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ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第4章 ステキな秘密兵器
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その3

 ギアックとエルシーは同日に入団した同期生であり、それ以来の腐れ縁であった。


 ギアックは思う。

 いくら同期生とはいえエルシーがここまで自分と仲良くしてくれるのは例の体質のせいに違いない、と。


 彼女は誰とでも仲良くなれるタイプの人間ではあったが、例の体質のせいでほとんどの見習い騎士から一定の距離(物理的な)を置かれてしまう。


 それは原因の分からないエルシーからしたら、とても悲しいことだと想像がつく。他人の笑顔の裏に自分に対する恐怖が常に見え隠れしているのだから。


 だからまったく警戒することなく近づいてくる自分やミユキのような存在には心を開きやすいのだろう。


 でなければ嫁にしたい女子№1の美少女が、騎士団発足以来の腰抜けのことなど気にかけてくれるはずもない。

 

 少し寂しいが、ギアックはそんな風に考えていた。




 ガンッ、ゴンッ、ドンッ



そんな感傷に浸っている間にも見習い騎士たちは黙々とダテンシ狩りにいそしんでいる。


 ブシュゥゥゥゥゥ~~~~~~~



「よっしゃぁ~~倒したぜ!! これで今日4体目だっ!!」


 

 

 そして喜びの声が上がったのと同時に、彼らの目の前にそびえたっていた岩のような物体が音もなく崩れ去っていく。


 今しがた砂の塊と化した物体―――アレこそがダテンシ、鈍亀級(トータス級)である。


 ミレニムでダテンシといえばこの鈍亀級のことを指しており、その名が示す通り動きは鈍重で、性格も穏やかで太い丸太のような四肢をのっそりと動かしながら歩く様は、まるで草をはむ乳牛のように牧歌的であるとさえ言われている。


 ただ、小さい個体でも全長三メートル以上はあるため、近づくとそれなりの迫力はある。


 だからといって危険などはいっさいなく、どんなに近づいてみても反応すらしないため、今も見習い騎士たちに四方を囲まれいいように蹂躙されている。


 それはまるで、生物が本来備えているはずの防衛本能が欠如しているかのようだった。


 いや、そもそもコレを生物と呼んでいいのか?


 なぜならダテンシの生態については―――いっさいが明らかになっていないのだから


 何を捕食して生き長らえているのか? 繁殖方法は? 分裂か、交尾か? 寿命はどれくらいなのか? 様々な機関が長い時間をかけて詳細な調査を試みたが、その疑問を解消するような答えは今もって得られていない。


 分かっていることといえば、過去の文献によって有史以前から存在しているということと、

 そして、休むことなく攻撃を加え続けていればその内に砂化して死亡するということだけだった。


 おそらく先史時代の超文明に関わるモノと予想はされるのだが、それすらも予想の域は出ていない。


 そんな未知の存在に対して人々が下した結論は―――



 『よく分からないけど―――特に害もないから放っておこう』



 戦略的放置というヤツであった。



 こうして人々は長年の調査によって、ダテンシとの適切な距離感を得るに至ったのであった。



 だが、もちろん完全に放置というわけにはいかない。

 放っておけば数が増えすぎて畑が踏み荒らされたり、橋が落ちたりする危険性もある。


 そのため今回のように定期的に間引きをする必要があるのであった。


 




 ―――だが、これはあくまでもミレニムにおいての事情




 世界はすでにダテンシにここまで寛容ではない。


 なぜなら気づかされてしまったから。

 


 ダテンシの本来の姿を、本当の脅威を、


 

 ダテンシをこの星の主権者であると唱えるカルト教団《レコンギスタ教団》の手によって―――






「あっ!! 見て見てギアック!! あれ本隊じゃない!?」


「えっ、どれどれ?」


 突如エルシーが前方を指さす。その示す先には物々しい甲冑姿の一団が見えた。

 ギアック達のいる丘から約100メトルほど離れた丘の上に今から陣を張ろうとしているようだ。


 旗印はミレニム騎士団の十字紋章。そして一団の中央には、多くの騎士たちに守られるように一人の女性が座している姿が見えた。


 もしやアレが―――


「きっとアレが噂の《地上に顕現した女神様》に違いないわ!」


 エルシーは鼻息荒くそう断ずる。 


「女神さまねぇ……本当にそんなに美しいのかねぇ。それにもしそうだったとしたら、もっと普段から来て僕たちを鼓舞してくれればヤル気が出るようなものの・・・」



「そんなことでギアックにヤル気が出るとは思えないよ。それにそんなしょっちゅうきてたらありがたみが薄れちゃうでしょ。たまにだからいいんだって」


「そういうものかねぇ」


「そうよっ!!」


 珍しく興奮気味のエルシーが先ほどから言っている女神様とは、何を隠そうミレニム騎士団の長であるセシリア=グラディアートのことであった。


 セシリアは現場主義者ではないようで、ほとんど見習い騎士たちの前に姿を現すことはない。


 そのためいつしか見習い騎士たちの間ではミステリアスな存在として神格化され、人によっては冷酷な《冷鉄の女》と揶揄されるようになり、夢見がちな女子たちからは《地上に顕現した女神様》と憧れの対象となっていたのであった。


 まるで出世魚のようにコロコロと名前が変わる百面相な団長だったが、それでもそんなミステリアスな存在が百メートルほど先の丘の上にいると分かれば、見習い騎士として気にならないワケがなかった。



「そう言えば今日は視察って書いてあったような気がする」


 ギアックはとくに興味もなかった緑色の通達文の内容をぼんやりと思い出す。


「だからそれで皆がいつも以上に張りきっていたわけだ」


「もうっ!! ホントにギアックはのんきなんだから……まぁそっちの方がギアックらしいとは思うけど」


「それでどうする? 今から僕たちも“頑張って狩ってますよ~”ってアピールしとく?」


「うーん、そうだねぇ~、……でも今からじゃみんなに追いつけるとは思えないし、それにそもそもダテンシをたくさん倒したからって幹部生になれるかっていうと、私はあんまり関係ない気がするんだよね……だからさ―――」


 エルシーはそこで言葉を区切り、上目遣いでギアックに微笑みかける。


 それは天使は天使でも、普段は見せないような、イタズラっぽい天使の笑みだった。


「せっかくだから―――こっそり騎士団長の顔を近くまで見に行こうよ!!」

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