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ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第9章 ステキな・・・
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その27

 ヴァニシングエリアにはリスクが伴う。


 誰に言われるでもなく承知している。

 先ほど二回使用しただけでエネルギーが根こそぎ奪われたのだ。


 そして今度は広範囲の展開。


 悪ければ死、よくてもしばらく戦闘することはムリだろう。

 

 それだけの覚悟が必要な技なのである。


 だがN2は躊躇しない。


 それが今の自分の役割だと分かっているから。



「ヴァニシング!!」



 叫ぶと同時にフィールドが展開される。そしてミストとN2の前面に半球状の消滅の膜が形成される。


 それが終わるのとほぼ同時に二体の翼竜から巨大な火球が発射された。


 熱も威力も通常とは比較にならないことはプラズマ現象を伴いながら向かってくる真紅の輝きで容易に想像できた。あの熱なら翼竜の装甲すら飴細工のように溶かしてしまうだろう。



 果たしてこんなものを防ぎきれるのか。



 展開されたエリアよりも広範囲な火球に不安がよぎる。


 


 結果はすぐに出た。



 ヴァニシングエリアに接触した瞬間、火球は初めからそんなもの存在していなかったかのようにかき消えてしまった。



(こんなにあっさりと……このチカラは本物――― うっ)


 

 ヴァニシングエリアの性能に酔いしれる間もなく、すぐさま反動が襲ってきた。


 あまりの激痛にN2は悶絶し、そのまま動けなくなってしまう。


 ミストはN2のことを信じていたのか、その間速度をまったく落とすことなくトップスピードのまま突っ込んでいた。ガードに回っていた二体の翼竜はすでに砂となり霧散している。



「もらった!!!」


 そしてミストは爪を突き出しスピードをのせた加速突きを処刑人の翼竜に向かって放つ。


 この速度ならば切断できる。そうすれば絶命した翼竜の背上にいる処刑人も無事ではいられない。



 この間N2とミストにいっさいの油断はなかった。

 自分たちの取りうる選択肢の中で最良のものを選び行動していた。

 その上でこれ以上ないパフォーマンスを発揮したのだ。



 だから―――






「!!!!」




 渾身の一撃が躱されたのは単純な実力差によるものであった。




 ミストは処刑人の駆る翼竜を倒せなかった。


 爪を突き刺そうとした瞬間、敵翼竜が下へと潜りそして旋回して背後をとられてしまった。

 

 流れるような流麗な動作。

 無重力の軌道。


 その時ミストは―――言いようのない敗北感を味わってしまう。

 

 それは爪による攻撃が不発に終わったことだけではない。


 今目撃した180度ターンが取り戻した記憶の中にある伝説の旋回(レジェンダリィターン)そのものであり、その動作があまりにも美しく、とうていマネできるシロモノではないことが分かってしまったから。



「くそっ!!」



 それでもすぐに食らいつく覇気を見せたのは彼が優秀な扇動者であるからだろう。


 すぐさま反転して背後の翼竜に再攻撃を仕掛ける。


 が、処刑人は必要最低限の羽さばきでそれをなんなく回避してしまう。



「………………」


「くそっ、くそぉぉぉ!!」



 ミストはあきらめずに何度も何度も爪による攻撃を繰り返す。

 だが、その度に彼は自分と処刑人の力量差をまざまざと見せつけられてしまうのであった。


 おまけに自分は翼竜と同化している特殊操具、だが処刑人は通常の、それも多数の翼竜を同時に操具している状態なのである。


 そこには運や偶然では絶対に越えられない圧倒的な壁がそびえ立っていた。



「こ、こんなヤツがいたなんて……」


「……………」


 

 ミストの弱気を感じ取ったのか処刑人は雲の中に潜りその姿を消してしまう。


 だが逃げたワケではないことは戦場に残る殺気の濃度でハッキリと分かった。

 

 おそらく雲の中にいる翼竜と合流し、確実にミストたちを仕留める体勢を整えにいったのだろう。



「ハァハァ、ど、どうだミスト、倒せたか……?」


 N2は荒い呼吸を繰り返しながらなんとか膝立ちになる。


「お、お前どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」


「な、なに、気にするな。ヴァニシングエリアを使うと、い、いつも、こうなるんだ。だ、だが、処刑人を仕留められれば、安いものだ」


「お、お前………」



 気でも失っていたのかN2は全く事態を把握していなかった。



「じ、実は…………」


「な、なに?……………………そ、そうか、こ、この戦場に渦巻く殺気………ダメ、だったのか……」


「ごめん……ボクじゃ、アイツは……」


「……き、気に病むなーーーハァ、ハァーーーふぅ~~~………お前がムリなら、私がやってもダメだっただろう。世の中は広いな」


 N2は大きく深呼吸するとミストの首に巻き付けていたワイヤーを一本手元に戻した。


「な、なんだ? なにをするつもりだ!?」


「もうヴァニシングエリアは使えない。だから私も攻撃に参加する」


「ム、ムチャだよ、空の上飛んでるんだぞ!? どうやって戦うんだよ!?」


「すれ違いざまに切り付けてもいい。飛び移って乗り込んでもいい。とにかく臨機応変にやるだけだ」


「バカいえ! それにお前ボロボロじゃないか! 死んじゃうぞ!!」


 ミストは察知していた。今の技を使ったことによってN2の身体に重大な異変が生じたことを。


 呼吸が荒い。足元もおぼつかなくなっている。


 コートの回復機能が低下したのか、この一夜で負ったダメージが噴出しているようだった。


 なによりそれを如実にミストに伝えたのは、先ほど貫いた腹部からにじみ出る鮮血であった。



「お前その傷……さっきまで平気だったのに……」



 処刑人があとどれくらいで戻ってくるかは分からない。

 だが戻ってきた時は確実に状況は悪化する。


 しかし離脱することは難しい。

 N2が先ほど言ったように処刑人が雲海のどこに伏兵を忍ばせているかは不明なのだ。


 ワザと逃走出来そうなルートを見せてみて、そこに待ち伏せをしかける。

 あのテクニックを持つ男ならばそれくらいやってもおかしくはない。


 進むことも戻ることもできない空の袋小路。

 この状況での勝利などあり得るのか。



『逃げていい。全力で逃げるんだ』



 真っ白な世界で出会ったあの人の声が頭の中に響く。




(そんなこといったってどこに逃げればいいんだよ?? 逃げ場なんてどこにも……!!?)



 逃げ場はない。


 それをハッキリと認識した瞬間、ミストは自分の中でこの戦いにおける勝利の定義が変化したのが分かった。



(……逃げ場……そうだ、ボクにはどこにも逃げ場はないんだ……ならボクは……)




 

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