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ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第9章 ステキな・・・
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その25

「コイツはいったい何だ!?」


 仮面の男から視線を外さずにN2は問う。


「ボクも詳しくは……ただシエラ様直轄の十二使徒の一人で、ボクらとはちがう任務を任されてるって聞いたことがある」


「十二使徒だと? 古典の話だぞ!? そんなものまで復活させて!」


「シエラさまが言っていたのはこのことだったんだ……」


 怒るN2を尻目にミストの脳裏に在りし日の会話が蘇る。


『この子はね処刑人っていうの。とってもこわい名前だけどアナタがいい子にしていればきっとなかよくしてくれるわ』


『そ、そうですか、よ、よろしく』


『………』


『あ、あの』


『うふふ、よろしくって言ってるわ。この子ってとってもシャイなのよ』


『そ、そうですか、ならいいんですが………』


『………』



 シエラはそう言って朗らかに笑っていたがミストは不気味でしかたなかった。

 仮面の奥から言いしれないプレッシャーを感じたからだ。


 その正体がなんだったのか、今ならハッキリと言葉にできる。

 あのドス黒い感情、あれは敵意だ。

 仮面では覆い隠せないほどの強い敵意が漏れていたのだ。


 そして今、その敵意が夜空を覆い尽くさんばかりに広がっている。


「コイツの役割はきっと……粛清だ。ボクが教団を裏切ったから始末しにきたんだ……」


「チッ! そういうところだけは熱心だな。だったらこちらも見せてやるしかないだろう」


「なにを……?」


「二度と目覚めることのない悪夢をだ。返り討ちにするぞ」


「できるの?」


「やるしかないだろう。だが、力は貸せるが空中戦は初めての経験だ。まずはお前の思うとおりにやってみろ。私のことは気にせずに」


 そういいながらN2はロスティスワイヤーを翼竜の首に巻き付け身体を固定する。


「……そうか。なら落ちるなよ!」



 ミストはそういうと翼を広げ処刑人に向かって突進する。



「………」


 処刑人はミストが迫るやすぐさま下降し雲の中へと潜ってしまう。

 追撃をしかけようとミストは処刑人の後を追うが、


 ボォォォン!!


 火球が雲の中からあがり直撃コースをとる。


「フンッ!」


 そのきわどい火球を旋回してかわすとミストはお返しとばかりに自らも火球を連続で雲の中に叩きこむ。


 3発放たれた火球はタイミングも位置も少しづつずらして発射されており、そのいやらしさにN2は感心する。


(本当に巧くなった! それにしても今の火球……まさか……)



 ミストの火球はどれも着弾しなかったようで紅い焔が雲の中を遠ざかっていく。

 それを見て位置のあたりをつけたのかミストも雲の中へと潜っていく。


 雲海は霧の中のように見通しが悪く、一歩先すら判別できなかった。

 だがミストは扇動者としての勘が働くのか、迷うことなく突き進みすぐに翼竜らしき影を見つける。


 

 ボンボンボォォォン!!!



 そして見つけざま火球を影に向かって放つ。

 火球はすべてかわされたがそれはミストも予想していたようだった。

 

 むしろ今の火球はただの撒き餌、翼竜を自分の思い通りのコースへいざなうための囮であった。


 現に翼竜が火球を避けた先にミストは先回りし爪による一撃を見舞っている。


 翼竜は急制動をかけたが間に合わず爪撃によって翼の一部を切り裂かれる。

 

 そしてバランスを失いキリモミしながら落ちていく翼竜に追撃するためミストも翼をすぼめて一気に急降下する。


 

(ずいぶんあっさりとカタがついた……こんなものなのか……? それともミストの方がすぐれた扇動者だったということなのか……だが―――)


 N2は知っていた。

 自分の実妹でありレコンギスタ教団の長であるシエラの性格を。

 こちらの希望をあざ笑うためにはどんな卑怯な策を弄することもいとわない腐った性根を。

 そんなヤツがこんなすぐにケリがつく刺客をよこすだろうか―――


「!!?」

 

 その疑念があったからN2は気づくことができた。

 すぐさまロスティスワイヤーの手綱を引きミストに指示を出す。


「すぐに上昇しろミストォォォォ!!!」


「えっ?」


 ミストはいきなりの指示に虚をつかれる。

 そのため一瞬下降が止まった。

 それが明暗を分けた。


 ボォォォォンンンン!!!!!


 

 すぐ目の前を特大の火球が通りすぎる。

 その熱量はすさまじくコートの表面から焦げた匂いが上がり鼻先を燃やされたミストは絶叫を上げる。



「ぐわぁぁぁぁあああああ!!!」


「くっ!!」


 この位置に一瞬でもとどまってはいけない。

 N2はすぐさま誘導印を描いて翼竜を直角に上昇させる。

 

 すさまじい体圧を歯を食いしばりながら耐えると背後の雲海から次々と火の手が上がり熱風によって一気に上空へと押しやられる。


(まさかこれもか!?)


 N2は警戒して誘導印を描き直す。

 すると先ほどまでいた位置を火球が通り過ぎていくのが見え、ことなきを得たことを察する。


(間違いない! ヤツは!!)


 再び雲の上へと出るミストとN2。

 

 すぐさま先ほどと同じく月夜をバックにした翼竜の姿が見えた。


 だが先ほどと大きく違う点がある。


 それはの翼竜のシルエットが()()()()()()()()ことだった。



「処刑人は―――同時に複数の翼竜を操具している!!」




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