第4章 魔王の城の衛兵(4)
太陽が頭上を横切り大地に沈もうという頃、魔王はベンチに横たわり、退屈そうにあくびをした。
「もう寝る時間じゃ」
すっかり忠実なメイドといった様子のリリンが、魔王が手の中でもてあそぶグラスを受け取り、葡萄酒を注いで魔王に渡す。
魔王はひと口葡萄酒をあおると、テーブルにグラスを置いた。
「私は夜になったら眠ると決めておるんじゃ。生活のサイクルを変えると体調を崩す。毎日日の出に起き、日が沈んだら眠りにつく。楽しいときも、悲しいときも、この繰り返しが私の心を正常に保ってくれる」
ゆらめく蝋燭の火がグラスに映る。そして、ようやく話し終えたギルバートの疲れた表情も。
「これで話すことは全部話した。約束だ。仲間たちを助けてくれ」
「急ぐな人間。あまりに長い話じゃったからな、少し整理させよ」
魔王は立ち上がり、ぐっと伸びをする。
そしてベンチに座りなおすと、両方の手を広げて、顔の前で合わせた。
「これは反乱ということじゃな」
魔王がリリンの方に目線を送ると、リリンは無反応を決め込んで押し黙る。魔王はその様子を見て、「なるほど、やはりそうか」と肩をすくめる。
「あのとき、将軍どもは共謀して私に何らかの呪いをかけ、眠りにつかせたんじゃな。どうやら効果は一時的なものだったようじゃが、その間に将軍たちは部下とともに城を抜け出し、世界各地へとバラバラに旅立っていったというわけじゃ」
ギルバートが眉を寄せ、首を横に振る。
「何の話をしているんだ?」
「お前の話から、裏側で起きていたことが透けて見えるということじゃ」
魔王は懐から小さなぬいぐるみを取り出して、テーブルの上に置いた。それは兜をかぶり、青白く輝く剣を持った傭兵の姿をしていた。可愛いギルバートと言ったところか。
「ギルバート、お前はこの近くにある国から依頼を受けたと言ったな」
可愛いギルバートの隣に、赤い豪華なローブを着た男のぬいぐるみを置く。太っちょの口ひげ。胸には『ゴードン』と書かれたバッジをつけている。魔王が話を続ける。
「ゴードンはこの国で各地を取り締まる管理官をしている。国王とも近しく、話ができる関係じゃ。じゃが、話を聞く限り、お前と仕事をするのは初めてだった。そうじゃな?」
「ああ、話くらいはしていたが、仕事は初めてだ。『魔王を倒す計画』を持ちかけられた」
「『太陽の花』計画じゃな。お前は私をつけ狙う一族のひとりじゃから、『渡りに船』じゃし、まず間違いなく仕事を受けると見込まれたんじゃろう。自分の立てた計画で魔物たちの長である私を倒せたならば、ゴードンの評価もグンと上がる。では、ゴードンが本当にこの計画を立てたんじゃろうか?」
ギルバートはすぐに否定した。
「あの人にそんなことはできない。まあ、そういうことにしたいようだったから、話は合わせたがね」
「裏で動いていたのは、将軍の中の誰かじゃ」
魔王がそれを口にした瞬間、大人しくしていたリリンの目線が一瞬だけ魔王に向けられる。