その1
「なぜだ……なぜこんなことに……」
その青年、ギアック=レムナントの腕には血まみれの女性が抱かれていた。
すでにこと切れ弛緩した腕を投げ出している、
たった今その命を奪われたばかりのーーー
「僕はそんなつもりはなかったのに・・っ!!」
誰にいうでもなくそううそぶくギアック。
『お前を英雄になどさせはしない、呪われなさい……ギアック……永遠に』
するとそんな言い訳を許さないかのように、女性のいまわの言葉が頭の中に響き渡る。
「違う! 違うんだ!! 僕は―――」
頭をふってそれを追い出そうとするが、そんな行為をあざ笑うかのように呪詛がらせんを描きながら胸の奥深くにまで浸透していく。
「なぜなんだ、なぜ貴女が……」
吐き気を催す不快感から逃れようと再び問いを発する。だがその疑問に答えられる者はどこにもいなかった。
そして季節はずれの寒風が吹きすさびコートの隙間からギアックの熱を奪い去っていく。
しばらくそのまま微動だにせず風になぶられ、心も身体もすっかり冷えきった頃―――
―――ギアックはこの悪夢のような出来事の始まり、二週間前、平穏な日常が終わりを告げたあの運命の日の事を思い返していた。