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ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第4章 ステキな秘密兵器
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その9

 セシリアとの話し合いから数日後―――


 久しぶりに完全OFF日となっていたギアックは、エルシーとミレニムの繁華街を肩を並べて歩いていた。



「それにしてもすっごい偶然だったねぇ」


 ショートパンツ姿のエルシーが弾んだ声で喜びをあらわにする。


「そうだね。すごい偶然だ」


 特に用事もなかったギアックは、気晴らしに一人で街を散策していた。

 すると先ほど同じく一人で買い物に来ていたエルシーと、街中でばったり出くわしたのであった。


「それじゃどこ行こうか?」


 すでに二人で行動することが前提のエルシーの発言、もちろんギアックも否定などしない。


「そうだね。どこに行く?」


「いろいろと話したい事もあるし、腰を落ち着けられるところがいいね。この前のお店にまた行ってみよっか?」


 他の見習い騎士たちが聞けば発狂しそうなエルシーの発言だったが、別に過去に二人でデートをしたことがある訳ではない。


 ミレニムでは若者が買い物するような場所は限られているため、そこでたまたま顔を合わせた同期同士が行動を共にした、今日のような状況が過去にもあった、ただそれだけの話であった。


「この前の店って……あのピンク色のお店の事だよねぇ?」


「そう。覚えてる? あそこの新作プティングが絶品らしいんだって! まだ食べたことないから行ってみたいな」


「あそこかぁ……」


 テンションあげげのエルシーとは対照的にギアックは渋面を作る。


 ピンク色のお店、というのは別にいかがわしいお店の事ではなく、ただ内装がピンクなだけの喫茶店の事である。壁紙の原色ピンクが目に優しくなく、調度品がいたってファンシーな事を除けば普通の喫茶店だ。


 だがしかし


 居心地に関しては最悪の部類であると言えた。


 なぜなら客の構成比率は男が1に対して女子が9。そしてそこにいた僅かばかりの男子も、対面に座る女子に「ホラ、あ~ん」とかやり合ってて、どう考えても特別な関係にしか見えなかった。


 提供されるケーキよりも甘々な関係、すなわちあそこはカップル御用達の店なのである。


 さすがに朴念仁なギアックでもそんな環境で落ち着けるはずもなく、あそこへ再訪する事を思うとギアックの気持ちは重く深く沈んでいく……



「よし、行こうか」


 かと思いきや、ギアックは快諾していた。


「あれ? いいの? ダメ元で言ってみたんだけど……ムリしてない?」


 誘った本人が意外な顔をするほどにその時のギアックは乗り気であった。


「嫌がったってどうせ連れて行かれるんでしょ? それにむしろ今はああいう店に行きたい気分なんだ」


「何ソレ?」


「いいからいいから。とにかく行こう」


「ちょ、ちょっと押さなくていいよ。ちゃんと自分で歩けるからさ」


 照れたようにギアックの手から逃れようとするエルシー。それを追うギアック。天上の太陽がそんな無邪気にはしゃぐ二人の影を石畳に映し出していた。


 この時、ギアックはこの他愛無いやり取りを心の底から楽しんでいた。


 これこそが自分が求めていた平穏な日常。そしてここ数日の異常な日々を早く忘れたいと願う。


 大量の武器を内蔵した物騒なコートと、ダテンシを滅ぼすという夢物語を語るお嬢様、あんな常識外れな非現実からは一刻も早く離れたい。




 ―――だが、意志とは反して頭の中にあるビジョンが浮かんでくる。


 N2となってダテンシに異触の剣を振るう自分自身と、その剣先が欺核を切り裂く瞬間のビジョンが。 



(そんなものは今の僕には必要ない)

 

 そう断じてギアックは浮かんできた映像を心の奥底にしまいこむ。


 それで全ての作業は完了、いつもの腰抜けのギアック=レムナントに戻る。



 だが、どうしても不安感が拭い去れない。


 閉じ込めたその衝動がいつまでも消えずに残り、積もり積もっていつかは溢れてきてしまう、そんなイメージが常に頭の片隅に残ってしまっていたのだから。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 店から出ると太陽は傾き街を紅く染め始めていた。


「ホントにごめん!! 調子に乗って一日中付き合わせちゃった!!」


 顔の前で掌を合わせて謝罪するエルシー。


 最初に訪れたピンクの店で件の新作プティングとやらを口にした瞬間、それが全ての始まりとなった。


「う、旨い、旨いぞ!!」


 今まで口にしてきた甘味が全て紛い物であったと思えるほどにその一品は絶品であった。

 その感動を身振り手振りを交えて伝えた所、エルシーは嬉しそうに微笑み、


「ホントに!?実は他にもおススメの店がたくさんあるんだ!!」


 と言ってミレニムに点在している菓子店をギアックに案内して回ったのだった。そして今十軒目の店を出たところで二人は一日が終わろうとしている事を知ったのであった。


「いいよ。気にしてない」


 だがギアックの顔には不満の色はない。むしろ嬉しげである。


「本当に?」


「うん。時間を忘れちゃうくらい楽しかったってことだよ。それに実は最近ちょっとイヤな事が続いていたんだけど、甘いものをたくさん食べたらそんな事すっかりどうでもよくなっちゃった。だからむしろお礼を言いたいぐらいさ。ありがとうエルシー」


「それってわたしに気をつかってない?」


「つかってないよ。それに僕はエルシーに気なんてつかわない」


 はっきりとそう告げられエルシーは申し訳なさそうな表情から一転、不機嫌な表情になる。


「えーその言い方はさすがに失礼じゃないかな」


「はは、ごめん。でもそれだけ気のおける間柄って言いたかったんだけど」


「……そんなんで誤魔化されないんだからねっ!!」


 一瞬驚いた表情を見せその後に照れたようにはにかむ。コロコロと変化するエルシーの表情にギアックは感心してしまう。


「それじゃ帰ろうか」


「あっ、うん」


 そして二人は並んで帰路につく。石畳にはピッタリと寄り添った二つの影が長く伸びていた。

 それをぼんやりと眺めながらギアックは隣にいるエルシーの事を考える。


(さっきは何気なく言ったけど……本当にこの娘には感謝しなくちゃいけない。今日のおかげで自分が何をしなきゃいけないか……ハッキリ分かったよ)



 エルシーとの楽しい時間のおかげで、ギアックはここ数日の異常性に改めて気づいていた。




 やっぱりセシリア様はおかしい



 ダテンシに対する異常なまでの執着と憎悪、

 ダテンシ撲滅を生涯の目標として掲げ、私財を擲ち暗器コートなる超兵器を作成する妄執っぷり


 過去にダテンシとどのような確執があったかは知らないが、どれもこれも常人の範疇を超えている。狂っていると言ってもいい。


 そもそもN2の活動なんていくら続けても、ハッキリ言って何の意味もない。


 ダテンシ撲滅などという夢物語を個人の力で成し遂げられるワケがない。


 ダテンシは別にミレニム周辺にだけ生息している訳ではなく、世界中に満遍なく生息している。

 それにその発生のメカニズムすらハッキリとしていないのだから、撲滅させようがないではないか。


 このままセシリアにズルズルと付き合っていれば、間違いなくロクな事にならない―――そろそろはっきり言った方がいい。


 本当に大事なモノを守るためには闘わなくてはいけない時がある。


 今がまさにその時であると、ギアックは感じていた。



 主と決別する。



 その決意を、ギアックは今日一日で固めたのであった。

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