僕と精霊と出会いと2
それからは何事もなく家に帰りついたのだが思えば今日は凄い日だった。
突然、魔王の配下を名乗るやつらに殺されそうになるわ、突然現れた木の精霊を名乗るお姉さんに助けられたと思えば一緒に戦おうなんて言われるわ……。
こういう時にふさわしい言葉を今、思いついた。
「なんて日だ!」
しかし、一方ではあのお姉さんの言葉が冗談だとは思えず放ってはおけないと思う自分もいた。
「まぁ、明日になれば夢かどうかはわかるか。」
なんせ高校入学なんて一生に一度の大イベントだ。周囲の環境もガラッと変わり僕はきっと疲れているのだろう。もしかするとあまりりの疲労から楽しい楽しい妄想の世界に入ってしまったのかもしれない。
何せ魔王と戦うなんてロマンに溢れた話ではないか。みんな、一度はそのような夢を持つものではないか?
そんなことを考えながらふと何かを叫びたい衝動に駆られたので叫んでみた。
「最高に楽しいぜ!」
すると
「うるさーい!」
隣の部屋にいる妹から怒鳴られた。
そういえば、僕には年のひとつしか変わらない妹がいるのだか、今はこんなことどうでもいいだろう。
僕は明日の学校の準備をしてとっとと寝ることにした。
そして高校生活2日目、今日も気持ちのよい天気だ。
今日は高校生活に関するオリエンテーションがあるらしい。
僕は昨日と同じように卓也とくだらない話をしながら学校に向かっていた。
「遼介って朝ごはんはパン派? それともごはん派?」
「僕はごはん派かな。やっぱり日本人といえばごはんに味噌汁でしょ。これにお漬物があればもうそれだけで生きて行けるわ。」
「遼介は古いなー。やっぱり今の時代、パンにスクランブルエッグだろ! 国際化の流れに乗り遅れるぞ。」
「こんなことで国際化を語るな。」
まぁ、こんな調子だ。
今日の学校も昨日と同様、特に変わったこともなく終わった。
今日の帰りも卓也はカードショップに行くらしい。
そういう訳でクラスの席決めでたまたま隣の席になった縁もあり、今日は由花と帰ることになった。
「なんだかんだいっても遼介君とこうして二人で帰るのって久しぶりだよね。」
由花はにこやかな表情でそう言った。
確かに部活が違ったりなんとかであまり学校以外で話したりすることってなかったよな、とか話しながら高校の正門の近くに来ると、それはもう凄い人だかりが出来ていた。
「爆破テロか何かあったのか?」
「遼介君、いくらなんでもそれはないんじゃないかな――。」
隣で由花が苦笑している。
僕は何の騒ぎかと人だかりの隙間から正門をみるとこの世の人とは思えない美人のお姉さんが立っていた。
よくみると人だかりを作っているのはほとんど男子だ。
ちょっと待て、あのお姉さんって昨日の……。と思いグリーナの様子をしばらく見つめていた。
ふと隣に目をやると由花が少し嫌そうな顔している。
「遼介君、あのお姉さんばかり見てないで早く行こう。」
「おお、すまんすまん、そうだな。」
すると、正門の前に立つグリーナが満面の笑みで人だかりに向けて大声でこう言った。
「みんなー! 野川遼介君って知らない?」
人だかりを見回すとその中にいた卓也と目があった。
「おい卓也、早くカード見に行こうぜ。」
「わかった、わかった。行こうぜ。」
僕は昨日の入学式の時に同じクラスで流行りのカードゲームについて話が会う奴と意気投合し、2日続けて学校近くのショップを見に行くことになった。
まぁ、遼介と違うクラスになったのは残念だが楽しい高校生活を送れそうだ。
それから、新しい友人と正門に差し掛かった時だった。
「卓也、あれをみろよ!」
友人に言われた方を見て見ると見たこともないようなべっぴんさんが立っていた。
「あれは凄いなー。」
僕はそのお姉さんのあまりの美しさに思わず見とれてしまっていた。
ふと振り返ると人だかりが出来ている。
するとそのお姉さんが満面の笑みでこっちに向かって叫んだ。
「みんなー! 野川遼介君って知らない?」
遼介のやつ、あんなお姉さんと知り合いだったのか、けしからん!
勝手に憤りを感じながら再び振り返ると、あとからここに来たらしい遼介と目が合った。なので僕は鬱憤を晴らすつもりで叫んでやった。
「遼介ならそこにいますよ!」
後ろを再び振り返ると遼介はすでにそこからいなくなっていて、前に立っていたはずのお姉さんもいつの間にかいなくなっていた。
面倒事の予感を感じ、僕は気づけば弾かれたパチンコ玉のような勢いで由花を引きずるようにして裏門から学校を脱出していた。
後から卓也の叫び声が聞こえた気がするが、それは気にしないことにする。
「遼介君、ちょっと止まって! 引っ張らないでよー!」
由花がわめいているが、僕はそれも気にしないこととする。
とりあえず、駅まで走らなければと裏門を出て坂を下りきったところで突然、見えない壁のようなものに弾かれた。
さらに突然辺りがモノクロのような世界になった。しかし、モノクロになったこと以外は周囲の景色も変わっていない。
「遼介君……。」
由花が不安そうな表情を浮かべている。
僕も昨日と同じようなまずい予感を感じ、無言で由花の手をしっかりと握った。
すると今度は突然、熊の人形のようなものが3体、目の前に現れた。
「センスのかけらもないな!」
僕は由花の前に立ち、近づいてくるその可愛いげのない熊の人形?を殴ろうとした。その時だった。
「遼介君、そいつらから離れてください!」
「今度はなんなの?」
由花の叫び声と共に突然、僕と由花の身体が宙に浮き、後を追いかけてきたグリーナのそばにふわりと降りた。