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ニセモノの勇者がホンモノの勇者になる話  作者: 平 来栖
第9章 ステキな・・・
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その17

「……したい……ぼくが……死んでる……そんな……」


「しんじられない? おめめがさめてもすぐにはすべてをうけいれられないのね……まぁどうでもいいけど」


 あっけらかんとシエラは言い放つ。


「わたしはね、ただあなたのおかげでよくりゅうのてなづけかたがわかったから、そのことはとってもありがとうとおもってるの。だからとくべつにむかえにきてあげたのよ」


 そして両手を広げるや愛嬌たっぷりの笑みを浮かべる。


「さあこっちへいらっしゃい」


 その笑顔には有無を言わさぬ強制力があった。


(ああ、でも)


 だがミストは躊躇する。


 今まで注がれていた愛が自分ではなく翼竜とつながるための力に向けられていたのだということ、


 そしてそのために自分はミスト=シルエットとして呼び戻されたのだということ、


 そしてそれらの事実を知られてもいっこうにかまわないという突き放した態度のシエラ、それらが絡み合いミストの狂信にヒビを生じさせていた。


 だがその裏で常につきまとっていた焦燥感、孤独感の正体が分かり妙に納得している自分がいることにもミストは気づく。


 自分は死者だったのだ、世界から切り離された存在なのだ。だから他の扇動者たちから常に一定の距離を置かれ、時には嘲るような視線を向けられていたのだ。


 それらは全て自分がミスト=シルエットであり、そしてただの道具にしか過ぎなかったからーーー



(全てがクリアになっていく……そうか、シエラさまはすべてのダテンシとつながっている……だからきたんだ…ぼくが、もう、いらないってわかったから……)


 それは先ほどの映像を見てしまったからだろうか。

 それが一体どんな罪になるというのか。だが創造主の逆鱗に触れてしまったことだけは間違いなさそうだった。駒は何も考えず駒であり続けなければならない、ということなのだろう。


 あまりにも理不尽な仕打ち。だが、けっしてミストは自暴自棄にはならなかった。


(……もっとスッキリしてきた……そうか、あのときがそうだったんだ……)


 むしろ真実に触れたことで彼はかつてない聡明さを取り戻していた。そして記憶の原点でもある漆黒の闇の情景について考察するまでに至っていた。あそこが死と生の境目であり、そこから救い出してくれたのがシエラであることも今のミストなら理解することができた。


 ―――そしてそれと同時に過去の記憶はいくら探してもどこにも見つからないことも分かってしまった。


(ぼくはなにもないんだ……あるのはシエラさまにあたえられたいのちだけ……だったらおかえしするのはとうぜんなんじゃないか? なにもかなしむひつようなんてない……)



 覚悟を決めるミスト。すると唐突に先ほどの映像の男がフラッシュバックした。


(きっとこれが僕が生きてた頃の……ふふっ、だとしたらーーー)


 ミストは笑ってしまう。

 過去の記憶を走馬灯として垣間見ることしかできない己の不自由さがおかしかったのか。


 ミストは笑いながら涙する。


(こんなあわれでこっけいなそんざい、もうどうでもいい、どうでもいいだろ……)


 やがて男の輪郭がおぼろげであやふやなものになっていく。ミストは真実にたどり着くことが永久に不可能であることを悟る。


(……さいごはあいするひとのむねのなか……きっとわるいことじゃ……ない……)


 見覚えのある懐かしい闇が視界いっぱいに広がる。

 この闇に身を委ねれば全てが終わる。


 そう思い一歩踏み出そうとした瞬間、轟音が鳴り響いた。



「あきらめるなっ!!」



(えっ)



 ミストの全身が光に包まれ視界が白に染まる。


 雷かと思ったがそうではない。光は意志を持つかのようにらせん状になりながら収束を始めたのだ。


 何かが起きている。自らの精神世界たるこの空間に何かが干渉しようとしている。


 そしてその存在が内包する力はこの空間を吹き飛ばすほどのエネルギーを秘めている。


 死者ゆえの勘かそれともただの願望か、とにかくミストにはそう思えて仕方なかった。


 そこでミストは気づく。


 いつの間にか手のひらが汗ばんでいることに。

 いや、手のひらだけじゃない。全身が高揚しきっている。

 頬は上気し全身の毛は総毛立ち目は充血し息づかいは荒くなっている。苦おしいまでの生が体の奥底から溢れ出ている。



(な、なにがくるんだ……!?)



 高鳴る鼓動がミストを前のめりにさせる。


 そして熱い視線を受けた光のらせんは何重にも重なり合いながらある人物を形作った。


 闇よりも濃い悪夢をまとった一つ目の男、N2の姿を。



(な、なんでこいつがここに!? こ、ここはぼくのこころのなかなんじゃ……)



「な、なんだここは? 確かロスティスを突き刺してそのあとーーー!!?」


 困惑するミストとN 2。だがN 2は闇の奥に潜むシエラの姿を捉えた瞬間、全てを察したように身構える。



「そうか…貴様が干渉を! どこまでも邪魔をして……! おいお前! 抗え! 取り込まれるな!!」



 N2の叫びがミストの鼓膜を揺らす。



「そう、きたの。すこしちからのつかいかたを()()()()()()()()()()

 


 一人訳知り顔なシエラ、だがN2はそんなシエラを完全に無視してミストに向かって再び叫ぶ。



「おまえのその状況、はたから見てものっぴきならないことが分かる! それがミスト=シルエットの行き着く先だということが容易に推察できる! だがたとえお前がミスト=シルエットだとしても今は生きているのだろう!? 心はあるのだろう!? だったら自分の意思で抗ってみせろ!! 墓から呼び起こされて用済みになったらまた眠らされる、そんな勝手を許すのかっ!!?」



(こ、こいついきなりなにをいっているんだ……)



 まるで自分を死なせたくないかのような発言に戸惑うミスト。

 いったいN2が何をしたいのかさっぱり分からなかった。



「早くしろ! 手を伸ばせるか!」



 そう思い悩んでいる内にいつの間にかN2の姿が目の前にあった。


(バ、バカなのかこいつ!? ぼくはてきだろ!? それなのになんでそんなこと……あっ?!)


 その時、ミストは思わず息を呑む。


 映像の男がいた。


 決して映像では出せないなめらかな質感を伴って視線の先にいたのだ。



(ど、どうして!?)


 男はN2の背後に立っていた。


 よく見るとN2が移動した後は闇が振り払われラインが引かれたように輝いていた。


 そして男はその白い空間の中からこちらを見つめていた。

 

 先ほどの映像と同じ悲痛な眼差し。

 今にも何か語り出しそうな気配。


 その瞬間、ぼやけていた記憶が鮮明になってミストの脳内へ流れ込んできた。



(こ、これは、ぼ、ぼくの! こいつがやったのか!!?? こ、こいつ、こいつは、ま、まさかこいつはーー!!!)


 N2は他人の失われた記憶を呼び起こすことができる。理屈はまったくわからない。だが今起きた現象と見た事もないコートの妖しい煌めきがその荒唐無稽な考えを後押しした。



「生きろ!! 思い出せ人としての記憶、そして人間の矜持を!! それは生きる指標となる!! それに従えっ!! 人をいいように利用して死すら弄ぶレコンギスタに、シエラに付き従う必要などないっっ!! 」



 必死な様子のN2には別の思惑しか感じられない。


 だがそんなことはもはやどうでもいい。


 ミスト=シルエットとして再誕した少年は生まれて初めて目的を見つけたのだから。


 死者として生きる、そう決意するほどに。


 そして差し出されたN2の手を取るためミストは腕を伸ばす。

 


「すいませんシエラさまっておもったでしょ」



(すいませんシエラさま……って、えっ?)



「みすみすてきにしおをおくるわたしじゃないのよ。ギアックにはもっともっとたくさんいたいめにあってもらわなきゃいけないんだから。ちゃばんはおしまいよ」



 目の前にいたはずのN2の姿が急速にぼやけていく。

 自分をとりまく闇が濃くなったからだと気づいた瞬間にはすでに全身闇に包まれていた。


(ぁぁ……)


 この闇はよく知っていた。

 これだけははっきりと覚えている。

 甦る前に包まれていた抗うことができない重い闇、死の闇だ。


(ぃゃだ、せっゕく、ぃきたいっテ、オモッタノニ―――)


「―――!!」



 ビュンッ



 遠くで風が鳴る音が聞こえた。が、闇はミストから五感全てを瞬時に奪い尽くしたので、それがなんだったのか知る事はできなかった。

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