まだ知らない
初雪から一週間がたった日曜日。僕はバイトの後輩である高校生2年生の橋本千歌と焼肉を食べていた。
「明日、朝練ダルいなぁ」
「テニス部だっけ?」
「そうですよ」
彼女がカルビを取り皿に置いてニヤニヤしながら口に運ぶ。こんなに美味しそうに食べてくれてたら、少食の僕でも少なめのご飯を3杯お代わり出来そうだと思いながら、ホルモンを口に入れる。
「ホルモン食べれるんですか?」
「僕はもう大人だしね、一応大学生だし」
僕らは出会って2ヶ月くらいだからお互いのことは良く知らない。だから自分は20歳で地元の大学に通っていることを一々口にだして有馬海斗という人間を説明しながら話をしている。
彼女のクリクリした瞳、一年中日に焼けている感じの健康な肌は僕の不健康な肌色、人を寄せ付けない切れ目とは正反対だけど何となく初めて会った時から仲良くしたくなった。
「この前、ショッピングセンター行ったんだけどクリスマスフェアとか俺には何も関係のないフェアやっててうざかったわ」
「もう、12月ですもんね。有馬さんは彼女いないんですか?」
高校生1年から2年7ヶ月付き合っていた彼女に振られて、それ以来リア充という人間からはほど遠いことをカルビを焼きながら語った。
「良いじゃないですか高校生の時に充実してたんですから」
だからこそだ。だからこそ今がとても苦しんだよと喉まで出かけてやめた。あまりネガティヴな話はしたくなかったから
「まぁね」と呟いて烏龍茶と一緒に流し込む。
「私は24日、25日は余裕でバイトですよ」
「君は部活に恋愛に高校生の青春という青春をことごとく外しているね」
「はははははっ」
彼女はまだ幼いところが残る顔を広げながら遠慮なく笑った。
僕は食事に満足して会計を済ませた。
なぜだろうか。
バイトでのコミュニティの中では僕は明るく元気に振る舞えるしトークもそこそこに仕上げられる。しかし、学校では一日一言も喋らないで帰宅するのがほとんどで口を開くときは前からまわってくるプリントを後ろに渡す時に「はい」って呟くくらいだ。
その事は彼女には言わない。彼女にとっての僕は明るく面白く良い先輩であり、そうであり続けることで彼女と一緒にいたい。
店を出ると冬の冷たい風を全身に感じ心も冷えてしまった。
溶けていく雪を見ながら
「新雪は綺麗だなって思うけど、誰かが踏んだり土がついたり凍ったりするとずいぶん汚いものになるね」
少し口角を上げながら
「口説こうとしてます?」
と急な呟きにもカラフルな色を付けてくれる。
「それなら、『月が綺麗ですね』ですよ」
「前にそれで告白したわ」
「どうでした?」
「その人は文学というものが分からなかったみたい」
僕が振られたのを声に出して笑い女の子は『Love』を口にしないと不満な生き物なんです。と指導された。
しかし恋を出来てないのは認めるしかない訳でそれから彼女の家に送るまでの間散々『乙女心』というものを教わった。
「家、そこなんでこの辺で。今日はごちそうさまでした。」
「じゃあ、また。」
うーん。と彼女は僕の目を見ている。
「モテる男にほど遠いです。」
正解かを聞くように小声で
「ぐんない。。?」
すると彼女はびっきりの笑顔で
「私が恋を教えてあげます!」