その4
「どうだ? 出たか?」
「いや、まだどこからも連絡は来てねぇ」
「アイツは突然上から来るらしいから気を付けろよ」
「上、か……」
夜でも灯の絶えることはないハンス地区の歓楽街。
その表通りを一本でも外れると、夜の闇を凝縮したような暗がりが広がっている。
そこはまともな道を歩めなかったならず者たちの住処となっており、夜になるとまるで命を持った生物のように光のある方へと浸食を始めるのであった。
そこに所属する人種も組織も違う外道たちは、今までお互いの縄張りと権利をかけて血みどろの抗争を続けていた。いがみ合う事はあれど、助け合うことなどあり得なかった。
だが今、そんなあり得ない事態が起きている。
ルール無用の外道たちが、ある一つの目的のためにあらゆる垣根を飛び越え団結しているのであった。
ならず者たちは皆紙切れ―――手配書―――を手にしていた。
だが、今さらそんなモノに目を通す者は一人もいない。
なぜなら―――
そこに描かれている人相書きは一目見れば忘れられないものであったから。
赤い一つ目の男。
どこの国の騎士団のものとも該当しない特徴的な仮面を被った男。
それが手配書の中央に燦然と記されていた。
もし夜の街でこんな巨大な紅い独眼に射すくめられれば、どんな修羅場をくぐったワルでさえ恐怖を禁じ得ないだろう。
さらに不気味なのが、この男は夏場だというのに漆黒のコートに身を包んでいるという。
この異質な仮面の男―――
この人物こそが、今ハンス地区のならず者たちを恐怖のどん底へと叩き落としている張本人なのであった。
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三日ほど前のある晩に、とある密輸組織が襲撃を受けた。
そして大多数の構成員が重傷を負わされ、壊滅的な被害を被った。
運よく難を逃れた構成員は、恐怖に震えながらこう証言したという。
『ヤ、ヤツは一人だった、たった一人で、オ、オレ達を、オレ達の組織を、ぶ、ぶっ潰しやがったんだ……』
それを聞いて初めは一笑に付していた他の組織の者たちだったが、この数日で同じような事件が続発し、自らの組織も同じような状況に陥ったことで、いつの間にか裏組織の半数が同じような被害に遭っているという事実を知ったことで、事態の深刻さに気付く。
何者かが自分たちを狙っている。それも―――尋常じゃない化け物が―――
今晩も≪仮面の男≫が現れるのではないか、そんな警戒心と恐怖心が夜のハンス地区に剣呑な空気を漂わせていた。
そして――――
悪人たちにそこまでの恐怖を与えているとは露知らず、
仮面の人物は今日ものんきに夜の街へと降り立つのであった……




