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9◇花嫁修業

お久しぶりです。

書き終わるまで投稿しないでおこうと考えていましたが、全然進まないので今日は勢いで投稿しました。しかし、二年近くかけて一話しか更新できないとは自分でも驚きです。

プロットはあるので完結はできるはずですが、この調子だといつになることやら……


 結局あの後、ミセス堅物に言われるがまま問題をひたすら解きました。

 国や有名な各貴族の歴史や、それぞれの地域の特産品。簡単な計算や文学史、異国語、ベルマーン家が特に親しくしている貴族の家族構成やご職業まで、ありとあらゆる問題を解いて、テストが終わるころには既に日が暮れていました。


「カトリーナさん、今日はこれで終わるとしましょう。」


 問題をすべて解き終わったのを見計らって、ミセス堅物はやっと終わらせる気になったようです。

 ふう、長かったですわね。勉強は嫌いではないですけれど、正直に言って暗記はあまり得意ではありません。特に人の名前を覚えるのは苦手ですから、空欄があるのも見逃してほしいところですわ。

 私の解答用紙を確認した後、ミセス堅物はさらっと言いました。


「では、これから夕食です。もちろんカトリーナさんのマナーも見ますけれど、その間に軽く現在の社交界についても確認しますから、そのつもりでいてください」


 え? まだ私帰れませんの?




 ベルマーン家で夕食をご馳走になるということでしたが、侯爵様、つまりウィジャネスト様とお義父様は王宮でお仕事、そして弟君は領地のご視察ということで、実際には私とミセス堅物しかおりませんでした。

 ベルマーン家の前当主夫婦の不仲は有名な話で、息子達がある程度育った時点から別居状態が続いているようです。社交界にこそパートナーとして出ておりましたが、お互い目も合わせようとしない様子は私も見たことがあります。ですのでお義母様はおらず、ひとまずは平和な夕食となるはずでした。


 しかし、わたしがミセス堅物と名付けたぐらいですから、フランシス様は当然マナーにも厳しく、座る動作一つにも指摘が入り、なかなか食事を始めることもできません。食べ始めてもあれやこれと声が飛んでくるので、いくら神経が比較的太い私でも、せっかくの侯爵家のおいしい料理を存分に味わうことはできませんでした。姑はおらずとも、それより厳しい教育係がいますので、ベルマーン家で穏やかに過ごすことは難しそうですわ。


 けれど、途中でミセス堅物も指摘するところがなくなったのか少し静かになりました。まぁ、私も侯爵様との婚約を受け、家でマナー講師をつけられておりますから、酷いわけではないのです。ミセス堅物が厳しすぎるだけで。

 その代わりに始まったのは、最近の社交界での動向についてのお話と質問でした。


 と言いましても、数年前より社交は自粛され、社交シーズンでも舞踏会や晩餐会は控えめに開催されておりましたので、大きな動きはございません。


 それは私が15歳で社交デビューをはたし、その次の年の社交シーズンが始まる前のことでした。当時の国王が病に伏せられたという一報が入ったのです。幸い、既に当時の王太子に仕事の多くを引き継ぎ始めておりましたので、政治的な影響は少なかったと聞いてはおりますが、そうはいっても国としての一大事。その年の社交は自粛され、規模も小さく行われました。国王が伏せられたまま次の社交シーズンになりまして、当然引き続き自粛しての開催となり、そして新年を迎えてすぐのこと、ついに国王が崩御されました。これにより、私の18歳という花の盛りの社交シーズンも喪に服した暗いものとなりました。


 本来ならば私たち令嬢は15歳で社交デビューをした後、数年かけて結婚相手を見繕い18から20歳の間に結婚するのが一般的です。最近では女子でも高等教育機関への入学が認められましたので、そちらへ進むため結婚が遅くなったり、そのまま就職されたりする方もおりますが、一部の方の話であり、私はそれに当てはまりません。

 しかしこの度の王家でのご不幸によって慶事は後へとのばされ、未婚の私たちでも結婚相手を大っぴらに探すのは、さすがに憚られることでありました。ですから、私は19歳にもなって婚約者の一人もおらず、初めての見合いを悪魔とするはめになったのです。喪のあける今年の社交シーズンでは、御目出度い話題が多く上るだろうと言われています。

 今年は約3年ぶりの通常での社交シーズンですので、それはもう華やかなものになるでしょう。私は一度しか明るい社交界というものを見ておりませんし、今年の社交界に向けて気持ちも踊っておりました。もちろん過去形です。だってこの婚約のせいで、楽しみよりも試練や苦痛のほうが多くなっていますもの。


「そういえばカトリーナさん、今年の終幕祭については聞きましたか?」

ふいにミセス堅物が尋ねてきました。


 終幕祭とはその名の通り、社交シーズンの最後に行われる大きな舞踏会のことです。一定以上の爵位や家柄の方々が呼ばれ、社交シーズンの終わりを告げます。

 社交シーズンは夏の終わる9の月に始まり、秋の収穫が終わる11の月に終わります。新年の前には収穫を祝う収穫祭があり、それを終えるとそれぞれの領地に戻っていきます。収穫祭自体は前世で言うクリスマスに似ており、ツリーやリースを飾り、夜には親しい人で豪華な食事を囲むのです。その日は社交シーズンを終えていますが、いくつか晩餐会や舞踏会があるので、そこは各家によって過ごし方も異なります。


 シーズン中はほとんど毎日各家で舞踏会が開かれますが、やはり一番盛大な舞踏会は終幕祭でしょう。貴族でも特に高位の家が毎年順番に満月の夜に開催するこの舞踏会には、私の家は呼ばれたり呼ばれなかったり、その高位貴族との付き合い次第といったところです。

 最も今年はベルマーン家の者として参加することになるので、確実に呼ばれるでしょう。


「いえ、そういえば今年はどの方がされるのでしょうか? 順当にいけば、マーフィー公爵家でしたよね?」

「えぇ、本来ならばマーフィー公爵家のはずですが、今年は現当主の御調子が良くないそうなので、ベルマーン家が主催することになりました。ウィジャネスト達の母がマーフィー公爵家の出ですし、来年主催だった予定を一年繰り上げることにしたそうですよ」

「まぁ、そうなんですの。それなら準備も大変ですわね」

「大奥様、つまりウィジャネストの母が主だって手配する予定ですが、カトリーナさんもベルマーン家の一員となるのですから、お手伝いしていただくことになると思いますので、その心づもりでいてください」

「はい」


 聞 い て な い で す わ。

 社交シーズンで一番大きな舞踏会ですもの。準備が毎年我がハトマン伯爵家で開くものより大変なことは簡単に想像できますわ。その準備を私に手伝えと? 婚約にすら乗り気でない私に? 花嫁修業も行わなければならない私に?


「それとカトリーナさん。貴女、先ほどのテストの結果はあまりよくなかったので、お勉強会の回数を少し増やすことにしました。毎週火と金の日はベルマーン家に来るように」

「わかりました。至らぬ点も多々あると思いますが、今後ともよろしくお願いします」


 この世界での1週間は地球と同じように7日間で、きっちり5週間で1ヶ月になり、12ヶ月で1年となります。週に1日のはずが、2日も!! この調子ではまた終幕祭があるからとその準備のために週に3,4日来る羽目になりそうです。

 だいたい、ベルマーン家が親しくしている貴族の情報なんて知るわけないわ。ベルマーン家は常に中立であるようにと心がけているようですけれど、やはり、ベルマーン家を中心とした派閥がありますし、ハトマン家は違う派閥に属しているので、普段私はかかわることのない相手ですもの。


 あーー、何故婚約してしまったのでしょう、あんな悪魔と!

 こんなことなら婚約破棄してしまいたい、というかしてしまおうかしら?

 まだ社交シーズンの始まる手前、今なら婚約破棄されても醜聞は広まりにくいですし、侯爵様から破棄を申し出たのなら、慰謝料もいただけることでしょう。それもたんまりと。

 

 これは、婚約破棄してもらうしかありませんわ。

 ふふふふ。これで私も自由の身!!


「それとカトリーナさん、来週はシーズンに向けて仕立て屋を呼びますから、くれぐれも朝食べ過ぎないようにしてくださいね」

「はい、気を付けますわ」


 ラッキーですわ! 侯爵御用達の仕立て屋なんてとびきり良い服をつくるに違いありませんから、来週までは婚約破棄はお預けといたしましょう!


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