第3章 人間たち(2)
管理官ゴードンと一緒に昼食を囲んで談笑していた壮年の傭兵は、自分の目を疑った。
はるか雲の向こう、青い空から、巨大な塊が落ちてきている。それはまるで大宮殿が逆さまになったような――いや、むしろその通りなのかもしれないが、とにかく街1つ分はあろうかという巨大な建造物が落ちてきていた。
「まさか、アレがそうなのか」
傭兵は立ち上がるとゴードンに急いで逃げるように言って、伝令係を呼びつけた。
「計画が早まった! 全員一本杉を囲め! 繰り返す! 一本杉を囲め!」
伝令係がうなずくとほぼ同じタイミングで、その巨大な建造物は大草原に生えた一本杉の真上に落ちた。ゴゴゴ……と大地がうなり、荒れ狂った風がオアシスの木々をなぎ倒した。
「くっ……砂が……」
風が運んできた砂と石のつぶてが次々に降り注ぎ、あまりの痛さで傭兵は顔をゆがませた。衝撃で倒れた伝令係を抱き起し、結局逃げ遅れていたゴードンを肩に担ぎ、傭兵は仲間と合流すべくオアシスの外へと飛び出した。
「隊長! エヴァンが……エヴァンのやつが……!」
ちょうどそこには、見張りのラグーがしゃがみ込んでいた。
相棒のエヴァンが横になってぐったりしている。
「倒れてきた木の下敷きになっちまったんだ。何とか助け出したけど、意識が戻らなくて……」
伝令係をおろして横に寝かせ、ゴードンを柔らかな草の上にゆっくりとおろしてから、傭兵はエヴァンのケガの具合を見る。心配でたまらないといった様子のラグーに、傭兵は微笑みかけた。
「大丈夫だ。大した傷じゃない。1時間くらいしたら、目を覚ますだろう」
その言葉にラグーは胸をなでおろす。
ラグーが落ち着いたところを見計らって、傭兵はラグーに頼みごとをした。
「ここは戦場になるぞ。ゴードンさんを戦闘域外まで連れて行ってくれ」
「わかりました!」
ラグーは二つ返事で引き受けると、ゴードンを背負って戦闘域外に向けて走っていく。
それと入れ替わるかたちで、赤い軽鎧に身を包んだ1人の青年が傭兵のもとへ駆け寄った。
「隊長、お怪我は?」
「問題ない。この二人を安全な場所まで運んでやれ。一人は木の下敷きになって重傷だ。今夜が峠かもしれん。家族には、魔王との戦闘で名誉の死を遂げたと伝えろ」
「ははっ!」
赤鎧の男は伝令係とエヴァンを軽々と担ぎ、ラグーの後を追う。
「約束の時間よりもずいぶん早いですね、隊長」
傭兵のもとへ、兵たちが次々に集まってきた。