その30
「作った……おまえが……?」
にわかには信じがたい発言が飛び出しN2は動揺する。
一体この人物は何者なのか、ロスティスコートとはいったいなんなのか、問いただしたい衝動に駆られるがそれよりもまず確かめなければならないことがあった。
「ミストは……私と一緒に落ちてきた竜はどこにいった?」
「えっなに?」
「ドラゴンだよ、空を翔ぶ」
「ド、ドラゴン〜? ま、まさかそれに乗ってきたってのかい?」
ミストは敗色が濃厚だと悟るや―――おそらく自分を送り届けることに専念してくれた。
だからあんな無謀な突撃を敢行したのだ。処刑人に悟られないために―――
そして自分も負傷していたというのに激突する瞬間、クッション代わりになってもくれた。
あれがなければ落下の衝撃で絶命は免れなかっただろう。
「本当だ。どこにいる」
「……冗談……ってワケじゃなさそうだね。すげーなN2、ウワサ以上だ。そんなのがいたらぜひとも解剖……じゃなくてお近づきになりたいもんだけど残念ながら私は知らない。音がして駆けつけたらご覧の有り様さ。誰か竜を見た者はいるかい?」
問われた周囲の男たちはしかし一斉に首を横に振る。
「と、いうわけだ。悪いね」
「……そうか」
この人物たちがウソをついている可能性は―――ある。だがそれをする理由がわからない。そしてそれを判断する材料が今のN2にはない。
だから今は周囲に散らばる砂塵がミストの残骸でないことを祈るしかなかった。
(自己犠牲なんて僕は認めない。ちゃんと逃げ延びていろよ、ミスト)
「―――ところで見たところお前たちは囚人のようだが」
「はっ? あ、ああこの服か。いや決してそういう訳じゃないんだけど……ちょい事情があってね。できればそのことについて話を聞いて欲しいんだけど」
「そんな暇はない。この騒ぎでさらに人が集まる前に済ませたいことがある。悪いが監獄長の部屋まで案内してもらうぞ」
するとその瞬間、室内の空気が変わった。
そのあまりの変貌ぶりにN2は戸惑う。
そしてその気配を察知したのかアイリーンが手で男たちを制する。
「……分かってる。だけどコイツが必要なことも分かるだろう?」
アイリーンのその言葉に男たちは深いため息をつく。
「なんだ……?」
「……いいだろうN2。まずはセシリアに会わせてあげるよ。アンタにはその資格があるだろうからねぇ。積もる話はそれからにしようや」
アイリーンはそういうと踵をかえし顎でついてこいと指し示す。
「少し歩くよ」
「なんの冗談だこれは」
アイリーンにいざなわれたのは海に面した岩壁の突き出た一角だった。
だがそこにセシリアの姿はなかった。
あるのはまだ真新しさを感じさせる直方体の石の塊ーーー墓標のみだった。
そしてその墓標にはこう刻まれていた。
〝名を奪われし孤高の反逆者セシリア ここに眠る”と―――