判断する。


 手が足りない場合は最悪鈍亀の意識を乗っ取って戦力にしようという考えを即座に捨てざる得ないほど、その調整には付け入る隙はなかった。



「やっぱりそう上手くはいかないか。仕方ない」


 ギアックは深呼吸する。そして意識を右腕に集中させ自分の体をテンタクル・エッジと一体化させていこうとする。


 身器統一の境地―――







 ――――だが、なぜか今日に限って武器の声が聞こえてこない。



 身器統一の境地に至らない。



 訳が分からず困惑するギアックは、その時身の毛もよだつ程の危機を察知する。


 目の前の鈍亀が突如クラウチングスタートのような体勢になり後ろ脚を蹴り出したのだ。それによって爆発的な加速力を得た巨体が一瞬にして眼前に迫る。



「クッ!!!」


 迎撃のためギアックは右腕を前へとかざす。そして袖に収められていたウェポンラックからテンタクルエッジを射出する。



 ボンッ!!



「なっ!!!?」



 直後に予期せぬ激しい衝撃が右腕に襲いかかり、体勢を大きく崩してしまう。


 飛び出した剣先はあらぬ方角へと飛んでいき、やがて何もない虚空を切り裂いた。



 そして無防備になったN2の胴体に、凶弾と化した鈍亀の巨体が突き刺さる―――――




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「……そろそろか……」


 そう呟くとセシリアは身を預けていた椅子から上体を起こし、モニタに手をふれる。


 すると息を吹き返したかのように黒いモニタに映像が映しだされ、N2のカメラアイから送られてくる映像が映しだされる。そこに広がる光景を見てセシリアは息を呑む。




「っ!!!」



 想像以上に禍々しい出で立ちのダテンシがそこに居た。


 思わず目を覆いたくなる程の恐怖をモニタ越しに感じてしまう。


 そしてそのダテンシがかがみ込み跳躍した。


 次の瞬間モニタの画像が乱れ、画面が暗転し映像が途絶えてしまう。



「あ、ああ……」


 目まいがして崩れ落ちそうになる体をセシリアは机のへりに手をかけて何とか支える。そして何も映し出さなくなったモニタを睨み付けながら意を決したかのように立ち上がる。



「もう、四の五は言ってられん、か」


 そして卓上の通信石を手にすると、ある人物に向けて指令を発する。



「私だ。やはり想定していた通りの事態となった。現場の指揮は任せる」


『そうですか。分かりました。謹んでお受けいたしましょう。ですが、その後のことは……』



 この期に及んで言質を取ろうとしている相手に向かってセシリアは即断する。



「分かっている。約束を違えることはせん。だから頼んだぞ」


 『承知いたしました。ではまた後ほど。我が愛しの人よ』



 通信を終えたセシリアの胸中には何の後悔も無かった。


 ただ何も映し出さなくなったモニタを不安げに眺めるだけであった。



「……頼む、死なないでくれ……」



 そしていつの間にか手を組みながら、セシリアは神に向かって祈っていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






 痛みはない。



 ただ血液がドロドロと溶けたマグマのように熱をもって全身を駆け巡る。



 忘れかけていた感覚、ギアックはふと感慨深くなる。



(懐かしいな。こんな思い久しぶりだよ……)




 身を焦がすようなその思い、その正体、それは怒り。



 活性化しているとはいえ、たかがダテンシ一匹に後背を喫してしまった恥辱が怒りとなって全身を包み込んでいたのだった。



 先ほど突進してきた鈍亀の攻撃をギアックは左腕に装着されたもう一本のテンタクルエッジを使い、離宮の壁を突き刺し巻き上げることで緊急回避していた。


 だが完全には躱しきれず、兜前面の感石カメラにはヒビが生じ使いモノにならなくなっている。


 所詮お飾りの兜であり、特にダメージがある訳でもなくギアック自身の視界にも変化はなかったが、非常に不格好になってしまっていた。



「まぁいいや。別に無傷で勝つ必要なんてもうないしね。それにしても」



 気持ちを切り替え先ほど右袖に収納したばかりの秘密兵器に意識を集中する。


(とんでもない反動だったな)


 最初射出した際にはその勢いの強さに体が引きずられそうになった。


 欠陥品なのではないかと疑ったが、左腕のテンタクルエッジも射出してみてどうやらそうではないという事が分かってきた。


 つまり、これは今まで扱ってきたどの武器よりもピーキーな仕上がりの武器なのだ。



 調整する暇などなかったのだから当然ともいえる。



 さらに言うならこれは今まで存在すらしていなかったmオリジナルの一点物なのである。



(これじゃすぐに身器統一出来ないわけだ)



 ある程度その武器の本質を理解しなければ武器の声は聞こえてこない。


 それが身器統一の絶対的な条件、基本的なルール。だからこの異触の刃と同化するためには



「少し慣れなきゃダメってことか……ん!!」



 ため息をつこうとした矢先、先ほどの鈍亀が再び突っ込んでくる姿が遠くに見えた。


 どうやらこの鈍亀はキャパシティを超えた怒りを植え付けられたことで前方に突進するという特性を得たようだった。


 肥大化して全長五メートル超になっている巨体から繰り出されるタックルは壁にぶら下がった今の状態では避けきれないので、ギアックは再びテンタクルエッジを射出させ頭上に張り出したテラス部に引っかけて縦移動する。



 ドガシャァァァァァァン!!!



 直後に足元で歴史的建造物が大量の塵芥と化して宙を舞う。


 このワンパクぶりを見る限り、このままのペースで鈍亀が暴れ回ればそう遠くない未来にこの離宮は跡形もなく崩壊しつくすだろう。



「やれやれ、物の価値も人の苦労も分からない困った生物だよ」


 ギアックはぼやきながらワイヤーをゆっくりと伸ばして地面に着地する。


 そして今しがた自らが作り出した大穴からのっそりと現れた鈍亀と再び対峙する。


「そろそろ……いいかな」


 そして身構えるとむき出しになった欺核に狙いをつける。


(大体のクセは掴めた。後は実戦で微調整だ)


 掌を何度か握り直すとギアックは右腕を鈍亀にかざし、紅く輝く欺核に向かってテンタクルソードを射出する。



 ボンッ!!



 空気が破裂するような音と共にワイヤーの先端に装着された剣が飛翔する。


 その反動が大きいことは先ほどの攻撃で分かっていたので、ギアックは左手で右腕をしっかりと支え、足を地面に突き刺すようにして体を固定していた。


 そのおかげか精度は各段に向上し、剣先は欺核に吸い込まれるように伸びていった。


 ----しかし接触の直前、危機に気付いた鈍亀が素早く丸太のような前脚で剣を払う。



 キィィィン



 かん高い金属音と共にテンタクルエッジは固い表皮に弾かれる。


 行き先を失った刃先が大きく弧を描きながら空中に投げ出される。



 しかし


「まだだっ!!」


 叫びながらギアックは手元のワイヤーを引っ掴み、全身の力を込めて振り下ろす。

 その瞬間、再び剣先に命が吹き込まれ、うねりを上げながら鈍亀に迫る。



『―――――――――――』


 予期せぬ剣の軌道にさらされた鈍亀は禄に反応することも出来ず、あっさりと欺核を切り裂かれてその場で砂の塊と化した。



「うん、中々いい感じだ。ハハハッ」



 戦いの場だというのにギアックは笑いを押さえられなかった。今の手ごたえは、テンタクルエッジの使用感は想定以上のものであった。



 ダテンシの射程外からの精密斬撃。



 それがどれだけヤツらにとって脅威的な事なのか、かつてのA級扇動者なら痛いほどに理解できた。


 この武器さえあればいくら活性化していようと関係がない。


 一方的に攻撃を与え、一方的に殲滅することが可能だった。



 さらにこの武器はまだ可能性を秘めている。


 身器統一という可能性を。そしてそれが実現した暁にはセシリアの夢が夢で無くなるかもしれない。



 そんな事を夢想していると胸の内側から何かがせりあがって来るのが分かった。


 今はそれをムリに抑え込む必要などない。誰気兼ねなく解放しきれるのだ。



「さあ、お次は誰かな?」


 仮面の奥の眼差しが獲物を見定めるような目つきで続々と増えていく鈍亀をねめつけていた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


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