突然妹が3人のイケメンを連れてきた。
ご都合主義です。
気づけばランクイン、ブクマと、本当にありがとうございます(´;ω;`)
こんな駄作ですが読んでいただいて嬉しい限りです!ありがとうございます(´;ω;`)(´;ω;`)
それは真夏の暑い日の午後のことだった。
久しぶりの仕事休みを満喫しようと、リビングのソファーでゴロゴロと猫のように寝転がっていた。
ミーンミンミンと窓の外から聞こえてくる蝉の声に嫌気がさしながらも、クーラーの効いた部屋で「つぶやいちゃったー」のタイムラインをぽちぽちと眺める。
好きなフォロワーさんのつぶやいちゃってる投稿をニヤニヤと見ていると、ガチャッと玄関の扉が開けられる音がした。正午から二時間くらい過ぎた今の時間帯は、ちょうど気温がピークで、玄関の扉が開いた分だけ蝉の音がうるさく聞こえる。クーラーが効いているにもかかわらず、「あつ…」と呟いてしまうのは仕方がないと思う。
そんなこんなでどうやら誰かが帰宅したらしい。ソファーでゴロゴロとスマホを弄っていた私は、帰ってきた家族の誰かに「おかえりぃー」と間抜けな声で言った。
と、ちょうどその時だった。リビングの扉が開き、帰ってきた人物を目の当たりにしたのは。
「…はい?」
「…あ、」
うつ伏せになってソファーに寝転がっていた私の顔が驚愕に歪む。口が開いてふさがらないとはきっとこのことだ。
なんていったってリビングに入ってきた人物は、『私の家族』という項目に所属しない、見たこともない美形だったのだから。
「え、えええ?だ、誰?」
間違えられた?家間違った?どっちが?私が?あっちが?もはや思考を上手く回すこともできない私に、入ってきた人物、背の高いやけに顔の整った男の子―――恐らく高校生と思われる―――が慌てて口を開いた。
「あ、いや、俺たち、」
…たち?
その言葉に引っかかった直後だ。
「おー桜の家でけえーな!」
「桜ちゃん凄く素敵なお家に住んでるんだね」
「ふふっ、ありがとうみんなっ!ゆっくりしていってね!」
ぞろぞろと続けてやってきたのはまたしても男、男―――どれも同じ高校の制服を着てる―――…そして我が妹だった。
「さ、桜ぁっ!?」
驚いてソファーから飛び上がると、妹はさも今気が付いたといわんばかりの表情で「お姉ちゃん!?」と高い声を上げた。なんだその声は。
その声にようやく他の男三人が私の存在をきちんと認識したらしく、「お、お姉さんいたの?」と桜に聞いている。
「ごめんねお姉ちゃん、お姉ちゃんが家に帰ってると思わなくて…」
暑かったから先にみんなをリビングに上げようと思って…とうるうると瞳を揺らしながら俯いてしまう妹になんだかこう、庇護欲が湧いてくる。いいよ大丈夫よ桜ちゃんっ、お姉ちゃん全然困ってないからね!どうせ「つぶやいちゃったー」で一通りニヤニヤした後ぐっすりソファーで寝る予定だったからね!気にしないで!
「えっと…それは別にいいんだけど、えーっと…?友達?」
「うんっ、高校でできた私のたーいせつな…」
たーいせつな…?でやけに引っ張る妹に首を傾げるが、どうやら後ろで待機させられている男3人はその後が気になるようで、妹を凝視している。怖い。
「お友達だよっ!」
語尾にハートマーク5個くらいつきそうな勢いプラスウインク付きのその笑顔にお姉ちゃんやられちゃったよ。どうやら彼らは桜と同じ高校のお友達らしい。
そっかーと軽く流すが、オトモダチ全員男ってどうなんだろう。女の子のお友達はどうしちゃったのかしら。
「じゃあ私二階行ってるから、桜たちリビング使ってていいよ」
「えっ、大丈夫だよお姉ちゃん!私の部屋にみんなを案内するから!」
え、それはちょっとまずいんじゃないの。お姉ちゃんもう社会人だからなんとなくそれは危険な気がするけど。
ほら後ろの男3人も驚いた表情だけどいいの桜ちゃん。
「桜、それはちょっとやめときなよ…」
「えーっどうしてー!?」
「どうしてって…いくら友達でも相手は男…」
「酷いよお姉ちゃんっ!どうして私の友達を否定するの!?みんな優しくて素敵な友達なんだよ?なのにどうしてそんなこと言うの!」
えええ、そんな否定なんかしてないんだけど。いくら優しくて素敵でもやっぱり男と女なわけで…と柔らかくダメな方向を進めるが、いくらいっても妹は聞かない。
可愛い子なんだけどこういうとき頑固だからなぁと頭をカリカリ掻く。するとどうやら私のほうに助け舟が出港したようだ。
「小崎さん、お姉さんもそういってることだし、リビングで遊ぼうよ」
そう言ってくれたのは最初にリビングに入ってきたあの男の子。おお空気が読めるではないか。
それに対して不満を持った妹は、プスッと顔を膨らませた。ああ可愛い。
「まあまあ、リビングのほうが広いんだから、ね、桜?」
どうにか機嫌を直してもらおうとクッキーを納戸から取り出し、桜にあげる。このクッキーは桜の大好物なのだ。それを見て桜はパァッと顔を明るくさせた。
「うんっ、お姉ちゃん大好きっ!」
ギュッと私に抱き着いてくるこの可愛い妹の体を抱きしめ返し、存分に妹を堪能した後、私はだんだんと騒ぎ始めた若き高校生のいるリビングから退出した。
二階にあがって自室に入ってから、私はベッドに飛び込んで、当初の予定通りぐっすりと睡眠をとった。
それから数週間後。
高校生は夏休みに入ったらしい。しかし社会人の夏休みはお盆からなのだ。
その日は久しぶりに残業がなく、定時の6時に会社を出ることができた。家近くの最寄り駅を降りると、どうやら近くの高校生がまだこの周辺をうろついているらしい。3,4人の派手な着崩し方をした高校生男女が楽しそうに騒ぎながら駅近くの道を歩いていた。
見たところ桜と同じ高校の制服を着ていたので、なんとなくそっちのほうをじっと見ていた。するとその中の一人と目が合ってしまった。げっ。
「おいなんだよおばさん、こっち見て」
「やだーケンジ何おばさんにナンパしてんのきもーっ!」
「まじかよお前そっちの線かよ、うける」
「ざけんなし!おいババァッ見てんじゃねぇよくそが!」
ケンジと呼ばれた高校生に絡まれ、挙句その高校生を揶揄うことでもっとうるさくなる。ああ、見なければよかった。面倒なことこの上ない。
はぁ、と小さくため息をつき、その場から去ろうと一歩踏み出したその時だった。
「おい、何関係ない人に絡んでんだよ」
どこから現れたのか、同じ制服を着た一人の茶髪の男の子が、私を守るように立ちはだかった。え、本当にこの子どっから出てきたの。
「げっ、真島先輩っ、」
「お前の素行の悪さは前々から聞いていたが、どうやら刺激が足りないようだな。明日の部活絶対来いよ」
「ひぇっ、す、すいやせん!!」
「ちょ、もう行こっ」
突如現れたイケメン過ぎる男の子の言葉にケンジと、その取り巻きたちがバタバタとその場から走り去っていく。それを呆然と見ていると、不意に助けてくれた(?)男の子が振り返った。
その男の子はとても顔が整っていて、そして、なんとなくどこかで会ったことのある感じだった。どこだったっけなぁと思い出していると、彼のほうから口を開いてくれた。
「あ、あの、間違ってたらすみません。小崎さんのお姉さんですか?」
小崎…それは私の苗字だが。とすると彼の言う小崎さんとは…まさか。
「もしかして桜のこと?…そういえば、あなた、この前家に来てた…?」
「あ、はい。真島っていいます」
真島と名乗った彼は、とても感じのいい好青年だった。
それから、また絡まれるといけないからって私を家まで送り届けてくれた。その間に桜と仲良くなった経緯や、他2人の男の子の話も聞いた。
どうやら桜はお友達だと思ってても、他3人のお友達(男)はそういうわけじゃないらしい。
真島君はきちんと明言しなかったが、時々顔を赤くしたりモジモジとかわいらしい反応をしていたので、恐らく桜のことが好きなのだろう。そして他2人の男の子たちも。
ほかにもいろんな話をしたが、彼はとても丁寧で優しい性格なのか、話をしててとても落ち着いた気分になれた。
そして家が近づいてきたころ。
「ありがとう送ってくれて。もうここで大丈夫よ」
「いえ…送りたかっただけですから」
なんて神な答え。まるで模範解答だわ。お姉ちゃんもう5歳くらい若ければ彼にアタックしてたかもしれないわね、とのんびり頭の中で考える。
時刻はそろそろ8時になりそうで、あたりは薄暗いを通り越して暗くなってくる。そろそろ彼と別れないと、彼の親御さんも彼を心配するだろう。
「部活帰りなのに、こんなおばさんの話に付き合ってもらって悪かったわ」
「そんな、別におばさんじゃないですよ、お姉さんは」
「ふふっ、そう言ってくれるととっても嬉しいわ」
「…っ、あ、あの、」
「ん?」
少し顔を赤らめながら意を決したようにこちらを見る。なんだろう暑いのかな。日中よりは涼しくなったけど、夜もまだ暑いし顔が赤くなるのは仕方ないか。
「お名前、お姉さんの名前、教えてくれませんか」
どうやら「お姉さん」と呼ぶにはまだ恥ずかしいらしい。まあそうよねぇ、年頃だし、片思いしてる子の姉に対して「お姉さん」って言ったら「お義姉さん」って感じに変換されちゃうものね。
「雪乃よ。小崎雪乃っていうの。よろしくね」
「え…っと、ゆ、きの、さん」
「やだなんだか照れちゃうわね」
彼もなんだかんだ照れてるのか少し俯いている。こういう初心な男の子好きだわ。あーあ、もう少し私が若ければなぁ。
職場の人間を思い出せばそういう初心なやつはいないなと思う。
「真島君、これからも桜のことよろしくね」
そしてあわよくば我が義理の弟になることを願っておるぞ。
そんな意味を込めてにっこりと笑うと、彼はまた照れて顔を赤らめた。
年下の高校生に送ってもらうという貴重な体験をした、これまた数週間後のことだ。
ようやくお盆休みに突入し、おうちでのんびりと過ごそうとしたときに、スマホにメッセージが届いていた。同僚の女友達から海に行こうと誘われていた。
えー面倒だなぁと思っていたが、夏の誘惑に負け、次の日、私と同僚の男女4人で隣県の海に出かけた。
テントを立ててくれた同僚の立花に礼を言い、女友達ともう一人の同僚(男)―――ついでに言えばこの二人は付き合っている―――が海で遊んでいる間、私と立花がテントの見張りをしていた。
彼、立花と私はもちろん同期の友人で、飲み会でもよくしゃべる仲だ。彼はいろんな知識を持っているから話題が尽きることなく、話していてとても楽しい。しかもそれなりに顔が整っているのだから女性社員にモテる―――その分だけ私へのやっかみが強いのだが―――。
「その時の部長の顔は笑ったよ」
「でしょうねー、そんなこと言われたらたとえ酔ってても覚えてるんじゃない?」
「うわぁ、連休明け怖いなー」
ケタケタと彼と喋っていると、不意になんとなく聞いたことある声が遠くから聞こえた。なんだろうと思って、身をよじりながらそっちのほうを見ると、高校生と思われる若い男女が楽しそうにビーチバレーをしている。
「いいわねー若い子たちって」
「ん?ああ、あれか」
「そうそう。ビーチバレーなんかもうできないわ」
「そうか?試しにやってみる?」
この野郎殺す気か。この暑いサンサンと太陽が焼いている中でビーチバレーなんかやってられるか。テントとはシェルターである。
そんな意味を込めて全力で断ると立花はつまんなそうにケッといった。うるせ。
「そういえば小崎って妹いたよな」
「うん、可愛いの。見る?うちの可愛い妹見る?」
「そう言われて見せられたの何回目だと思ってる」
「新しく追加したのよ!ほら見てよかわいいでしょっ」
この前会社の同期に見せると言ったら素敵なカメラ目線をもらった。なんてサービス精神の高い妹なのだろう。お姉ちゃん心配だよ。
スマホを立花に見せつけると彼は嫌そうにはするがちゃんと見てくれる。
「あーかわいかわい、かわいーねー」
「何よそれ、本当に思ってるの?」
「思ってる思ってる。ふっっっつーにかわいー」
「普通に可愛いってどういうことよ」
ふん、もう見せてやんねーとそっぽを向くと、何故か頭をポンポンと撫でられた。解せぬ。
それにイラッときて彼の腕をつかんだ時だった。彼の顔が意外と近くにあることに気づいてしまった。目の前には彼の整った顔。一瞬息するのを忘れてしまった。
ジッと彼の顔を見れば、本当にきれいな顔をしているなと思う。まつ毛も女の私より長いんじゃないかと思うくらいだし、鼻筋も通っている。これじゃあ女性社員にモテるなぁとぼんやり考えていると、目の前の顔が意地悪く笑ったことに気づかなかった。
「なんだ?見とれたのか?」
「ああ…立花は本当に綺麗な顔をしているのね」
と膝を抱えなおしながらそう答えた。が、どうやら言われなれているであろう言葉に彼は照れたらしい。ボッとそれこそ太陽に焼かれたんじゃないかと思うくらい顔を赤くした。
もちろんそれを間近で見た私もびっくりしたのだが。
「え、なに今更照れてるの」
「うるせーこの無自覚女」
「はぁ?」
膝を抱えだした立花にそろそろ不信感を抱いていたちょうどその時だった。
バサッと上から何かが私の頭に落とされた。え、と思った瞬間に立花でも私の声でもない別の声が上から降ってくる。
「雪乃さん、お久しぶりです」
それは私のことか、いや私だよね!驚いて上にかぶさってきたものを払いのけながら見上げれば、なんとそこにはあの真島君が。心なしか笑顔がきつい感じがするのは気のせいか。
ええええっと小さく叫び声をあげる私に、隣で立花がうるさいよと注意する。いやでもえええっだからね。
「ま、真島君、どうしたの。ていうかこれ何、あ、お久しぶり」
「はい。小崎さんたちと海水浴に来てて。まさか雪乃さんに会えるとは思ってなかったです」
そういえば桜も海に行くとか行かないとか言っていたような気がしないでもない…。なんだか最近真島君とよく会うなぁと思っていると、横からおい、という声が聞こえてきた。ああごめんごめん。
「妹の同級生でお友達の真島君だって。真島君、彼は私の会社の同期の立花」
「あ、どうも…真島って言います」
「礼儀正しいいいやつだな、よろしくー」
立花もなんだかんだ気に入ったようだが、やっぱり少し警戒しているみたいで表情は硬い。高校生相手に何を警戒してるんだか。
だがそれは真島君も同じようで、ちょっとだけいつもとぎこちない感じがするのは気のせいだろうか。まあ、会ってちょっとの私じゃ彼の何もわからないんだろうけど。
「えと…お二人は付き合ってるんですか?」
が、思いもよらない攻撃が真島君から繰り出されてしまった。なんたることよ。今の発言ほかの女性社員がいるところで言われなくてよかった。言われたら私次の日から会社の扉開くのにいちいちビビることになるわ。
「まっさかー!立花と私?ないない。さすがに立花はないね」
「おい失礼な。俺ほどお前に適したやついないだろ」
「よく言うわー同期のくせにオバサンいうのはどこのどいつよ」
「関係ねぇだろバーカ」
全力で立花との恋人説を否定すると、真島君は少し安心したような顔をした。まあ安心するだろうな…将来自分の義理の兄がこんな奴だったら嫌だろうし。
そんな失礼なことを考えているとわき腹をつつかれた。ひゃぁセクハラ。
「あ、っていうかこれ何?上からかぶさってきたんだけど」
先ほど真島君の登場とともに上から降ってきた布?をつかむと、それがパーカーということに気づいた。少し大きめなので男性用なのだろうか。もしかして飛ばされたやつかな?と首を傾げていると、「ああそれは」、と真島君が口を開いた。
「それは俺のです」
「え?」
「雪乃さん、テントから背中少し出て、そこだけ日に焼けそうになってたから」
なんと彼はそんなとこまで気にしてくれたらしい。海水浴に行くから日焼けは避けて通れない道だから、パーカーも何も持ってこなかった女子力皆無な私に、彼はどうやら女子力を運んできたようだ。なんて天使で神様なんだろう真島君。
「ありがとう、全然気づかなかったよ」
「いえ…それに水着で肌が…」
「え?」
「あ、いやなんでもないですっ」
「そう?」
いやちょっと待てよ?これ真島君のパーカーってことは彼はいまパーカーを着ていないってことで…。まずチラッと立花のほうを見る。彼は上半身にパーカーを着て前を閉じていない。そのせいかチラチラと割れた腹筋が見える。
そして再び真島君のほうを見れば。
「…ぅぉ…」
思わず声が漏れるほど男の子な体つきをしていた。なんてすばらしい男子高校生。変態ではないが若干変態の沼に足を突っ込みそうになっている私を真島君は心配そうに見ている。隣の立花は隠そうともせず「変態」と呟いていた。黙れ立花。
そんなこんなで三人で話をしていると、遠くから桜の声が聞こえた。どうやら真島君を呼んでいるらしい。
桜からは私たちの姿が見えないのか、真島君しか目に入っていないのか、どちらにせよ私の存在には気づいていなかった。
桜に呼ばれた真島君は、「じゃあこれで、またお会いしましょう」と最後まで礼儀正しくその場から去っていった。
そして後で気づく。このパーカーどうしよう。
それから数日経って、お盆休みがラストスパートをかけ始めた今日、再び妹があの3人のお友達(男)を連れてきた。
私が遠慮してリビングから出ていくと同時に、パシッと私の腕を誰かが掴んだ。
え、と振り返ると、ニコニコと絶やさない笑顔を浮かべている男の子がそこにいた。なんだろうこの子ちょっと不気味なんですけど。
目をパチクリさせながら彼に「なんでしょう?」と冷静に聞くと、「ちょっとそこに座ってほしいなぁ」と私に命令してきた。あれ、この家って私の家族の家だよね?
そんなことで喧嘩するわけにもいかず、仕方なくソファーに座ると、目の前に桜とその笑顔の赤っぽい髪の毛をした男の子、それから元気いっぱいそうな金髪の男の子が座り、その横に静かに真島君がたっていた。
真島君はこの状況に不安か何かを抱いているのか、明らかに戸惑ったような表情をしている。しかしそれとは反対に、赤い髪の笑顔の男の子は静かに怒りを瞳に孕ませていた。もちろんその隣にいる金髪の男の子も怒ったような不機嫌そうな表情をしている。え、なんで怒ってるの。
あまりに唐突な展開に驚きを隠せない私は、チラ、と桜のほうを見た。するとビクッとこっちを見ておびえている。え、桜ちゃんなんで怯えてるの。
「えーっと、君たち遊ばなくていいのかい?」
「それよりもこっちのほうが優先だ!」
元気よく大きな声で返してきた金髪の男の子にびっくりする。
ええ…私怒らせるようなことしたかな。もしかしてさっき差し入れにと思って渡したお煎餅が口に合わなかったとか?でもそういう文句言う人って部長だけかと思ってたんだけどなぁ…。
原因がわからず疑問符で頭がいっぱいな私に、赤髪の男の子が笑いながら答える。この子怖いんですけど。
「単刀直入に聞くね、桜ちゃんのこといじめてるの?」
「………はい?」
え、パードゥン?もっかい言ってほしい。いやでもリピート。え?いじめ、え?私が?桜?を?
「ちょ、レオ、何言ってんだよ」
これには真島君も驚いたようで、赤髪の彼―――レオ君というのだろうか―――彼に声を上げている。しかしレオ君は真島君の声など聞こえていないかのように無視をした。ええ…そこは聞いてほしかった。
「いくら妹が可愛くて自分がそんなに可愛くないからって、僻みのいじめほど醜いものはないよ」
「……は、はあ…そうなの…」
お姉ちゃんよくわからないけど、どうやら年下の男の子に説教を受けているらしい。説教されるようなことした覚えはないのだけど。
っていうかいじめって何?え、桜、いじめ?
「桜いじめにあっているの!?
そこでようやく状況を理解した私は、リビングのテーブルをバンッとたたき、勢いよく立ち上がった。それに目の前の3人は驚いて肩を躍らせる。
しかしそんなことに構っていられるほど私は冷静ではなかった。
「誰ようちの可愛い桜ちゃんをいじめたやつは!ここに連れてきてちょうだい!」
これは大変だ。裁判だ。立花呼んでフルボッコにしてもらおうかしらそれとも…と物騒なことを考え始めた私に、怒号が聞こえた。
「ざけんな!!なに勝手に話をすり替えようとしてんだ!!てめぇが桜をいじめたんだろが!!」
「………は?」
その大きな声にびっくりはしたが、それ以上に言われた内容に驚いた。え、私が桜をいじめてる?さっきも同じようなこと言われた気が…って。
「え!?は!?私が!?なんで!!」
「だからあんたが桜の可愛さに僻んでんだろって!」
「桜に僻み?なんでよ、桜が可愛いのは当たり前じゃない」
何を言ってるんだる彼らは。桜に僻めるほど私自分の興味があるわけでもないし、ましてや自分の妹に嫉妬心燃やすほど心は狭くないつもりだ。
でも無意識のうちに桜を傷つけている可能性も…
「桜の教科書破ったり、カバンに煙草入れたり…!」
ないな。その可能性はあり得ない。
「いやいやいやいや、君たち、なんでそれの疑いが私にかかるわけ。どう考えても家族関係ないじゃない」
「桜が登校してカバンを開けたらそうなってたんだ!どう考えても家の人間がやるしかできねぇだろ!」
…まあそれは確かに一理あるだろうけど…。いやでも待って。教科書?煙草?
「…桜、」
「ひっ、な。何…?」
「ちょっと、桜ちゃんに何する気だよ」
ス、とその場から立ち上がり、桜のほうへ向かう。真島君が私のことを不安そうに見つめていた。しかしそんな視線に私の視線を返すことをせず、ただ桜だけを見つめる。
そして桜の前まで来て――――
「…ごめんねえええ桜ちゃんんんんんんっ!!!」
と全力で土下座をした。
「…え?」
姉の突然の土下座に誰もが凍り付いたように固まった。
それがチャンスだと思い、私はそのまま早口で土下座の訳を説明した。
「この前教科書の上にお湯をこぼしちゃってボロボロになったから、代わりに私の高校時代の教科書にすり替えたの!!」
あれは本当に運が良かった。いや今のこと考えると不運というべきか。私が高校生の時使っていた教科書が、運良く変わらずに今も使われていたようで何も考えず、そっと私の教科書を桜のカバンの中へ入れた。
しかも名前は「小崎」としか書かれていない。もっと言えば私と桜の字は似ているので、本人たちが間違えるのは仕方ないといえよう。
「つまりあの破られた教科書っていうのは…」
「ずいぶん前のものだったから古くなってて破れてたみたい…」
ごめんねてへぺろ。
「じゃ、じゃあ、あの煙草は…っ」
「あれも申し訳ない…この前私は見たの…お父さんが自分のカバンと間違って桜のカバンに煙草を入れたの…あれ酔ってたから…」
「…つ、つまり…これは事故、だと…」
「そう…あああ桜ちゃんごめんね!それで嫌な思いしちゃったのよね!!ごめんんっ!」
盛大に桜を抱きしめるが、まだ桜の体は強張ったままである。それをなんとか解きほぐそうとぎゅうぎゅうと彼女を強く抱きしめると、不意にすごい力で振り払われた。
え、と驚いて彼女の顔を見ると、まるで般若のような表情で睨み付けれた。
「なんっなのよ!!せっかくやっとお姉ちゃんが私に攻撃してきたと思ったのに!!!」
「…さ、桜ちゃん?」
「お、おい、桜?」
急に大声を張り上げた桜に私も赤髪の男の子も金髪の子も、そして真島君も驚愕の表情を浮かべる。しかし桜だけがこの場で誰よりも活発に表情を豊かにさせていた。
「いっつも私を甘やかすだけで一切嫉妬とかしてこない!なんなのよ!お姉ちゃんそれでも女!?」
ぐはっ、まさか妹から女かどうかを疑われるなんて思ってもみなかった。地味に痛い急所を刺されお姉ちゃん瀕死状態です。
でもどうやら桜は私のことがお気に召さないようだった。そんなひどい。
「それに真島君だって!私の家に来てるのにずっとお姉ちゃんのほうばっか見てて!この前の海でもずうううっとそっちにいたじゃない!」
「え、桜気づいてたの」
「気づくに決まってるでしょ!!お姉ちゃんだけよこの鈍感女!!」
グサグサと突き刺さる鋭い言葉にこれは誰だとさえ疑問が浮かんでくる。その疑問はどうやら私だけじゃないようで、さっきまで桜を守るべく立ちはだかっていた男2人も固まって喋れないでいる。
「あああっもう、腹立つ!!お姉ちゃんなんか嫌い!!」
「えっ、桜ちゃんそんなひどい!私桜ちゃんのこと大好きなのに!」
「ほらそうやって!!いっつもいっつも…っ!!」
なんと挙句の果てには可愛い妹は涙を流してしまった。怒りながら泣きじゃくる姿は随分昔に見た桜の姿と重なって見える。
もしかしたら桜は小さいころから変わってないのかもしれないな、と思った。わがままでちょっと怒りんぼな小さいころからずっと。そう思うとなんだか最近の桜よりどうにもかわいく見えてしまう。これは年のせいなのかしら、とちょっと心配になる。
「はいはい、ごめんね桜。でもお姉ちゃん桜のこと大好きだから怒れないよ」
再びぎゅっと抱きしめて、甘やかすように背中をぽんぽんと叩いてあげる。するとヒグッヒグッと嗚咽を上げて泣き始めた。これは本格的に泣くなぁとぼんやりと考え、背中に回された手の温かみを知る。
桜は変わってないなぁ、と呟くと「うるさい」と小さく言われた。
どうやら最近は頑張って背伸びをしようと彼氏づくりに必死になっていたようだ。それで最近うっとうしくなった姉に痛い目見てもらおうとしたのだとか。
なんと可愛い妹だろうか。まだまだお子ちゃまな妹の涙は結局夕方になるまで止まらなかった。
後味が悪くなったのだろう、いつの間にか赤髪の男の子と金髪の子は2人して帰っていった。しかし、真島君だけは「少しコンビニに行ってきますね」と言っていたのでまたこっちに来るつもりなのだろう。
真島君が返ってくるころには、桜は泣き止んでいてソファーの上で眠っていた。
「驚きましたよ、学校とは全く違う小崎さんが現れて」
「ふふっ、桜も学校では頑張ってたのねぇ…」
よしよしと眠る妹のさらさらの髪を撫でる。
「真島君、こんな妹でも友達でいてくれるの?」
「…俺は、本当は彼女の友達でも何でもないんです」
「…はい?」
え、今日って何。衝撃の日とかでもあるの?あ、もしかして友達じゃなくて片思いの人なんですとか?そうだよね?そういう雰囲気になってるはずだよね!?
「…彼女に連れまわされて…最初にこの家に来たのも、無理やりな感じでした」
「ああ…そうなの…」
ああ違った。神よ、今日は13日の金曜日か何かだったかな。
「でも俺、着飾ってるよりもさっきみたいに本当は雪乃さんのことが大好きっていう小崎さんのほうが親近感持てました」
「そう…よかった」
「…本当は、今日来たのは、小崎さんと遊ぶためじゃないんです」
「…?」
不意に何かを決意したような面持ちになる。この顔は、そう確か、私の名前を聞いた問いと同じような、頑張ろうとしている顔。
なんだろうと小首をかしげると、彼は若干顔を赤くしながら、口を開いた。
「俺…俺、雪乃さんのことが、」
「んん…お姉ちゃん…」
「あ、桜、起きた?」
もぞっと動いた妹に思わず目が行ってしまった。どうやら浅い眠りだったようでほわほわとした声で私を呼んだ。可愛い。なんてかわいい生き物だろう。可愛い。
でれーっと鼻の下伸ばしていると、ハッと気づいた。やべ、なんか真島君が言おうとしていたような。バッとそっちを向くと、彼が壁に向かってうなだれていた。
「ぎゃあああ真島君ごめん!聞いてなかった!なに!?なんだったの!?」
「いえ…いえ、何でもないんです…どうせ俺なんて…はい…」
「凄い自信を無くしてる!ごめんね!ごめん!!」
「もういいです…俺、そろそろ帰りますね…」
そそくさとリビングから出ていく彼の後を追いかける。その間も彼の背中は丸まっていた。申し訳ない。
見送る、というと玄関で大丈夫ですと言われたので適当なサンダルを履いて外の玄関まで向かった。やはりまだ項垂れているらしい。―――仕方ないなぁもう。
「それじゃ、また、」
「――――年齢気にならないくらいメロメロにしてくれたら、付き合ってあげるよ」
「……え?」
「ほどほどに期待して待ってるからね」
「…え、ええ、あっ、雪乃さ、」
「じゃあ気を付けてねー」
ばいばーいと笑顔で手を振ると、真っ赤な顔で自然に手を振り返してしまう彼がどうしようもなくかわいく見えてしまう。そしてそれに気づいた時の焦った顔にも。
クスクスと笑う私に、彼は大きく息を吸った。
「っ、絶対に、メロメロにさせて見せます!」
「ふふっ、頑張ってね」
安心なさいな、もうだいぶ、それに近いものにはなってるから。
その日はとても熱かった。
雪乃お姉ちゃんは桜ちゃんが大好きです。
桜ちゃんも本当は素直になれないだけで雪乃お姉ちゃんが大好きでしょうがないんです。
【登場人物】
・小崎雪乃25歳
社会人3年目。ものすっごいシスコン。桜ちゃんラブ。仕事はできるタイプ。ミディアムヘアをいつも縛らずに流している面倒臭がり。なんだかんだモテるのに気づかなかったり面倒臭かったりで彼氏が高校時代からできていない残念な女子。
・小崎桜17歳
高校2年生。本当はシスコン。お姉ちゃん大好き。わがままぷーなお姫様系女子。女子に嫌われるタイプ。いじめられるたびにお姉ちゃんがやっつけていた。お姉ちゃんイケメン。最初に真島たちを見たときロックオンした。
・真島17歳
高校2年生。バスケ部。さらさらの茶髪で身長が高く、見た目はクールな感じ。でもすごい初心ですぐ顔が赤くなる。年上のお姉さまからモテる。柔らかく笑う雪乃に一目惚れする。これから頑張れ。
・立花25歳
雪乃と同じ会社の同期。雪乃のことが好きだが、脈がないことを知っている。何とかして振り向かせようとするが。・・・・・申し訳ない。
・レオ 17歳
赤髪のいつも笑ってる裏がありそう系男子。純粋無垢な桜に惚れるが、姉への態度の変わりように驚き去っていく。
・金髪17歳
オラオラ系男子。脳の中まで筋肉なタイプ。後は上のレオを同じ。
こんな感じです。「これ変じゃね?」ってとこあったら教えてください。
誤字脱字直していきます。