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ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第2章 ステキな茶番
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その8

 手のひらは緊張で汗ばんでいるというのに、顔では何事も無いかのように微笑んでいる。

 そういう状態を人は虚勢を張っている、という。


 そしてギアックの闘いを観戦しているセシリアは、まさに今この虚勢を張っている状態に他ならなかった。



(何をやっているんだアイツ!? 押されているではないか!? なぜ本気を出さない!!)



 目元には涼やかさまで漂わせていたが、その内面には焦燥感が渦巻いていた。



「セシちゃんの旦那さん頑張ってるわね!! このままいけば優勝よ」


その時、セシリアの隣に座って観戦していた妙齢の女性が熱っぽく語りかけてきた。


「……姉さま、私はまだ結婚しておりませんよ」


「あれあれ? そうだったかしら? でもこの試合で彼が優勝したら結婚するんじゃなかったっけ? だったら遅かれ早かれそうなるじゃない。私セシちゃんのウェディングドレス姿見るの超楽しみ~~♪」


(くっ!! 自分で仕組んでおきながらなんという白々しさだ!! この女狐めっ!!!)


 軽快にはしゃぐ姉を横目で睨み付けながらセシリアは内心毒づく。


 マヘリア=グラディアート。


 グラディアート家の次女であり、セシリアの腹違いの姉。


 長女アニマがすでに亡き人となっている現在のグラディアート家において彼女は最年長であり、次期ミレニム領主の座に最も近い女、とも言われている。


 だが彼女が領主の座に近いのは年齢のためではない。


 グラディアート家は世襲制を敷いてはいるが、年功序列を廃し、成した功績の多寡で次期領主を決定している。


 そしてそのための選別はすでに始まっている。


 グラディアート家の子女は13歳を過ぎるとミレニムの各省に一定のポストを与えられ、そこでの働きぶりとミレニムへの貢献度を測られるのだ。


 幼少のころから英才教育を施され、思春期を迎えた途端、右も左も分からぬまま社会の荒波の中に放り込まれる。グラディアート家に生を受けた以上、そんな次期領主争いの過酷なレースから逃れる事はできない。


 ―――だが、一つだけそのレースから逃れる方法がある。


 それが―――


(他家に嫁いだ者は次期領主になる権利を失う―――貴様が私を嵌めたことは明らかなんだぞ!! マヘリアっ!!)


 マヘリアが最も次期領主に近い、と言われているのは彼女が為した功績が決して輝かしいからでは無い。彼女の現在の職責がミレニム観光庁の一次官にしか過ぎないことがそれを雄弁に物語っている。


 ただ彼女は権謀算術に優れていた。


 ミレニム各所に張り巡らせた独自の情報ネットワークとそれを支えるカゲと呼ばれる諜報部員たち。


 それらを駆使して彼女は他の弟妹たちを嵌め、蹴落としていたのであった。


 ただその手口が余りにも巧妙なため、証拠らしい証拠はどこにも残されていない。


 噂の域を出ていない物語だ。 



 だがセシリアは直感していた。


 エウリークからの突然の告白、なぜか絢爛試合の日程が突然早まった事、そしてその当日に領主が欠席し、代わりに名代としてマヘリアが現れた事、一つ一つではぼんやりとした像だったが、それらを線で結ぶことでその疑惑はすでに確信へと変わっていた。



「でもやっぱり強いわねぇ~~。さすが騎士団最強と呼ばれているだけあるわ。相手の人なんて手も足も出てないじゃない」


「……よくご存じですね。ですが最後まで分かりません。勝負は時の運と言いますから」


「ふふっ、そうなの? でも明らかな実力差って運じゃ埋まらないんじゃない?」


「そうですね。姉さまのおっしゃるような明らかな実力差があれば、そうかもしれません」


 セシリアの含んだような物言いにマヘリアは一瞬だけ、眉を顰める。だがすぐに相好を崩し


「ふふふっ、なんだかその言い方だと、セシちゃんは未来の旦那さまに負けて欲しいみたいに聞こえるわ」


(当たり前だろ!! このクソ女!!)


 このまま話していると誰かさんのように心の声をぶちまけてしまいそうだったので、セシリアは意識して視線を試合会場に向ける。


 そして気づかれないようにスカートの裾を掴み、そっと心の中で祈る。


(私はこんなところで終わるわけにはいかない。どうしても為さなければならないことがあるのだ!だから頼む、ギアックよ。お前しかいない。私にはお前しかいないのだ!! あの時の私の決断が間違っていなかったと証明してくれ!!)


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