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ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第2章 ステキな茶番
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その6

「祈りの言葉は言い終えたか?」


「祈りの言葉? ああ違いますよ。それにあいにく僕には祈る神なんていません。とっくの昔に神を信じるのはやめたので」


「ほぅ、無礼なだけではなく不信者とはな。まったく救いようのない男だ。それともよもや、数年前まで流行っていたどこぞのダテンシ教徒だったりしてな? たしか……レコンギスタ教団とか言った」


「それだけは絶対にないっ!!」


 ギアックは強い口調でエウリークの言葉を否定する。


「………なんだ? 怒ったのか? よく分からん男だな」



 そんな態度をいぶかしみながら後退するエウリークを尻目に、

 ギアックは胸の内に生じた苦い感情を押し殺すのに必死だった。



(クソッ!! こんな安っぽい挑発に反応してしまうなんて………まだ断ち切れていないのか?)



 ミレニムの喧騒とは程遠い人里離れた深い森での生活、


 そしてそこで自分が行っていた数々の過ち。



 過去がふいに顔をのぞかせ、ナイフでえぐられたような痛みが胸に去来する――――





「行くぞっ!!アストレアよっ!!」

「!!?」


 気付いた時には遅かった。

 試合開始と同時に放たれていたエウリークの突きはすでにギアックの眼前に迫っていた。



「くっ!」



 体重を後ろに投げ出しバランスを崩すことでその初撃を寸でのところで避ける。



「逃さんっ!!」



 だが体勢を立て直す間もなく追撃の突きが再び襲いかかってくる。


 ヒュンッ



 空気を切り裂く音がはっきりと聞こえる程に苛烈な突き!!



「なんのっ!!」



 ギアックは全身のバネを総動員して横方向に飛びすさる。

 攻撃の軸がずれ、二撃目も何とか躱すことが出来た。



「やるなっ!! しかしその様子で我が千なる刺突、千烈衝ミレニアム・ガルーダを全て躱しきれるものかなっ!」



 間髪入れずに次の突きが見舞われる。


 そしてさらに突き! 突き! 突き!!


 エウリークの腕が残像で数本に見える程にその攻勢は激しかった。



(……ちょっとマズいな)



 まだ一撃も喰らってはいない。


 繰り出される連続刺突撃を後ろと横に交互に跳躍しながら躱してはいる。


 だが、このままではクライアントの要求を満たすことは出来ない。


 セシリアはギアックの完勝とエウリークの惨めな敗北を望んでいるのだ。


 それを誰の目にも明らかにさせるためにギアックは二通りの方法を考えていた。



①試合開始早々に一撃でエウリークを瞬殺する。

 不意打ちではなく切り結んだ上で圧倒すれば効果はさらに絶大だ。


 アレっ? エウリークさんってもしかして……雑魚? 

 と、全ミレニム市民がそのショボさを目の当たりにして失望するにちがいない。


 そしてなぜこの勝ち方が有効なのかというと

 ≪エウリークは自分の強さにかなりの自信を持っている≫からに他ならない。


 そもそも自信が無ければ絢爛試合の優勝を結婚の条件などにはしてはこないだろう。

 しかも自分みずから。


 つまりエウリークは自分の強さに酔っているのだ。

 それはセシリアや周囲からのヒアリングでおおよそ確信が持てていた。


 だからこそその強さというアイデンティティを完全にへし折ることで、男としての自信も崩壊させられるとギアックは考えていた。


 そしてセシリアという最愛の女性の前でそんな醜態をさらしてしまったとしたら……

 エウリークの性格を勘案すると必ずや自ら婚約を破棄してくるに違いない、そう踏んでいた。


 踏んでいたのだが―――






 (①もうムリじゃん!!)




 油断しまくっていた自分の不明をギアックは悔いるばかりであった。


 

 そして残るもう一つの方法、それは―――




②やっぱり全裸にさせる。



 キャーーーーーーー!!!! エウリークさんって――――ちっちゃーい!!!


 などと言われるかは分からないが、大観衆の面前で全裸になるなどノーマルな男なら確実に精神崩壊コースだし、おまけに社会的にも色々と破滅させることができる。


 労力もほとんどかからないからギアックとしてはこの方法も捨てがたかったのだが―――


 だが―――さきほどエウリークの殺気を目の当たりにした瞬間、この方法が不可能である事をギアックは悟っていた。



『誘導印は心無き者を操る技法。

 ゆえに意思堅強なる者には通用せぬ。ゆめゆめ忘れるでないぞギアック』



 かつての師の教えが脳裏に鮮やかに甦る。



(そんなこと分かってますよ。だから困ってるんだ)


 今のギアックに出来る事といえば、エウリークの攻撃を避け続ける事だけだった。

 そして避け続けながら別の妙手が降りて来るのを待つ他なかった。






 だが――――それすらも今は危うい。





(この兜、ほとんど見えないな)



 ギアックは兜の隙間から目をこらす。

 狭まった視界にエウリークの姿はほとんど映らない。

 さらにフットワークの軽いエウリークの刺突は数撃に一度は完全死角から放たれる。


 今も死角となった位置から風鳴りの音が迫って来る。



 ヒュン!!



「ホッ!!」



 ギアックは風の音から軌道を予想し避ける。

 

 それは神業級の芸当。


 だが、そんな綱渡りがいつまで続けられるか………



 ギアックはちょっぴり自信がなかった。



(特注のクローズド・ヘルムを用意してもらったのがこんな形で仇となるとはね!!)



「逃げ回っているだけでは勝てんぞ!! アストレアっ!!」



「いや、そりゃ分かってるんですけどね。うーん。どうしたものか。おっと」



 その時、エウリークが刃を寝かせたのがチラリと見えた。


 このまま突きを放たれるとおそらく兜の隙間から侵入してきてグサリとやられてしまう。

 


(あぶないあぶない)



 ギアックは刺突を避けるために首を捻る。


 だがその動作が終わる直前、

 




 視界が激しい白光に包まれた。





 眩すぎて、目を開けて、いられない。





 そして




 ビュンッ!!!!!!!

 



 「!!!」



 風なりの音を間近に聞いたのと、頭部に激しい衝撃を受けたのは、ほぼ同時であった。

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