第5章 飛行船を手にいれろ(1)
満月の夜。
暗黒街の一角で、ランプを持った傭兵がぶらぶらとレンガ通りを歩いている。この道をまっすぐ行けば、闇の賭博場へ到着だ。傭兵と言っても、普段身につけている薄手の革鎧は脱ぎ捨て、今日は紳士風のダークスーツでばっちり決めている。
「これは……予想以上だな」
壮年の傭兵、ギルバートは年甲斐もなく息をのんだ。
黄金の光に包まれ、もはや城と呼んでも過言ではないほどの威厳を持つ巨大な建物が目の前にそびえたっている。盗賊や悪人、罪人たちが集まるこの街において、闇の賭博場は最高級の遊び場だ。
「覚悟はいいかギルバート、俺達は億万長者になるぞ」
誰もいないギルバートのそばで、力強い青年の声が響き渡る。
「金を稼いで、魔王様に最高級の飛行船を献上するんだ」
ギルバートが持っているランプにおばけのような顔が映し出され、ゴゴゥと火が燃え上がった
慌ててギルバートが胸ポケットからハンカチを取り出して、ランプをバンバンと叩き、なんとか火を鎮静化する。
「頼むから、目立たないでくれ」
困り顔のギルバートを見て、ランプに宿った悪霊アース・フリントは「そうだった、すまない」と素直に謝る。
(頼んだぞ……本当に)
ギルバートは気を取り直し、ネクタイをぐっと締めると光あふれる賭博場『明日の希望』へと足を踏み入れた。
いまから二人は、勝負を仕掛ける。
*****
「おい、あいつすげぇな。もう10万ガラン稼いじまったぜ?」
「ほんと。ツイてるわね。殺したいくらいイイ男……」
賭博場の中は赤いじゅうたんが敷き詰められ、着飾った紳士淑女が美しいグラスを手に賭け事を楽しんでいた。流れ者も多く集まる街だからなのか、どう見ても浮浪者にしか見えない者たちもいるが、巡回している屈強なガードマンにつまみ出されていく。
その一角に、人だかりができていた。
ゲームの行方をじっと見つめ、驚嘆とため息が入りまじる。
「勝負だ」
その中央にはギルバートが座っていた。ブラックジャックのテーブル。
山積みにされたチップを得意げにディーラーへと差し出し、ディーラーがそれに応じて手元の2枚のカードをオープンした。
10と7のカード。
ギルバートは首を横に振り、手元のカードをゆっくりと開ける。
――10と8。
1点差で、ギルバートの勝ちだった。
わっと歓声が起き、チップの山が2倍に膨れ上がる。
(いいぞ、俺達は最高だな)
ギルバートはディーラーの後ろに置いてあるランプに向かってウインクをした。
ランプのガラス戸が勝手に開き、まるで『当然だ』とでも言いたげに、勝手に閉じた。
大敗した青二才のディーラーが汗だくになり、「もうひと勝負、やりますか」と言いかけたとき、真っ赤な口紅の妖艶な女ディーラーが、「悪いけど、代わってくれる?」と青二才の肩に手を置いた。
「は、はいっ!」
青二才は慌てて席を譲り、女ディーラーがギルバートの正面にすっと腰をおろす。
「今日は暑いですね」
女ディーラーは胸のリボンをとって、ボタンを外した。白く豊満な胸のふくらみがちらりと顔をのぞかせる。
「ふふ、マーサです。よろしく」
「お手柔らかに」
ギルバートは肩をすくめて挨拶をする。
胸に目が行くのを、なんとか我慢して。




