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キューブ  作者: 夢野亜樹
3/7

過去 有馬

あれから3週間がたった。大学は中間テストが毎週あり、バイトもクリスマス前に急に彼女が出来たってことで休んだやつの代わりに僕が入ることになったのでそこそこ忙しかった。僕もクリスマス前に彼女が出来た男の1人なのだが、彼女には電話をかけてもメールを送っても出ない。クリスマスプレゼントにと思って買った、ラッシュのバスボムはバイト用の鞄に入れたままだ。



クリスマスが終わり、テレビCMでは大晦日のものに切り替わっていた。ハローウィン、クリスマス、お正月、バレンタイン…とイベントがいつでもあって世の中は忙しい。部活をやっていた頃。よく監督から「切り替え、切り替え」と言われることがあったが日常生活でも切り替えは必要なものであるらしかった。僕は切り替えが苦手な方だ。試合で負けても、恋人に振られても試験に落ちても何に対しても本気でやって手に入らなかったら落ち込むのであった。それは数年経つ今でも変わらず、僕は高校生だった頃の敗北感のまま時間は止まっている。



常に何かを成功する自信があって、男なんだから1番を目指す!と誰にも言われていないのにそう思っていた。小学校の時サッカーとテニスと書道を習っていて、どれを取ってもそこそこな結果や表彰されたりしていた。その中でテニスはスクールで1番上手くて、これならもっと上に行けると思い中学校の部活はソフトテニスに決めた。僕の学校の地域ではテニススクールは2、3箇所あったがソフトテニスのスクールは無かった。だから皆初心者であり、努力次第でレギュラーも取れると安心していた。安心といっても怠けるということではなく、部活が終わって家に帰ると素振りをして遊歩道や公園でランニングをするのであった。その結果レギュラーも取れて1番上手くなっていた。

やがて、市の大会では優勝が当たり前で県大会で優勝するのが目標になった。しかし、その中には小学生の頃からソフトテニスをやっている人がゴロゴロいてテニスを教えられる顧問がいた。僕達の学校ではテニスを教えられる先生が居なくて、ここはこうした方がいいとかの技術面の指導はなく、ただサボったり遅刻したりすると怒るというような感じだった。だから僕は県大会では勝てなくなっていた。県大会では努力だけでは上がれなくて、周りの環境、指導者が何よりも大切だった。

高校では公立だけどテニスの強い高校に入った。そこにはオムニコートが三面ありナイター付きで先輩や顧問の先生はもちろんソフトテニスのインターハイを目指して練習していた。

僕は一年生の中では先生に相手にもされない選手だったが、1番になるという強い気持ちで練習に食らいつき、三年生が引退したチームでレギュラーを獲得した。

その後、県大会でベスト4までなれるようになったが僕達が2年になり3年生が引退すると「お前達は弱いから」ということで監督は指導しなくなり、それに反感を持った同級生は体罰があったと監督を教育委員会に突き付けて僕の環境は中学校の時と同じになってしまった。唯一の夢であったインターハイは一度も行けなくて三年生の6月に引退した。



それからまるで別の世界に放り込まれたかのようだった。学校が終わると彼女と一緒に帰って公園に寄ったり、映画を観に行ったり、彼女の家に行ったりした。それは幸せなことだった。



夏休み。部活の仲間とテーマパークに行った。進路の話や部活の話に盛り上がっている中、僕は急に吐き気がした。「ごめん、具合悪くて」といってすぐに家に帰ろうとしたが駅のホームで耐えきれず吐いた。


夏休みが終わって後期に入ったが突然に吐き気がくるのは治らなかった。夏休み中に内科に行って血を抜いたり調べてもらったのだが特に異常は無いと言われるだけ。先生が「精神科医に行った方が…」と言った時に母は怒って「他に行くんで!」と医者に強くいい病院を後にしてから僕を割れ物を触るように扱った。



家でも外でも2年も付き合った彼女の前でも僕は吐いた。僕は部活を辞めてから1ヶ月で8キログラムも痩せて身体も病人のように細くなった。

クリスマスの前日。彼女から別れを告げられた。



今まで当たり前のようにあったものは今の僕には無かった。

駅の階段を下り彼女の白い手、最後の試合を思い出しながら僕は吐いたのだった。



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