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ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第2章 ステキな茶番
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その9

 ―――「ブッ殺す」と心の中で思ったならッ! その時スデに行動は終わっているんだッ!―――


 過去の偉人の言葉を胸に決意を固めたギアックは一本踏み出して可及的速やかにエウリークをブッ殺



「アストレア殿よっ!! 数々の非礼大変申し訳なかったっ!!!」


「ブッ殺…………って…………あれっ?」


 ブッ殺そうかと思った矢先、エウリークに腰を直角に曲げての本気の謝罪をされる。


「今の一撃、只者ではないとお見受けしたっ!! きっとさぞや高名な騎士にちがいない!! 名を名乗れぬ事情があったのだろう!! それに気づかず私はなんと愚かな発言を……どうか許していただけないか!?」


「はっ?……い、いえいえいえそんなことありませんよ!! 名のある騎士だなんて!!ここに来る前は無職で箸よりも重いモノ持ったことがなかったくらいですから」


「なんんという謙虚さだっっ!! あれだけの実力をお持ちでありながらその腰の低さ!! このエウリーク感服いたしましたっっ!! アナタこそ本物、まさに騎士の鏡であられる!!」


 顔を上げたエウリークの瞳はキラキラと輝いていて、誰がどう見てもそこに偽りがあるようには見えなかった。


(どういうことだ?……もしかしてエウリークさんは反射光のことは知らないのか? だとしたらあの光は一体誰が………?? あっ!!)


 そこでギアックはハタと気づく。


 突然の謝罪によって自分の中の殺意がすでに霧散してしまったことを。


 そして

 もう一つの可能性を。


 (ある……これだけ実直な、真面目な()()に真の敗北を認めさせる方法が、一つだけあるじゃないか)



 先ほどのエウリークの刺突を思い浮かべる。


 そして脳内でシミュレーションし、それが十分に実現可能だと判断するとギアックはエウリークに提案する。



「あのエウリーク……殿、お互い相手の実力が分かったところで……ムダな消耗戦は避けませんか? 良ければ次の一撃で勝敗を決しましょう。お互いに渾身の一撃を放ってそれを受けきれなかった方が負け、どうでしょうか?」


「なんと!! 貴方からそのような申し出を頂けるとは!! もちろんかまいません!! では我が最終奥義でお相手するとしましょう!!」


 予想通りエウリークは乗ってきた。騎士というのは決闘を挑まれたら断れない性を持った人種なのかもしれない。


 そしてお互い数歩ずつ下がって向かい合う。

 その距離約10メートル。

 ほんの数秒、いや熟達の戦士なら一瞬で詰まる距離である。



「……………」

「……………」



 無言の時が続く。

 どれだけの時が流れたか、いつの間にか観客たちも固唾を飲んで二人の動向を見守っていた。



 重苦しい沈黙が会場を包み込み、雲が太陽を覆い尽くす。



「はぁぁああああああぁああああ!!!」



 先に動いたのはエウリークだった。


 裂帛の掛け声と共に駆け出し一気に距離を詰める。

 そして間合いが詰まりきる寸前に大地を蹴って跳躍する。


奥義落葉刺(フォーリンピアス)!! 喰らいませいっ!!」


 空中で一回転したエウリークはその勢いを殺さず、身体から剣、刃先へと上手く伝えていく。


 そして回転エネルギーを剣先に集め終えてから――――刺突を放つ。



 ビュゥゥゥゥン!!



 切り裂かれた風が轟音を発する。



 このエウリークの必殺の一撃に対してギアックは―――



「よっと」


「!!!!?」


 ギアックはあろうことか剣を空高く放り投げていた。


「陽動!? 小賢しい!! ひっかかりなどはせん!!」


「…………」


 ギアックはエウリークを無視してじっとその剣先に目を凝らす。


 凄まじい威力と速度が見て取れた。


 見て取れたが――――



 だが、それだけ。



 確認が終われば、目を閉じていても問題ない。



(本当にお行儀のいい剣だ)



 エウリークの奥義は先ほどの刺突と同じように、正確にギアックの喉元目がけて放たれていた。



 その軌道はすでに見切り済み。


 何度放たれようが、ギアックには通用しない。



(残念だったねエウリークさん。あなたがもっと実戦を経験していれば、あるいは―――)


 ギアックは身体を横にずらして胴と腕の間にエウリークの剣を迎えいれる。


 そして体重をかけて一気に別方向へと捻じりきる!!



 バキンッ



 その結果、()()()()()とも呼べる剣が音を立てて根元から折れた。



「な、なっ!? う」



 あまりの出来事に驚愕するエウリークだったが、声を発する事は出来なかった。


 なぜなら


 ギアックが空高く放り投げた剣がその手に舞い戻り、


 その刃が今、自分の喉元に突きつけられていたのだから―――



(ま、まさか、この男、あの時、あの申し出をした時、す、すでにここまで読んでいたというのか、こ、こんな人間がいるとは、わ、私は、私は―――)


「一つ、教えてあげよう」


「な、な?」


「キミはもの凄く弱い。強くなりたかったら、女にうつつを抜かしているヒマなんてないよ」


「く――――くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」



 その最大限の侮辱に対してエウリークができる事は、ただうめき声を上げる事だけった。



(すいませんねエウリークさん。でも仕方なかったんです。こうするしかなかったんです)



 ギアックは心の中でそう謝罪を述べると、未だ動揺を見せている観客席に視線を投じる。


 そして貴賓席に座する人物、この茶番の演出者を兜の隙間から見やる。


(これで満足でしょうか騎士団長閣下?)


 遠目で見えなかったが、その時のセシリアはいつもの不遜な笑みを浮かべているに違いないとギアックは思った。

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