その8
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あの衝撃的な夜以来、ギアックはセシリアを×××した罪(冤罪)によって、彼女の意のままに操られる傀儡人形と化していたのであった。
そしてセシリアが話していた究極の武器防具、ダテンシを滅ぼすために自ら考案、設計したというのがギアックが今身にまとっているこのフル・ロスティス製の≪暗器コート≫なのである。
その名の通り、このコートの中には古今東西のありとあらゆる武具が隠されており、それらがロスティスの未知の力によって理想的な形で収納されている。
その数、なんと108種!!
『いやいやいやいや、どう考えても無理でしょ!!?
こんな薄っぺらいコートのどこにそんなモンしまうスペースがあるんですかっ!!』
説明を受けながらギアックは何度そう叫んだか分からない。
だが、ものは試しにとコートに手を突っ込んでみると、これが不思議なことに絶対に収まりきらないと思われる箇所からニョッキリ武器がコンニチハしてくるのであった。
『??????』
『私にもなぜこうなったのかは分からん。だが実際にこのコートは存在している。おそらくロスティスの人の意思を反映させる特性、とやらが関係しているようだが』
ダテンシの生態は一般には不明とされている。
どうやって繁殖しているのか、なぜ存在しているのか、何を捕食して生命を維持しているのか、いっさい合切分かっていない。そのためどんな武器が有効なのかも全くの不明なのであった。
だからセシリアは考えた。
『ならば古今東西のありとあらゆる武具を一つに集約すれば、その内の一つでもダテンシに有効な武器があるのではないか』と。
そんなセシリアの荒唐無稽な想いが制作中に反映されたのか、完成した時点で《暗器コート》はブラックボックスの塊と化していた。用意したロスティス製(部分使用)の武具はコートの中に吸い込まれるように消えていったらしい。
それがまるで、コートがセシリアの想いを吸収していくかのように―――
だが、そんないいかげんな仕様のコートであるからして、セシリアはすでにどこに何が入っているのか、把握していない。
だからその確認と性能テストを兼ねて、ギアックが夜な夜な駆り出されるハメとなったのだが―――
『よくロスティスをこんな無駄遣いできますね……』
さすがにあきれ果てたギアックは、無礼を承知でそうつぶやいたものだった。
それに反する主の返答は、
『なに、実家に塊で置いてあったからな。有効活用してやったまでだ。ちなみにスペアは3着しかないからな』
予想以上のトンデモない返答だった。
このレベルのコートにスペアがある。それも3着も。
ギアックは改めて、この金髪悪夢とは住む世界が違うのだという事実を思い知らされたのであった。
『……その、それだけしかないから……大事に使ってくれよな』
『……ええ、分かっていますよ……』
だが、さすがにセシリアも愚鈍ではない。
このコートの価値はもちろん理解しているに決まっている。
……にも関わらず、そんな価値のあるコートを惜しみもなく自分に預けてくれる。
それを思うとギアックは少しだけ、ほんのちょっぴり、誇らしく感じてしまう自分がいることを否定できなかったのであった。
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ギアックは建物の屋上から跳躍すると隣の建物に器用に飛び移っていく。
そして目的地である倉庫の真上まで到達する。
『さて、ではゆっくりと観戦させてもらうとするかな。一応気を付けろと言っておく』
そう言うとセシリアは卓上の蓄音石を操作したのか、とつぜんテンポの速い激しい音楽が鼓膜を叩く。
ギアックはため息をついて、耳元にある通信石の音量を一番下まで下げる。
別に――――
これから自分が危険な目に合うかもしれないというのに、音楽に興じようとする主に腹を立てたわけではない。
他の音で乱されたくなかったのだ。自らが奏でる闘いのリズムを。
周囲には静寂、空には満月。
自分の呼吸音以外には何の音もない。
掃除にはうってつけの夜といえた。
「……さてと、それじゃ深夜のお勤めに参りますか」
そう呟いてから、ギアックは倉庫の屋根を力を込めて蹴りつける。
風雨ですっかり腐食していた屋根板はあっさりと蹴破られ、ギアックはポッカリと口を開けた大きな黒点に体をするりと滑りこませていった。




