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絶佳戦記  作者: 27
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第3話 美しい者に関する手記

──私、レイラ・ジーヴァスとモード=オドネルの関係について、ここに記そう。


 レディ・モードは金髪碧眼の華奢な美少女だった。第一印象は……"お人形さんみたい"。


 彼女は貴族であるオドネル家の一人娘だった。オドネル家といえば貴族の中でも身分はそう高くはない。一人娘といえば世間からの目は未だ厳しいものではあるが、ここ近々はそう珍しくもないようで気にも留められていなかった。故に彼女は、女性として生まれてきたことに負い目を感じることもなく、両親に愛され、持ち前の愛嬌で王家にもよく出入りをしていた記憶がある。


 彼女の母も絵に描いたような綺麗な女性で、細く艷やかな金色の髪は母親から、宝石のように明るく煌めく瞳は父親から譲られたものだろう。レディ・モードは両親の"良い所"だけをとって生まれてきたかのような、それはそれは端正な容姿をしている。


──そんな彼女が、私には密かに憧れだった。


 一方の私はというと、代々"処刑人"を受け継ぐ家系の長女である。下には妹もいるが、男児には恵まれなかった。家を継いだのは勿論長子である私だが、世間からは手酷く冷遇された。


 王家に召し使えている身からして、お金に困ることはない。あくまでジーヴァスは貴族である。だが、人を殺すことを生業としている家系故、遠巻きに噂されることは少なくはない。加えてそれが女と来た。

 国のために人を殺しているのに、人を殺すことに国は白い目を浴びせる。父は冷遇されることに耐え切れず、若くして精神を病んだ。私が家を継いだのは歳が二桁になるかならないのかの、年端もいかない年齢だったこともまた、世間の風評に拍車をかけていた。


 そんな私にも、彼女は他人と変わらず接してくれた。


 それは、お世辞にもいいものとは言えない。レディ・オドネルは幼い頃から自身の容姿や愛嬌の良さを自覚し、傲慢で、我儘で、常に周囲を見下し、貶していた。自分は神に愛された子で、他人はあくまで人生におけるスパイスなのだと、絶対的な自信を持ち合わせていたのだ。──それが、自身の母親でさえ。


 例えそのような態度だったとしても私は"他の人と同じ扱いである"ことに依存していた。きっと、今も依存している。まるでそれは自分が人間として認められたかのような、他の人と同じ、普通であるかのような──そんな、筆舌に尽くし難い快楽を覚えている。


 彼女と出会った時の感動を、興奮を詳しく書きたい所だが、生憎時間がない。それはまた後日として、本題に移ろう。


 私は、レディ・オドネルの特別になりたい。

 私は、レディ・オドネルを殺したいのだ。


 人を殺すことを王から許されているのは我が家系を継いだ者のみ。つまり、父が引退した今──この国では私だけに許された"特権"なのだ。彼女をどうにか手にかけることが出来れば私は、特別になれる。

 それに気づいた時、この家に生まれたことを、生まれて初めて感謝した。感謝する機会を与えてくれたレディ・オドネルにも感謝を。


 毎日殺す機会を伺っていたが、流石に私欲で殺すとなれば私も罰せられてしまう。冤罪でも吹っ掛けてレディ・オドネルを罪人に仕立て上げることも考えたが、失敗した時のリスクが大きすぎる。二度と手にかけられないかも知れない。


 そんな悶々としていた悩みは、彼女──レディ・オドネル自身の言葉で晴れた。


 確か話のきっかけは些細なことで、過去の話を根掘り葉掘り掘り返し、次第に「うるさいブス」だとか「お前は傲慢だ」とかの貶し合いになった気がする。頭に血が上っていたのであまり覚えていない。


 しかし、その最中。

 彼女は確実に、私にこう言い放ったのだ。


「わたくしはね、あなたなんかよりもずっとずっと美しいの。世の中ハロー効果っていうものがあるの、ご存知かしら?ハローって言っただけでブスは馴れ馴れしいと嫌悪感を抱かれ、わたくしのように美しい人は挨拶も出来る良い子だと褒められる」


──ブスはブスに生まれてきたこと自体、罪を背負っているんですわ。


 そこで私はあることに気づいた。彼女の自信は愛嬌ではなく、完全に、完璧に、完膚なきまでに、容姿でのみ成り立っているということに。そして──レディ・オドネルに完全な死を与える方法を。

 まるで世界に色がついたかのような、一生分の重荷が全て落ちたかのような……神に反抗し、抑えつけたかのような。そんな、最高な気分だ。


 私は女神を絶望させ、畏怖させ、死に追いやることが出来る。これはこの国で唯一私にだけ許された"特権"なのだ。


────嗚呼、王がお呼びになっている。


 また、"新しい法"に関することだろうか。折角の良い気分が台無しだ。だが、邪険にするわけには行かないだろう。

 浮ついた気持ちを胸中のオルゴールにそっと隠し、向かわなければならない。蓋を開ける際にオルゴールの音を鳴らしてしまわないように、気をつけて。王にどうにかしてこの案を認めて貰うためには、仕舞いはすれど出す必要など、ないのだから。


──最初の罪人に、モード=オドネルを。

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