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ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第1章 ステキな出会い
2/118

その2



『名もなき勇者に告げる。

 私はお前の正体を知っている。

 公表されたくなければ本日18:00までに団長室に出頭せよ。


 ミレニム騎士団団長セシリア=グラディアート』


「?何コレ? 誰かのイタズラかな?」


 小首をかしげながらそう呟く赤いミディアムヘアの少女。


 彼女の名はエルシー=エレパンドス。ミレニム騎士団に所属する見習い騎士であり、屈強な男たちが集まる騎士団においては珍しく小柄な体躯の少女である。


「ねぇ、ギアックはどう思う?」


 そして隣に立つ人物に問いかけるエルシー。


 その問われた人物もまた騎士にはほど遠い風貌をしていた。

 鎧はつけているがやせ細った体躯のため隙間ができておりそれをムリやり埋めるため、あえてブカブカの服を着て帳尻を合わせているのが見え見えの格好。


 寝癖かそれともクセっ毛か、判別がつけづらいいや9割がた寝癖よりの髪型。そして背丈はあるがそれを微塵も感じさせない猫背気味の姿勢、残念さが身体全体から溢れ出ている、そんな青年であった。


「ぁぁぁ」


「ギアック?」


 そしてその青年ーーーギアックと呼ばれた男は震えていた。

 その様子が少しおかしいことにエルシーは小首をかしげながらギアックを見上げる。


 彼女は小柄であるがゆえに、そうしたポーズをとると自然と相手を見上げるような姿勢になる。


 その仕草と天使のように愛らしい顔が生み出す相乗効果は絶大で、それだけでたいていの男は彼女に夢中になってしまう。


 それを裏付ける証拠として見習い騎士(男子)達《童貞やろうども》の間でひそかに行われている「嫁にしたいランキング」で彼女は不動の一位を占めておりすでに殿堂入りを果たしているとかなんとかーーー


「ゔぅゔ」


 だがしかし


 そんな美少女に見つめられているというのにギアック=レムナントはなんの反応も見せなかった。事情を知っている者ならばそれだけで何か尋常ならざる異常事態を察することができた。


「ガガガ」


 ギアックは戦っていたのだ。湧き上がる内なる衝動ーーー吐き気と。


「ど、どうしたのギアック?」


 同期の状態が異常なことにようやく気付いたエルシーはつま先立ちになって心配そうに顔を近づける。


 他の団員がいたら悶絶もののシチュエーションだが、ギアックは何の感慨も見せず、何度か深呼吸を繰り返し吐き気を抑えてから、冷静な顔を取り繕ってからこう告げた。



「ド、ド、ド、ドウモシテナイヨォォォ? ボ、ボ、ボ、ボクハ、ナ、ナニモシラナインダカラッ!!」


 残念ながら深呼吸ていどではどうにもならなかったようだった。


「ギ、ギアック? な、なんだか今ものすごく抑揚がなくて棒読みだったけど……ほんとうに大丈夫? 具合が悪いの?」


「ダ、ダ、ダ、ダ、ダカラ、ダイジョウブナンダッテ、ボ、ボクハ、イタッテ、フツウナンダァァァァッフォフォフォフォフォフォォォッ、イタッ……シタハンダ」


「ど、どんな発声したら笑いながら舌を噛めるっていうの!?」


 その同期のあまりの奇行っぷりに、身も心も天使のように無垢な少女は恐れおののかざるを得なかった・・・

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