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第4章 魔王の城の衛兵(5)

「将軍たちは私の存在を『窮屈(きゅうくつ)』じゃと思っていたんじゃろう」


難しい顔をしたリリンに魔王が微笑みかける。


「今でこそ将軍たちは大人しくなったが、元々は乱暴でかんしゃく持ちばかりじゃ。できる限り戦いを避けようとしていた私のやり方にはいつも不服そうな顔をしておったのぅ」

「そんなはずは……」


リリンは銀色でほっそりとした眉を寄せてつぶやいた。

魔王はもう1個ぬいぐるみを取り出して、ギルバートやゴードンのぬいぐるみのそばに置いた。それは金髪を短く切りそろえたボーイッシュな女性のぬいぐるみだった。リリンにはそれがベセルだとすぐにわかった。胸にはハート形のバッジがついている。


「……ベセルは今回のことと関係ありません!」


動揺したリリンはテーブルの上からベセルのぬいぐるみを取ると、ぎゅっと自分の胸に抱きしめる。

魔王は「ククク……」と微笑んだ。


あやつら(・・・・)、いまは『ベセル』という名なのか」

「……どういうこと?」

「見るがいい。その女の正体を」

「え?」


リリンの中にあったベセルのぬいぐるみが燃え上がり、ドロドロと溶けていく。やがてそれは骨がところどころ突き出た腐った肉体に姿を変えた。目玉はこぼれ落ち、灰色の(うじ)が肉体に群がっている。


「キャアア!!」


リリンはその肉塊から手を離し、飛びのいた。地面に落ちたその肉塊は、べしゃりと粉々に砕け散る。


「よく見るがいい」


魔王は黒いドレスを揺らしながら肉塊のそばまで歩いていく。


「そいつに名はない。かつて私が幼少の頃に戦った一族のなれの果てがなぜか生き続け、ひとつの化け物になったんじゃ。こいつは周囲にいる者たちに白昼夢(はくちゅうむ)を見せ、夢を現実だと錯覚させる。まるでそれが真実かのように思い込ませるんじゃ。リリン、お前は狙われたんじゃよ。心を読む力を逆に利用されたんじゃな」


魔王はそのほっそりとした指をググッと握りこんだ。地面に広がっていた肉が一瞬にして、煙となって消える。


「さて、次はお前の番じゃ。リリン」


リリンの手の中には、ハートのバッジだけが残っている。

先ほどまで『ベセルだったもの』が身に着けていた、ハートのバッジだけ。


「すべて、話せ」


魔王はリリンに、ベンチに座るよう促した。

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