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ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第9章 ステキな・・・
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その23


 仮面越しにリズミカルな振動を受けてN2の意識はだんだんと浮上していく。


(僕は……どうなったんだ? ……たしかテンタクルエッジを刺して、それから……)


 なんとか記憶の糸をたぐり寄せようとする。

 が、うまくいかない。

 糸の先は濃い霧に包まれているかのように不鮮明であった。


 ただぼんやりと、色のない真っ白な世界のイメージだけが残っていた。


(あれは現実にあったことなのか? ……いや、違うな……ミレニムにあんな景色はないし……だが夢とも思えない…………不思議な……思念の世界とでもいうのか? そこに意識をもったまま干渉した?)



 今ある全ての情報は薄ぼんやりとしており推測の域を出ない。


 だがもし仮にそうだったとすると



 (このコートのポテンシャルはどうなってる!?)



 ロスティスは人の意志を伝えると巷では言われている。


 だがこのコートの能力はそんな領域をはるかに通り越している。


 肉体強化、ヴァニシングエリア、そして思念の世界への干渉、どれもこれも常軌を逸している能力だ。


(神のごとき力と言わざるをえないーーーこれは想定すらしていなかったことなんですか? セシリア様?)



 大きな力にはすべからく代償が伴う。そしてそれがあまりにも大きすぎる場合は悲劇になる。


 その事をよく知っているN2はこれ以上の考察を放棄することにした。

 


「よっと」



 だから代わりに身体を動かすことに決めた。


 そして決めたからには素早く動く。N2は反動をつけ上体を起こしてみる。すると



「うぉっ!?」



 とたんに突風にあおられ吹き飛ばされそうになる。


 あわてて踏ん張ろうとするが大地は硬く、それでいてツルツルしておりうまく掴む事ができない。



(落ちるっ!!)



 そしてそのまま空気の圧に押し流され落下していく。


 すぐ横には白いモヤが高速で流れていた。



「ここはまさか……空の上っ――――――!!?」



 経験したことはなかったが天地が逆転した身体、眼下に広がる大海原、それらを見ればバカでも分かった。


 先ほど発した声は一瞬で遠ざかり大気に溶け込んでいた。



 これが空、これはマズイ、過去に例がないほどの危機的状況に汗すら出ない。


 取りつけそうな落下物ーーーは都合良く落ちてはいなかった。N2はとにかく少しでも浮力を得ようと四肢をばたつかせてみる。



(落下の瞬間にヴァニシングエリアを使うか!? いや、ムリだ! タイミングなんて合うわけがない! そもそもあれは瞬間の防御だ! この落下の衝撃をすべて飲み込めるか? それに今の体力じゃ展開した瞬間に僕はーーー)



 不確定要素が多すぎてバクチを打つ決心すらつかない。


 八方ふさがりーーーN2はただ重力に身を任せるほかなかった。



(こんなところで……)



 どうにもできない状況に悲観するN2。


 ただ彼がこの時もう少し冷静でいられたら、自分がいったい何から落下したのか、そのことに思い至ることができたであろう。




「おいおい、どんだけ寝相わるいんだよ」



 落下中のN2の耳元に声が響く。


 あまりのことに呆然とするN2。


 これだけ鮮明に聞こえるということは速度が相対的だということだからだ。


 空の上で落下するN2と同じ速度でそれをなし得る存在とはーーー


 次の瞬間巨大な影が覆いかぶさり、N2は雲を突き抜けはるか天空までいざなわれていた。

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