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ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第3章 ステキなコート
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その9

「で、出たぞぉ――――!!! 仮面の男だっ!!!」 


「えっ?」


 屋根から侵入してすぐ、梁に足をかけた途端足元から叫び声が上がった。


 声のした方へ視線を投じると、十数メートル下に黒山の人だかりが出来ているのが見えた。


 照明が暗いのではっきりとは見えなかったが、あの様子だと数十人はくだらない。おそらく百人近くはいるのではないかと目算する。




 ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキ

 ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキ

 ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキ

 ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキ

 ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキ

 ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキ

 ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキ

 ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキ

 ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキ

 ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキン!!



 そして響き渡る金属音から、それらの全てが思い思いの武器を手にしている事が分かった。




(準備が良すぎる……どうやら待ち伏せをされていたようだな)


 


 最悪なことに今夜の情報はリークされたものだったらしい。



 セシリアがまんまと引っ掛かったのか、それともあえて気づかないフリをしていたのか、

 いまさら考えても詮無いことではあるが、ギアックは後者でないことを祈るばかりであった。




(しかしどうしたものかな。さすがにあの中に飛び込んでったらマズイよな)



 梁の上からでも男たちから立ち上がる殺気は感じ取れた。

 あの真っ只中に飛び込めばとても無事では済みそうにはなかった―――お互いに。


 だがいつまでも逡巡しているわけにもいかない。

 ギアックはここ数日の清掃活動で、主の気はそこまで長くはないということをしっかり学習している。




「仕方ない……お~いお前ら!! 今からソッチにいくからなぁ~~」



 

 ギアックは倉庫の一端を指差してから梁の端へと足をかける。




 そして―――





「おおっ!!?」



 

 そこから地上十数メートルの決死のダイブを敢行した。



 地上の男たちが騒然とする。





「あ、あっちに落ちるぞ!! 遅れるなっ!! 袋だたきだぁ――――ッ!!!」




「「「おおおおおお―――――!!!!」」」






 ドタドタドタドタドタドタドタドタドタ―――――




 時の声を上げながら男たちがギアックの落下予測地点へとなだれ込む。




(これだけ引き付ければ十分か)




 ギアックは大山鳴動する男たちをしり目に、落下中に左手で右手首を軽く握りしめる。



 パシュゥ



 すると袖の中から勢いよくワイヤーが飛び出しギアックの頭上の梁に巻き付いた。



 発射されたのはここ数日のテストで発見した≪暗器コート≫に内臓された武装の一つ、ワイヤーロープであった。


 ロスティスが編み込まれた特注のワイヤーで、他に類を見ない程の強靭さとしなやかさを持っており、ロスティス特有の意思を反映させる力が働いているため、使用者の意図によって長さ調整もできる(約十メートル内)万能ロープとなっている。



 ――――ギアックは試すつもりも無かったが、人体をスパスパと切り刻むことすらできる程、このロープは武器としても優秀であっただろう――――





「「「お、おおおおおおおっ!!!???」」」




 突然ロープによって空中数メートルの位置で静止したギアックを仰ぎ見、男たちから再び驚愕の声が上がる。そしてギアックは振り子のように大きく体を揺らすと、弧を描きながら男たちのいる地点からちょうど反対側、倉庫の隅へと着地する。



「「「おぉぉ~~~~~~~~!!?」」」



 熟達の曲芸師のような見事な動作に目を奪われる男たち。




 だが、すぐに我に返ると雪崩のように再びギアックに向かって押し寄せていく。




「よし、とりあえずこれで乱戦は避けられそうだな」




 ギアックは自分の降り立った位置を改めて確認する。



 そこは倉庫の奥まった部分で、周囲には木箱が縦に長く積み上げられている。

 いうなればウナギの寝床の中間部に当たる地点。


 そのためギアックの下にたどり着くには細い一本道を必ず通らなければならない。

 そうすると―――自然と一対一の状況が生まれる。


 ギアックの狙いはそこにあった。

 乱戦では数に劣る自分が圧倒的に不利、それを覆すために地の利を生かす他は無いと考えたのだ。


 恐るべきはギアックの戦闘センス、彼は梁の上から一瞥しただけでここまでの組み立てを行っていた。


 そして今、彼が考えていたことは―――、





(さてと、それじゃ物騒な武器は全部使わないように戦いますか)



 セシリアからは≪暗器コート≫と武器の性能テストを暴漢相手に行え、と指示されてはいたが、さすがにそれをそのまま実行することは出来ない。



 なぜなら―――






「タマとったるわああああぁ!!」



 最初の敵が襲い掛かる。見るからに無鉄砲そうな頬に傷がある男だ。


 匕首らしき短刀を構えながら腰を低くしての突進!! 確実に殺しにきている。


 だがギアックは落ち着いた動作で横を向き、その猛進をクルっとやり過ごすと、無防備に空いたその腹部に膝蹴りを食らわす。



 

 ボガシャァーーーン!!




「ぐ ぼ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ 」




 ≪暗器コート≫の膝に仕込まれたプロテクターがちょうどみぞおちに決まり、骨が砕ける衝撃音とともに男は血反吐を吐きながら床に倒れ込んだ。





 ピク ピク ピク ………




(し、死んじゃいないよね……ああ……手加減してもこの威力……分かっちゃいたけどやっぱりこのコートは)




「死にやがれぇぇぇぇ!!」



 休む間もなく次の刺客が襲い掛かって来る。



 今度の得物は巨大な斧だった。


 

 ギアックは振りかぶるタイミングを見計らって懐に飛び込み、頬に軽くワン・ツーを叩き込む。




 ズバシャァァァン×2




 「ア……ボ……ラ……チ……ョ……エ……ベ……」




 ズダーン!!!



 男は謎の呪文を唱えながら仰向けに倒れ込む。その顔面は原型が分からない程にひしゃげている。



(軽く当てただけなのにコレ……やっぱり、やっぱりこのコートは―――)









「このコートは―――危険すぎますよぉぉぉぉ~~~~~!!!」




 悩める子羊の心からの叫びが仮面の中にひびき渡る。

 

 その嘆きの声を聞いたのは遠く離れた騎士団長室、羊を使役している羊飼い以外には誰もいなかった。

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